人類の自殺99 核の行方9 | ヒロシマときどき放送部

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2016年広島で高校の教員を定年退職し現在は山奥のお寺の住職をしています。ヒロシマのこと、放送部顧問をしてきたことを書いてみます。

 「国家存亡の時」であれば核攻撃も許されるとロシアは主張する。何を馬鹿なことをと言いたいところだが、実は1996年に国際司法裁判所(ICJ)が核兵器の威嚇及び使用は国際人道法の原則に反すると勧告した時の但し書きを利用しているのだ。困ったものだ。

 

 核兵器の威嚇または使用がある国家の生存そのものが危機に瀕しているような自衛の極限的状況において合法であるか違法であるかを、ICJは明確に決することができない。(ICJ「核兵器の威嚇または使用の合法性国際司法裁判所勧告的意見」1996)

 

 戦争になった時、どちらの国も自分たちが正義だと主張する。だから自分の方から先に止めようとはしない。しかし戦況が厳しくなり、国土の荒廃は目を覆うばかり、死傷者は限りなく増え、国の指導者に対する不満と怨嗟の声は日に日に高まっていくとなれば、敵国によるこれ以上の侵略を排除するためとして核を先制使用することは、間違いなく、核保有国のどの指導者も選択肢の中に入れるだろう。

 日本でさえ、いざとなれば先制攻撃を行う可能性がある(今のところ通常兵器)。中国新聞が社説で批判した。

 

 自公両党は、北朝鮮や中国が開発を進める極超音速や変則軌道で飛ぶ高性能ミサイルを念頭に、現行のミサイル防衛網で阻止するのは困難だとの認識で一致。ミサイル攻撃を思いとどまらせるため、敵基地攻撃能力の保有で抑止力向上を図る必要があると判断した。

 行使は相手の発射着手を把握した段階で可能としている。だが、攻撃に踏み切るタイミングの基準は示していない。これでは、歯止めがないに等しい。

 北朝鮮が運用する移動式発射台など、発射方法は多様化している。相手が発射する兆候を事前に把握するのが難しい中で、着手の判断を誤れば国際法が禁じる先制攻撃になる。(「中国新聞」2022.12.3)

 

 相手国がミサイルを発射する直前に叩いてしまえば「先制攻撃」ではないと政府は言いたいのだろうが、そんなに神速で「後の先」みたいな「反撃」ができるものだろうか。いくら相手が攻撃してくる兆候があったと主張しても、先にミサイルの発射ボタンを押したら相手国から「先制攻撃」だと非難されるのは確実。そして怖いのがその後の報復攻撃だ。

 また、この「敵基地攻撃能力の保持」は日本だけの権利ではない。日本が高いミサイルを買ってこの能力を実際に保持すれば、他の国だって自分たちも持つのを許されると改めて声高に宣言するだろう。そうなると、どちらが先手を取るかというギリギリの鍔迫り合いを強いられることになるかもしれない。

 報復攻撃の危険性を考えたら、「敵基地攻撃」はこれでもかというくらい徹底的にやるしかなかろう。ミサイル発射基地、飛行場、軍港、レーダーサイト……。2年前、安倍晋三元首相は敵基地攻撃能力について「基地に限定する必要はない。向こうの中枢を攻撃することも含むべきだ」と述べた。(「中国新聞」2022.4.4)

 そうなるともう全面戦争だ。相手側の報復攻撃を許せば、同じようにミサイル発射基地、飛行場、軍港、レーダーサイト、そして東京、大阪など主要都市が攻撃されることを覚悟しなければならない。もちろん、報復攻撃(あるいは防衛という名の先制攻撃)は、通常の爆弾とは限らない。