『オッペンハイマー』9 ハンフォード4 | ヒロシマときどき放送部

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2016年広島で高校の教員を定年退職し現在は山奥のお寺の住職をしています。ヒロシマのこと、放送部顧問をしてきたことを書いてみます。

 ハンフォードの放射性物質は風の中だけではなかった。地下にも潜ってコロンビア川に流れ込み、太平洋まで汚染している。

 グレッグとシンディのディブルーラー夫妻は1983年にシアトルに移住し、そこでアメリカ先住民の人たちとの交流が生まれた。「交流を続けるうちに、奇形の魚の話を聞いたり、甲状腺障害や白血病など病気を抱える先住民が多いことに気づいた。ハンフォードや放射線のことに目を向けるようになったのはそれがきっかけなんだ」とグレッグさんは語り、「ハンフォードによる汚染の影響を最も受けているのは、流域に住む約一万人の先住民よ。彼らは毎日のように川魚を食べるし、川は生活の一部だから…」とシンディさんは訴える。二人が調べていくと、1962年にはコロンビア川の河口や太平洋岸にまで広がったストロンチウム90などによる貝や魚の汚染に抗議してオレゴン州衛生局が原子炉の閉鎖を求めていたこともわかった。

 1990年7月、科学者や地元自治体の代表でつくる「ハンフォード環境線量調査プロジェクト」が、ハンフォード核工場から大量の放射性物質が大気中や河川に排出され、1944年から4年間で周辺の住民27万人の大半が被曝したことが明らかになったと発表した。また1991年3月にはニューヨーク・タイムズが、1950年代ハンフォード核施設内の地中に大量の核汚染物質が埋められたことがアメリカ環境保護局の調査で判明したと報道している。(中国新聞ヒロシマ平和メディアセンター・データベース)

 ハンフォードでのプルトニウム生産は1980年代末に終了し、89年から除染作業が始まった。しかしハンフォードには大量の高レベル放射性廃棄物が今も残されている。中でも深刻なのが使用済み核燃料の貯蔵プールだ。1951年に作られて耐震構造になっていないし、プール内で長年貯蔵されている使用済み核燃料の入った燃料棒は腐食が進み、水中に放射性物質が漏れ出している。そしてその汚染水は施設外に流れ出し、環境汚染が現在も進行中だ。 (NHK「原爆」プロジェクト『NHKスペシャル 地球核汚染〜ヒロシマからの警告』日本放送出版協会1996)

 ハンフォードにはもう一か所、とんでもない場所がある。高レベル放射性廃液を貯蔵する177個の巨大な地下タンクだ。1994年から3年がかりでハンフォードを調査した物理学者のジョン・ブロディアさんが証言する。

 

 「百七十七個のタンクのうち、四三年から六四年までに造られた百四十九個は一重の炭素鋼でできている。一番大きいタンクは百十万ガロン(約四百二十万リットル)。そこにプルトニウムの再処理過程で生まれたセシウム137やストロンチウム90など高レベルの放射性廃液が貯蔵されてきた」

 これら百四十九個の一重タンクのうち、すでに七十二個のタンクから廃液が漏れ出しているというのだ。(中略)

 タンク内には硝酸塩、フェロシアン化物などの化学物質も多く含まれ、水素ガスも出ている。核分裂による熱や化学反応によって、タンクが爆発する可能性もある。「ハンフォードの地下にチェルノブイリを抱えているようなものだよ…」とブロディアさん。(「中国新聞」2002.2.24)

 

 いつになったらハンフォードが安心安全な場所になるのか、その見通しは立っていない。これがマンハッタン計画の私たちへの置き土産だ。