2010/5/24の日記です
ニューデリー駅前のパハールガンジは、メインバザールとも呼ばれ、安宿が軒を並べる。
サダルストリート、カオサン、タメルなどと並ぶ、アジアでのバックパッカーの交差地点であり、ヒッピー、サブカル時代以降の旅行記にもよく出て来る。
空港から地下鉄が乗り入れ、タクシー強盗に合う旅行者は少なくなったものの、日本人旅行者は相変わらず駅前に点在するボッタクリ旅行社の良いカモだ。
ズボンの後ろポケットから、財布をチラ見せさせながら歩ける。
そんな国からの、生まれたてなのだ。
(余談 : 2017年、わけあってバラナシの日本人宿に泊まった。春休みで学生が多かったのだが、その6割が法外な値段でツアーを組まされていた。
携帯電話を開けば、情報が簡単に集まる時代。
学びもせず、ライフジャケットなしで、大海原に繰り出すようなものだ。
そう考えれば、ボッタクリではなく、商売上手の波にのまれるのは仕方ないと言えないかな。)
オールドデリーのような庶民の香りは少なく、親しみが持てる町とは言えないが、なんど訪れた事か。ここを拠点に右に行ったり、左に行ったり、上ったり、下ったり。長期滞在はないが、ホテルと、行きつけのラッシー屋は決まっている。
ここではうるさく、ほこりっぽくなる前の、早朝の散歩が日課となっていた。
東の空が明るくなり出す頃、まず清掃員が掃除を始める。
カーストが廃止されても、低階層の人々は、代々受け継がれた仕事に従事している。
彼らの黙々と行う労働の姿は、体たらくな自身の生活を改めさせてくれる。
そんな折、チャイ屋が通りに立ちだし、チャイをすするおやじ達の小さな井戸端会議が通りのあちらこちらで始まる。
夏至を来月にひかえ、日の光がすでに街まで届いている。
清掃員が過ぎ去った頃、露店のおばちゃん達が、大きな荷物を抱えやって来る。
パラパラと仕事場に向かう人影が現れ始めると、送迎のリキシャがやってきて、小さな子供達を集めだす。
幼子の座席は、鉄格子で囲まれており、奴隷商人の輸送のようでもある。
しかし、そこに乗り込むちびっこ達(幼稚園児ぐらい)は、真っ白なボタンシャツの制服と、7、3に分けられた髪、ピカピカのカバンが、なんとも愛らしい。
(もっと小さい子供は、ピカピカの恰好でほんと可愛い)
その横を、黒ずみほころびのあるシャツをひっかけた子供の兄弟が、ゴミ収集袋を片手に行き違う。
このコントラストがインドである。
そのころ、おばちゃまの露店が始まりだす。野菜や、果物、朝からバングル(ブレスレット)を広げるおばちゃまの姿まである。
お客とのやり取りは、見ていて面白く、会話のない日本のスーパーが味気なく思えて来る。
混雑する細道の八百屋で品定めをしている時だった。
右後ろポケットの面ファスナー(マジックテープ)の、ビリビリという感覚が伝わってきた。
とっさにポケットに手をあてると、他者の手がそこにあり、振り向くと子供達が蜘蛛の子を散らすように逃げた。
ポケットを触っていた子供は、人混みに阻まれ逃げ遅れたので、一瞬で追いつき捕まえた。
「ノーノー、俺じゃない!!」
いや、お前だし。
「あいつらだ、逃げたあいつらだ!」
いや、めちゃくちゃお前だし。
周りの人に「コールポリス!コールポリス!Pickpocket」と言っても通じていないのか皆「あなた達なにじゃれ合っているの?」って感じだ。
くそ!腕や腹を殴って来た。蹴りは金的を狙っているのか?肩には一眼レフがぶら下がっているので、こちらは大きな動作が出来ない。
少年の体を押し、倒れないようにと出てきた足を払って倒し、マウントポジションを取った。
いいかげん、誰も警察に連絡しない。
むしろ珍しい物見たさに、人が集まってくるばかり。
そういやトラックに追突され、ぶっ飛んだ時も、彼らの行動は同じだった。
まず、好奇心という野次馬精神が行動を支配するようだ。
全く観念しない少年は、大事な品物だと感づいたのか、カメラのストラップに手をかけてきた。
その手を振り払い、いい加減に観念しろと、金的狙いのパンチのお返しにと往復ビンタを与える。
子供相手だ、流石にゲンコツは気が引ける。
いい加減「コール、ポリス」と言っても、誰もアクションを起こさない。
ポリスぐらいは、分かるはずなのだが。
