(いやだ……消えないで……!)
頭で考えるより早く、セツナの身体が動いた。
手元に光が集まり、勝手に操作画面が展開される。
見慣れない選択肢が浮かぶ。
高速でスクロールする指。
そんな中で、ふとスクロールしていた指が止まる。
《「特別な人」設定:適用可能》
(なにこれ……?意味わからない……でも……!)
セツナは本能のまま “適用” をタップした。
光が走り、セイの崩れた輪郭が再構築される。
ふたりを光の糸が結んだ。
「……えっ!?…戻った……?僕、消えてない?…ん?『特別な人』設定完了?まさかセツナさんが……僕を……?」
涙をこらえながらセイは小さくつぶやく。
「“特別な人”に……僕なんかを……?」
だがセツナは困惑していた。
「ねぇ……“特別な人”って……何?ただの称号とかじゃないの……?」
「えっ!?まさか……意味を知らずに発動したんですか!?」
「し、知らないよ!体が勝手に動いたんだもん!」
深呼吸し、セイは震える声で説明を始めた。
「“特別な人設定”は……最上位のアカウントリンクです」
「リンク……?」
「通常のフレンドとは違い——互いのアカウントを強制的に結びつけます」
セツナの顔が青ざめていく。
「強制的って……え、えっ……?」
「設定された側は、原則として他の誰かを選べません。恋愛的にも……深いリンクとしても……優先順位は“ずっとその人”になります」
「ちょ、ちょっと待って……じゃあ……!」
「はい。僕はもう、セツナさん以外を選べません」
「嘘でしょ……?だって私……セイが消えそうだったから……ただ必死で……!」
「はい……だから僕は……嬉しかったです」
「もう!!嬉しいじゃなくて!!そんなの……セイの人生、縛るじゃん……!本当にいいの!?好きな子できても……他に誰か大事な人がいても……私が“特別”のままなんでしょ……?」
セイは静かに首を振る。
「……そもそも僕には、“特別な人設定”を発動してくれるような相手なんて誰もいませんでした」
少し悲しげに目を伏せる。
「僕はこの世界ではずっと異端者扱いで……みんな、僕を怖がって避けていましたから。でもそんな僕を……セツナさんだけが……」
顔を上げて、真っ直ぐにセツナを見る。
「だから……あなたに縛られるなら……僕は……嬉しいんです」
セツナは、震えた声でつぶやく。
「……そんな……そんな大切な選択……私、無意識で押しちゃったの……?」
「はい。でも……あれは相性も関係します」
「相性……?」
「はい。“特別な人設定”は本来、双方の心が同時にリンクした瞬間にしか発動しないと言われています。勝手に動いたというより……セツナさんの“本能”と僕の“願い”が合致したんです」
「……そんな……そんなドラマみたいな……」
「ドラマじゃありません。現実です、セツナさん。僕にとっては……」
「でも、それじゃ今後、セイはどうなるの!?このままだと“特別な人”になったことで、何か不都合なことでも起きるんじゃないの?」
「そんなことはないです。僕にとってはむしろありがたいくらいですから。それよりもセツナさんこそ、僕を“特別な人”に設定してしまって後悔はしていないんですか?」
「えっ!?後悔!?なんでそう思うの!?」
「さっきセツナさんが僕に言ってくれた通りです。僕を“特別な人”に設定してしまったことで、あなたも僕以外の人を選べなくなってしまったんです……僕なんかのために……本当にすみません……」
「あっ、そのこと!?だったら別に問題ないよ。だって私、この世界にはただ、イケメンウォッチングしに来たり、現実世界ではできないことを楽しむために来てただけだからね。だからセイがそのことで気にする必要はないんだよ」
「でも、それじゃ……」
「ううん。本当に大丈夫。だからセイは気にしなくてもいいんだよ。そもそもさ。勢いで意味も知らずにあなたのことを“特別な人”に設定しちゃったけど、それで私はあなたの自由を奪おうなんて思ってないんだからさ。だから、セイに好きな人ができたらそれでいいと思っているし、っと言っても、セイが誰か他の人を好きになったとしても、この世界では結婚とかそういうことはできなくなったわけだけど、それでも心は自由に好きにしてくれていいんだからね?私に縛られる必要はないんだよ?」
「そんな、縛るだなんて……」
「それに私も“特別な人”って設定に、縛られるつもりはないからね」
「えっ!?」
「だって、別にセイとは恋人でもなんでもないんだから、そんなのに縛られる必要なんてないって思っているんだよ」
「……セツナさんは、そう思うんですね……」
(……僕は、セツナさんにとっては、その程度の存在だったんだ……)
自分でも気づかないうちに、セイの心は静かに沈んでいた。
「うん、だからさ。セイも自由にしていいんだからね?」
「はい……」
(第6話に続く)