人類の自殺1 2023年ヒロシマ | ヒロシマときどき放送部

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2016年広島で高校の教員を定年退職し現在は山奥のお寺の住職をしています。ヒロシマのこと、放送部顧問をしてきたことを書いてみます。

広島平和記念資料館にて

 今年、国の内外から多くの人が広島の平和公園を訪れ、平和記念資料館は入館待ちの人が長い列をつくった。広島にこれだけ関心が集まったのは、ひとつにはロシアのウクライナ侵攻で核兵器使用の危機が強まったこと。そしてもう一つがG7広島サミットであることは異論のないところだろう。

 5月20日、G7の各国首脳はそろって平和記念資料館を訪れ、芳名録に記帳した。アメリカのバイデン大統領はこう書いている。

 

 この資料館で語られる物語が、平和な未来を築くことへの私たち全員の義務を思い出させてくれますように。世界から核兵器を最終的に、そして、永久になくせる日に向けて、共に進んでいきましょう。信念を貫きましょう!(外務省ウェブサイト「G7首脳による平和記念資料館訪問(記帳内容)」)

 

 オバマ大統領に続いて世界の核兵器廃絶を訴えたことは、小さくても確かな一歩だと思う。しかし問題は、バイデン大統領の「信念」がどれだけアメリカという国を動かすことができるかということだ。19日に公開された「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」(「広島ビジョン」)は、「核兵器禁止条約」には一言もふれず、「我々の安全保障政策は、核兵器は、それが存在する限りにおいて、防衛目的のために役割を果たし、侵略を抑止し、並びに戦争及び威圧を防止すべき」という「核抑止論」をあらためて主張した。アメリカ、日本、各国首脳は、この「核抑止論」が「核廃絶」につながると本当に思っているのだろうか。

 「広島ビジョン」では、ロシアが核兵器の使用をちらつかせて威嚇するのを強く非難し、「核戦争に勝者はなく、また、核戦争は決して戦われてはならない」ことをあらためて世界に訴えた。しかしそのアメリカは核兵器を戦争で使った今のところ唯一の国であるが、その非人道的行為を国として反省することなく今もなお大量の核兵器を保有している。それこそが「威嚇」「威圧」でなくて何だというのか。しかも、アメリカはこれまで核兵器による先制攻撃の可能性を否定したことはないのだ。

 それなのに、日本などは、オバマ大統領やバイデン大統領が「核の先行不使用」の宣言を検討すると「強い懸念」を示して反対したという。核の威嚇や実戦使用があってはならないというのなら、アメリカやイギリス、フランスに対しても、えこひいきをしてはダメだろう。

 広島の平和記念資料館本館の展示を見て回ると、最後はガラス越しに今の広島の風景が広がる。それを見て、あらためて今の平和のありがたさを感じるといった感想が多く寄せられている。

 でも、この世界に生きる私たちは、核兵器が出現して以来ずっと核の脅威にさらされてきた。今この瞬間に空から核ミサイルが落ちてくることもないとは言えない。それを、平和というのだろうか。

 昨年の広島の平和式典、国連のグテーレス事務総長はあいさつの中で述べた。「私たちは、広島の恐怖を常に心に留め、核の脅威に対する唯一の解決策は核兵器を一切持たないことだと認識しなければなりません」と。広島は、まだまだ発信を続けなければならない。もしまた世界のどこかで核兵器が使われたら、どんなことになるのかと。