人類の自殺92 核の行方2 | ヒロシマときどき放送部

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2016年広島で高校の教員を定年退職し現在は山奥のお寺の住職をしています。ヒロシマのこと、放送部顧問をしてきたことを書いてみます。

 1キロトンの核爆弾が地表爆発した時の放射線の被害はどうなるだろうか。まず核爆発の際に放出される初期放射線を50%致死量となる4シーベルト浴びるのは爆心地から1.1km地点(遮るものがない場合)。広島で16キロトンの原爆が高度600mで炸裂した時と同じぐらいの距離だ。

 これが「死の灰」などの残留放射線となると、1キロトンの核爆弾の地表爆発で1シーベルト/時の被曝となるのは爆心地から14.3km地点。16キロトンの地表爆発で1シーベルト/時となる49.9kmと比べるとかなり狭くなるが、これでもとんでもない被害となるのは間違いない。(広島市国民保護協議会核兵器攻撃被害想定専門部会『核兵器攻撃被害想定専門部会報告書』2007)

 不謹慎な話で申し訳ないが、今、原爆ドームに仕掛けられた1キロトンの核爆弾が爆発したら新しいサッカースタジアムあたりにいる人たちは皆焼き殺されるか圧し潰されてしまう。東京の新宿駅で爆発したならば都庁あたりにいる人たちは全滅。そして東京ディズニーランドぐらい離れていても残留放射線の危険がある。

 核兵器攻撃被害想定専門部会のシミュレーションでは、現在の広島市で1キロトンの核兵器が地表爆発したら直ちに1万人の命が奪われるが、それに「死の灰」や「黒い雨」の残留放射線による死者を加えると10万人に膨れ上がってしまう。

 1キロトンという小型の核爆弾でも飛行場など軍事関連施設なら完全に破壊されてしまうだろう。中小の都市なら消滅し、東京などの大都市であっても同時多発的な攻撃があれば息の根が止まってしまう。それだけ核兵器は危険な代物なのだ。

 では、この小型核兵器はどれだけ現実の危機となっているのだろうか。核兵器攻撃被害想定専門部会は核兵器の地表爆発についてゲリラやテロによる攻撃を想定しているのだが、小型核兵器によるテロの危険性については、このような指摘がある。

 

 …テロリストも、民生用のプルトニウムを使って強力な核兵器 — 少なくともTNT火薬換算で1000トン(1キロトン)の破壊力を持つもの — を作ることができる。(Webサイト「核情報」2005.5.5)

 

 2005年5月5日、著名な科学者やアメリカ政府の元高官らでつくる民間団体「憂慮する科学者同盟」(UCS)が、日本は年間8トンのプルトニウム — 核兵器1000発分相当 — を分離・蓄積しようとしているとして、青森県六ヶ所村のプルトニム再処理工場の運転を無期限延期するよう日本政府に呼びかける宣言を発表した。プルトニウムが大量に蓄積されればテロリストに強奪されるリスクがあるというのだ。

 しかし小型核兵器を欲しがるのはテロリストだけではない。アメリカもロシアも、いわゆる「低出力核兵器」をすでに装備しているというのは前に書いた。それは「世界が滅亡しない程度」、言い換えればアメリカやロシアが滅亡しないのであれば、いつでも核兵器を使う用意があるということ。そしてそれはアメリカやロシア以外の核保有国にも当てはまるだろう。であれば、核保有国の周辺の国々は、いつ自分たちの国土が核兵器によって放射能のクレーターだらけにされるかわからないという恐ろしいことになってしまうのだ。