人類の自殺58 避難3 | ヒロシマときどき放送部

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2016年広島で高校の教員を定年退職し現在は山奥のお寺の住職をしています。ヒロシマのこと、放送部顧問をしてきたことを書いてみます。

 高層ビルのオフィスにいる時に核ミサイルのアラートが鳴ったらどうしたらいいだろうか。タイムリミットはどれくらいだろう。5分ぐらいか、あるいは2分か。スマホで確かめようとしたら逃げ遅れるかもしれない。すぐに机の下に身を潜めるか…。窓のないトイレに駆け込むとか…(全員は無理)。できる限り下の階に降りていくか…。どれが正解かはわからない。その時はもう運を天に任せるしかないのだ。

 状況は違うが、2001年9月11日にアメリカで起きた同時多発テロの標的となった世界貿易センタービル(WTC)での教訓がある。当時、中国銀行ニューヨーク支店はWTC北棟90階にオフィスがあった。午前8時46分、車が追突したような衝撃に驚いて窓の外に目をやると巨大な火の玉が見えた。支店長の久保津敦雄さんは思わず大声で叫んだ。「全員脱出! 逃げるぞ!」。すぐ上の階にハイジャックされた飛行機が激突したのだった。

 

 非常時の避難マニュアルでは、まず情報収集し、重要書類を金庫に入れると定められていた。でも、その手順を全部すっ飛ばして、とにかく逃げることにした。

「ヘルメット、マスク! 早うせい!」(「読売新聞」2021.9.12)

 

 避難階段を降りる途中、建物が大きく揺れた。隣の南棟に別の飛行機が激突した衝撃だった。皆パニック状態になる。さらに降りていくと3階から下はすでに黒煙が渦巻いていた。その中を無我夢中で走ったら幸運にも出口の明かりが見えた。

 

 午前10時28分、北棟は十数秒で崩壊した。脱出から約10分。マニュアル通り書類の整理をしていたら、おそらく命はなかっただろう。(「読売新聞」2021.9.12)

 

 高層ビルにオフィスがあり、その下の階で核爆発による火災が起きたら助かる見込みはほとんどない。屋上に逃げてもヘリコプターが近づけるかどうか疑問だし、戦争の真っ最中なら尚更だ。高層ビルでアラートが鳴ったら、やはり地上に一目散に避難するしかなかろう。

 その際、エレベーターは使えない。途中で止まっても誰が助けに来てくれるというのだ。避難階段を降りていくしかない。避難階段は、防火扉を設けるなどして火災の際安全に避難できるような構造になっているという。しかし、核爆発を目前にして避難しようとする時、ビル内にいる人間が一度に全員無事に降りることができるだろうか。パニックになって将棋倒しが起きてしまったら、助かる者も助からない。

 私も長年学校で避難訓練に参加したが、パニックになった時にどうするかを考えて訓練するのは難しい。訓練中に生徒がこけてけがをしてはならないのだ。でも、世界情勢が物騒になったら、学校でも職場でもシミュレーションをきっちりやっておかなければならないだろう。全員が安全に道路まで避難するのにどれだけの時間が必要だろうか。

 避難階段(非常階段)は建物の外にあったりもする。これは危ない。避難する途中で核爆発が起きたら、放射線も熱線も、そして爆風も容赦なく襲ってくるだろう。将棋倒しで踏み潰されるのも勘弁してほしいが、階段ごと吹き飛ばされて地面に激突なんていうのも絶対にごめんである。