人類の自殺97 核の行方7 | ヒロシマときどき放送部

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2016年広島で高校の教員を定年退職し現在は山奥のお寺の住職をしています。ヒロシマのこと、放送部顧問をしてきたことを書いてみます。

 ロシアの安全保障会議副議長メドベージェフ前大統領が言うには、「国家の存立が脅威にさらされる場合」にロシア大統領は核の使用を検討するのだとか(「読売新聞」2024.1.12)。そうなると、現在ロシア領だと主張するクリミヤ半島がウクライナによって奪還されそうになれば、それが通常兵器によるものであっても「国家存亡の危機」だと主張して核ミサイルを発射する可能性が出てくる。最初は警告と称して小型の核兵器になるかもしれないが、ウクライナと支援する西側諸国がそれで引き下がらなかったら、今度は強力な戦略核兵器を使うと脅しをかけてくることも考えられる。

 もしそうなると西側諸国は難しい判断を迫られる。報復を自制するならば、小型の戦術核兵器ぐらいなら使っても大丈夫と喜ぶ勢力が出てくるし、さらに別の心配もある。

 それはウクライナの大地が放射能に汚染されることによる世界への影響だ。ウクライナは肥えた黒い土「チェルノーゼム」が広がり、小麦の生産が盛んで世界の「パンかご」の一つとも言える国だ。しかしすでにロシアの侵攻で農業生産が圧迫され、大地には無数の地雷が埋められ、また劣化ウラン弾が使われて放射能と重金属に汚染される心配もある。

 劣化ウラン弾について触れておくと、広島市のホームページではこう説明されている。

 

 ウランは自然界で最も密度が高い物質で、極めて堅くて重いため、戦車の厚い装甲を破壊する砲弾や戦車の装甲などに利用されています。劣化ウラン弾が目標物に当たると爆発し、霧のようになった劣化ウランの細かい粒子が空中に飛散します。これを吸い込むと、化学的毒性により腎臓などを損傷するとともに癌などの放射線障害を引き起こします。また、土壌などに付着し、半永久的に環境汚染も引き起こします。

 

 劣化ウランとは天然ウランからウラン235を抽出した残りで、ほとんどがウラン238だ。アメリカ政府は劣化ウラン弾による人体や環境への影響を認めようとしないが、1991年の湾岸戦争、2003年のイラク戦争など劣化ウラン弾が使用された地域では、子どもたちや兵士の間にがんや白血病、腎臓障害、先天性の障害など深刻な被害が報告されている。

 

 湾岸戦争で米・英両軍は、二五ミリから一二〇ミリ砲弾まで大小合わせて約九十五万個の劣化ウラン弾(約三百二十トン)をクウェートとイラク南部で使用した。イラクの科学者らが九六年から始めた土壌や大気の調査では、劣化ウラン弾で破壊された戦車のすぐそばや周辺から、比較的高い放射能が今も検出されている。

 「不発弾として地中に埋まったままの劣化ウラン弾のそばの土壌だと、放射能レベルはもっと高くなる」。バグダッド大学助教授の女性環境学者(47)は、こう強調した。(「中国新聞」2000.7.9)

 

 戦火に痛めつけられたウクライナの大地。ここにさらに核ミサイルが地表爆発でもしたら、人々の深刻な被害とともに、大量の放射性物質が撒き散らされて世界の「パンかご」の一つが本当に地上から消え去ってしまう。世界中で核によるテロの危険性が高まり、また食糧危機が深刻となって人々の不安と不満がいつ爆発するかもしれない。世界の指導者はこれにどう対応するつもりなのだろうか。