人類の自殺91 核の行方1 | ヒロシマときどき放送部

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2016年広島で高校の教員を定年退職し現在は山奥のお寺の住職をしています。ヒロシマのこと、放送部顧問をしてきたことを書いてみます。

 広島市の『核兵器攻撃被害想定専門部会報告書』は、1メガトンの核兵器の空中爆発と、1キロトンという小型核兵器による地表爆発についても、どのような被害になるか推測している。

 一昔前の核戦争のイメージは、たいてい大陸間弾道ミサイル(ICBM)で1メガトンの水爆を空中爆発させるものだったように思う。

 確かにその威力は強烈だ。広島生まれの理論物理学者庄野直美さんが1984年に書かれた『ヒロシマは昔話か—原水爆の写真と記録—』(新潮文庫)では、新宿駅の上空3000mで1メガトンの水爆が爆発したら、爆心地から半径9.5kmの範囲内で480万人の命が奪われると推測されている。皮膚がずる剥けになるIII度の火傷は半径12km、15km離れても建物にかなりの損害が出るという。

 ところがだ。庄野さんの本で初めて知ったのだが、初期放射線による被害は爆発の規模ほど大きくはない。熱線と爆風の効果を最大限に発揮させるために高空で爆発させると、今度は大気中の分子に遮られて放射線が地上に達するまでにかなり減衰してしまうのだ。だからか、最近はアメリカもロシアも100キロトンぐらいの核弾頭が主流のようだ。1メガトンの核弾頭1発よりも100キロトンの核弾頭10発の方が人類滅亡にはより効果的だとでも考えているのだろうか。

 では1キロトンといった小型核兵器は人類に優しいかというと、もちろんそんなことはない。前に「使える核兵器」として紹介したように、核戦争のハードルを一段と下げてしまうことは間違いないのだ。

 核兵器攻撃被害想定専門部会が想定する1キロトンの核爆弾が地表爆発した際の被害予想を見てみよう。最初に熱線だが、爆心地から500m地点の熱量が0.150MJ/m2とある。MJ(メガジュール)と言われても感覚的にわからないので、ここはやはり被爆体験記を紐解こう。

 広島で16キロトンの原爆が高度600mでさく裂した時、爆心地から約1900m離れた広島駅付近に降り注いだ熱線が0.131MJ/m2と推定されている。その時、赤田サヨコさんは駅前で路面電車が来るのを待っていた。突然、真っ赤な閃光を浴び、爆風に飛ばされて気絶した。

 

 気がついた時、周りには誰もいませんでした。自分の姿を見ると服は焼け、ほとんど何も身につけていませんでした。光線を浴びた左半身は頭から足までひどくやけどしており、焼けただれた皮膚が垂れ下がっていました。垂れ下がった皮膚の先からは、黒い汁がポタリポタリと落ちていて、痛くて苦しかったです。この日は、銘仙の赤い布のもんぺと赤と白の縞模様のブラウスを着ていましたが、背中はブラウスの縞模様がそのまま焼き付いていました。(赤田サヨコ「命あること」広島原爆死没者追悼平和祈念館)

 

 広島型原爆の1/16のエネルギーでも、爆心地から500〜600mぐらいの距離では遮蔽物がないと熱線で焼け死ぬかもしれないということだ。また、爆心地から600m地点の爆風の風速は50.9m/秒と推測されている。広島型原爆では1500m地点の風速に近い。これもかなり危険だ。1キロトンという小型原爆とはいえ、今の原爆ドームあたりで地表爆発したら、八丁堀の福屋デパートあたりまで「死の世界」になってしまうのだ。