すると、野次馬の中からおばちゃんが出てきて、僕に怒鳴りかけ、服や腕を引っ張り出した。
「私達の子供を、外国人から助けるのよ!皆手を貸して!」
とでも言っているのか、その言葉につられ、2人のおばちゃまが加勢に入った。
いや彼はスリなんだと叫んでも、伝わるはずも、聞こうともしてくれない。
体制を崩したところで、子供は股下から抜け出し、人混みに消えていった。
子供が居なくなってからも、最初のおばちゃんが僕に怒鳴りつける。
そして、この男は私達の子供に暴力をふるっていたと周りに振りまいているようだ。
怒りなどないものの、おばちゃんに現状を叩きつけてやろうと、英語ができる人を探して、
「あの子供はスリだ。僕は今財布を盗まれて、全てのお金15万ルピーを失った。
これから私は、どうやって過ごせばよいのですか?私のホテル代も、食事代も帰国の飛行機代もすべて子供達に奪われてしまいました。」
と、訳してもらった。
すると、鼻息の荒かったおばちゃんが、一瞬目を見開いたかと思うと、そそくさと人混みに消えていった。
まぁ、いきなりあの光景を見ると、やっぱ大人が子供をいじめているようにしか見えないわな。
ちょっと嘘が過ぎたかな、財布は取られてはいないのだから。
それにしても、何とわかりやすい、おばちゃんの表情の変わりよう。
まるでインド舞踊のようだった(インドの舞台では、目の表情で感情を表現する事が多い)。
気づけば太陽は建物の濃い影をつくり、ひたいにはうっすら汗が浮かびはじめていた。
とりあえず目の前のチャイ屋に1杯注文する。
朝のチャイは、2杯目も美味しい。
気づけば、香(こう)の香りが鼻をくすぐっていた。
通りの店は、シャッターを上げ、商売繁盛の朝の香を焚き、祈りを始めているのだった。
すでにバイクや、リキシャ、トゥクトゥクも走り出し、クラクションと埃が通りを覆い始めている。
今日も暑くなるのであろう。
露店から2種類のバナナを買い込み、ホテルに戻った。
フロントにいたオーナーに、先ほどあった事を、さっそく話してみる。
「あぁ、この界隈にいる子供のスリ集団だよ。」と驚く素振りもない。
そして、ここの宿泊客もたまに被害にあうよと、話しはじめた。
それは数年前、大学の休みを利用して初めてインドに来た日本の女子大生だったという。
彼女がタージマハルや、ラジャスタン行きのチケットを取った矢先の出来事だった。
露店に座っていると、子供達がやってきて、一緒にじゃれ合って遊んだ後、パスポートをはじめとする貴重品が無い事に気づいた。
その後、警察に行ったり、日本大使館に行ってパスポートの申請をしたりと時間をとられ、結局どこにも行けず、ずっとこのホテルにいて泣いていたと言う。
ゴミ袋をかかげた兄弟より身なりは良く、逃げた子供の中には、キャッキャッと笑っている奴もいた。
奴らは落ちている小石を拾い、ポケットに入れるぐらいにしか思っていないのであろう。
平手打ちはしたけど、東洋人旅行者をなめんなよ!と、トラウマになるぐらいビンタをかました方が良かったか。
もし、捕まえて警察に突き出したらどうなるの?と聞いてみると
「うわまえを警察に渡したら、ガキ共はすぐ釈放だ。インドで最も厄介なマフィアは警察だよ。」
と笑いながらオーナーは答えた。
そういや、バイクで警察に捕まった時も
「6000ルピーの罰金を払うか、3000ルピーを私にギフトするか。」と言われたっけ。
怒ったり、笑ったり、奔走したり、そんな事にいちいち翻弄される自身も、まだまだ生まれたてのようです。
メモ~~~~~~~~~~~~~~~~~~
PaxSafe、バッグを覆い、何かにくくりつける事も出来る優れものです。
サイズは色々、この商品に何度安心をもらった事か。
(ワイヤーカッター持って来られると、一発アウトだけどね。そういや、旅中にもっと太いワイヤーをカットされて、自転車パクられた事思い出した)
定番の、肌身はなざずの貴重品ポケットです。
それと、ズボンにジッパーがついていると、少し安心度は増します
太さ1cm以上はあったのに、ワイヤーカッターで一発
イランで強盗に襲われたけど自転車だけは生き残ったのに、さよなら白兎馬号
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