人類の自殺100 核の行方10 | ヒロシマときどき放送部

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2016年広島で高校の教員を定年退職し現在は山奥のお寺の住職をしています。ヒロシマのこと、放送部顧問をしてきたことを書いてみます。

 ロッキード社で核ミサイルの設計に携わっていたロバート・C・オルドリッジさんが会社を辞めたのは1973年だった。

 

 いろいろのことがあって、私は結局ロッキード社を辞める事になったのだが、核政策の変化を見たことが私にもっとも強い影響を及ぼした。トライデント・ミサイル計画が始まったときに私は、ペンタゴンの関心が、ミサイルの格納サイロといった「堅固にした」(hardened)敵の発射陣地を破壊できる精確な「第一撃」兵器を手にすることにあるのに気づいた。これは、攻撃をしかけられた時にのみ報復するという政策からの重大な転換であった。(R・C・オルドリッジ著 服部学訳『核先制攻撃症候群』岩波新書1978)

 

 トライデント・ミサイルは潜水艦から発射される弾道ミサイル(SLBM)だ。ミサイルには複数の核弾頭が搭載され、その核弾頭(MaRV)は迎撃ミサイルを回避し精確に目標を攻撃する能力を持つ。ミサイル開発の現場にいたオルドリッジさんは確信した。アメリカは「ソ連に核兵器の先制攻撃をしかける能力を急速に開発している」と。

 

 トライデント・システムのもつ潜在的破壊能力を説明するには、各トライデント潜水艦が地球表面の半分以上のいかなる地点をも攻撃できるトライデント-2型ミサイルを二四基も積んでいることを考えてもらえばよい。各ミサイルは十七発の超精確なMaRVの弾頭を、それだけの数の目標に、それぞれ数フィート以内に射ち込むことができる。弾頭あたり七五〜一〇〇キロトンという標準型の荷重の場合ならば、一隻のトライデント潜水艦が四〇八の都市や軍事施設を、広島で生じたよりも五倍も強い爆風で破壊できるということになる。(『核先制攻撃症候群』)

 

 愛するアメリカが世界を破滅させようとしている。危機感を持ったオルドリッジさんは平和運動に身を投じる決心をした。

 その後、米ソ間で核軍縮が行われて核弾頭やミサイルの数は減った。それでも2023年現在、アメリカには地上から発射される大陸間弾道弾(ICBM)が400基、大型爆撃機に搭載される巡航ミサイルや爆弾が計400基、そして原子力潜水艦に搭載される弾道ミサイル(SLBM)が970基も配備されている。(長崎大学核兵器廃絶研究センターウェブサイト「世界の核弾頭データ」)。核弾頭やミサイルの数は70年代より減っているとはいえ、これらの核攻撃システムは目標を破壊できる能力を一層高めているので核の脅威が軽減されているわけではない。

 SLBMについてもう少し詳しく見てみると、現在アメリカのオハイオ級原子力潜水艦は14隻あり、交代で5隻が太平洋や大西洋の海に潜み、いつでも核ミサイルを発射できる態勢をとっている。1隻の潜水艦は20基の発射管を備え、4〜5個の核弾頭を積んだSLBMトライデントII-D5が搭載される。(渡辺丘『ルポ アメリカの核戦力』岩波新書2022)

 「世界の核弾頭データ」によると、現在トライデントに積むことのできる核弾頭は、100キロトンが561個、「低出力」で「使いやすい」8キロトンが25個、それに455キロトンが384個ある。

 アメリカは、5隻の原子力潜水艦だけでいつでも核弾頭を400発以上撃ち込むことができる。抑止のためであれば、そんなにはいらないはずだ。自国の領土に手を出させないためには、先制攻撃で相手を完全に壊滅させるしかないと考えているのだろう。