映画「マネーショート 華麗なる大逆転」を観る | 世日クラブじょーほー局

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 サブプライムローン問題に端を発した米国発の一連の世界的経済危機、世にいう「リーマンショック」。米国を代表する老舗投資銀行リーマンブラザーズが、63兆円の負債を抱え経営破綻したのを筆頭に、同じく投資銀行ベアスターンズの破綻とJPモルガンによる救済劇、大手保険会社AIGの国有化などが次々と顕在化した。この未曾有の経済危機を引き起こした背景は何だったのか。

 そこには、折からの不動産バブル(当時はバブルの認識なし)と金融工学の発達に伴い、CDO(債務担保証券)に代表されるような債権を切り刻んで、再組成させる証券化ビジネスの無責任な横行、そしてその中身のよくわからないデリバティブにトリプルAを乱発し続けた格付け機関によるエンドースという構図があったのが明らかだ。総じて、ウォール街による欲望肥大化のままの強欲資本主義の末路といえたろうか。

 本作は、米国中が熱に浮かされたように雪崩を打って一斉にリーマンショックへと突き進まんとする中で、クールに情勢を分析し、あるいは足で稼いだ情報によって、ウオール街を出し抜き、逆に巨万の富を手にした4人(正確には2人と2チームか)の物語。彼らは生き馬の目を抜く金融トレーダーという生業は同じでも、その性格も思考方式も人生背景も全く異なる。

 まず一人目、ヘビメタの愛好家で、片目は義眼、毎日Tシャツとバミューダパンツといういでたちの元医師である投資家マイケル・バーリ(クリスチャン・ベール)。二人目は、敬虔なユダヤ教徒で、人に説教垂れるのが自らの使命といわんばかりに、世の中の不正や矛盾が許せない性格というファンドマネージャー、マーク・バウム(スティーブ・カレル)。この人は、同じくウォール街に身を置いていた兄を自殺で亡くしている。そして三人目は、ドイツ銀行に勤務しつつも、かなりの野心家であり、バウムにCDS(クレジット・デフォルト・スワップ)購入を勧めるジャレド・ベネット(ライアン・ゴスリング)。彼は劇中、カメラ目線で金融関連用語を解説したりする。最後4人目は、元銀行家で、放射線の身体への影響を極端に恐れ、かつオーガニックに傾倒している、見るからに神経質な伝説のトレーダー、ベン・リカード(ブラッド・ピット)。彼は、ウォール街参入を目論み、偶然、CDOの異常に気付いた若き二人の投資家をサポートしていく。

それぞれ個性全開のいずれ劣らぬアウトローぶりだが、結局彼らが、ウォール街を出し抜く手段は、CDS(クレジット・デフォルト・スワップ)を用いた空売りだ。すなわち住宅バブルが弾け、サブプライムローンを含むデリバティブがデフォルトを起こした暁には、巨額の利益が転がり込むことになるという算段。

 果たして、彼らの狙いは的中し、「その時」は訪れた。途端に色を失うウォール街を尻目に、さぞかしご満悦かと思いきや、その影響は同時に全米で多くの国民が自宅を失い、財産を失い、職を失うという悲劇に見舞われたことを知る時、それぞれの胸に去来したものは、想定とかけ離れたものだったろう。“痛快”などとはほど遠い、全く笑えない結末に、本作を観る側はむろんのこと、モデルとなった実在の人物たちこそ冷め切っていたのではなかったか。

 本作は、ブラッド・ピットがキャスト兼プロデューサーとなっている。クリスチャン・ベールとブラッド・ピットの初共演作でもあるが、劇中二人は絡まない。なおかつ4人の主人公の中で、バウムとベネットは絡むが、それ以外は全く別々のストーリーとして展開していく。これを1本の脚本にまとめるのは無理があるように思えたが、よくまあ映画にしたなとそこに感心することしきりだった。

 またブラピが扮したベン・リカードの外見は、一見ブラピだとはわからないヒゲ面と白髪の普通のおっさんで、敢えて彼が演じなくてもよかったはずだが、こだわりがあったのだろう。ま、ことほど左様にマニアックな映画。アカデミー賞5部門ノミネートのうち「脚色賞」受賞だそう。んーそうですか。

 さて、リーマンショックのわが国への影響は、サブプライム関連の直接の被害は少なかったが、バブル崩壊の後遺症から、せっかく回復しかけていた日本経済に冷や水を浴びせ、浅からぬ損失を被った。以後、日本は、先進国中もっとも立ち直りに時間を要し、アベノミクスの登場まで、経済の低迷が続くことになる。そのアベノミクスも今や行き詰まりつつあるが…。

以下、拳拳服膺のこと。

「金融資本主義や投資銀行を批判するのはよい。しかし、知恵がある人に対抗するには、こちらも知恵を持つ必要がある。そうでないと、いいように利用されてしまう」
「今回の危機では、(日本は)単に愚かだっただけだ。知恵の不足がいかなる結果をもたらすかを、日本人は肝に銘じて知るべきだ」     (野口悠紀雄著「世界経済危機 日本の罪と罰」ダイヤモンド社)

(出演)
クリスチャン・ベール、スティーブ・カレル、ライアン・ゴズリング、ブラッド・ピット
(監督)アダム・マッケイ


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