核の先制攻撃で目標となるのは、ミサイル基地、飛行場、軍港、レーダーサイトなどの軍事施設や司令部のある都市が主となるだろう。相手に最初の一発を撃たせないためだ。だったら広島市などは助かると勘違いしてはいけない。複数の軍事施設を完全に破壊するため、多数のミサイルで地表(あるいは地中貫通)爆発をさせたら、膨大な量の放射性物質が地球全体を覆ってしまうのだ。
2023年8月、NHKの「クローズアップ現代」は、北東アジアで核兵器が使われたらどうなるかという長崎大学などによるシミュレーションを紹介した。その事例の一つは、北朝鮮が韓国の上空で10キロトンの核兵器を爆発させ、報復としてアメリカが北朝鮮の2か所の地下軍事施設を8キロトンの核弾頭を積んだミサイルで攻撃した場合だ。その結果、「比較的威力が低い戦術核でも放射性物質が大きく広がる」。アメリカの報復攻撃は地表爆発になるので放射性降下物(「死の灰」)が多くなり、広く拡散して日本にまで及ぶというのだ。
もっと大きな被害が出るのはアメリカと中国が激突した場合だ。中国が「核の先行不使用政策」を破棄して核ミサイルを発射したらどうなるか。
標的になると仮定されたのはグアム、佐世保、嘉手納にあるアメリカ軍基地。アメリカは中国のミサイル基地などを攻撃。中国は韓国のアメリカ軍基地を攻撃し、事態はエスカレートしていくと想定されています。
そして中国は、アメリカ本土の基地も攻撃。報告書は、さらに大規模な世界戦争に発展することもあり得るとしています。合計24発の核兵器の使用で、数か月間で亡くなる人は260万人。被ばくによる長期的な影響で亡くなる人は9万6,000から83万人に上るとしています。(NHKクローズアップ現代「もしも今核兵器が使われたら 初のシミュレーションが示す脅威」2023.8.21)
日本にあるアメリカ軍基地は三沢、横田、厚木、横須賀、岩国、佐世保、嘉手納、普天間。佐世保や嘉手納でなくともよさそうなものだが、もし佐世保港に停泊中のアメリカ第七艦隊が狙われて核爆発が起きたとしたら、佐世保市も消滅してしまうだろうが、それだけではすまない。中国が持っているICBMは200〜300キロトンの威力があるので、風向きによっては日本中が「死の灰」の危険地帯となる。
軍事衝突が世界的な核戦争に拡大した場合、他にも心配されることがある。いわゆる「核の冬」だ。核爆発があると大量の煙や塵が太陽光線を遮るのは確かだ。そうすると控えめに見ても、その年の夏は無くなってしまう。悪くすれば気候の寒冷化をもたらし、地球上の多くの動植物が絶滅しかねないという。(M・ロアン=ロビンソン『核の冬』岩波新書1985)
…二〇〇〇年以降は、地域的な限定核戦争でも気候や食糧生産に重大な影響が及ぶとの論文が次々に発表される展開となった。(中略)
パキスタンが一五〇発、インドが一〇〇発の核戦力で双方の都市を核攻撃した場合、核戦争後には世界平均で地表温度が二〜五度低下し、降水量は一五〜三〇%減少、日照量も二〇〜三五%減少するとのコンピューターを駆使した分析結果が出た。(吉田文彦『迫りくる核リスク 〈核抑止〉を解体する』岩波新書2022)
これでもう世界の農業は壊滅だ。運よく核爆発を生き延びたとしても、その後で食べる物は一体どこにあるというのか。