「フラットライナーズ」とは何? | 世日クラブじょーほー局

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 「フラットライナーズ」とは、心電図の波形がまっすぐになったという意味で、すなわち死せる者達?20年ほど前のハリウッド映画だが、当時は駆け出しだったキーファー・サザーランド、ケビン・ベーコン、ジュリア・ロバーツなど今をときめくビッグスターが共演を果たし、さらになんとマイケル・ダグラスがプロデューサーなのだ。

 しかしこの作品は、確かヨーロッパで上映禁止となった国もあったと聞いた。なぜか?内容がスプラッターや、エログロだということではない。この作品が扱うテーマはいわゆる“臨死体験”なのだが、中身が鮮烈すぎたのだろうか。

 ストーリーはこうだ。キーファー・サザーランド扮する主人公をはじめとする4人の医大生仲間は、死後の世界に興味を持ち、その存在を確かめるべくあろうことかそれぞれの心臓に電気ショックを当てて仮死状態を作り出し、一定時間経過の後、同じ方法で蘇生させるという実験を試みる。

 果たして、見事彼らはそれぞれ臨死体験に成功するが、しかしそれは彼らが期待したようなファンタジックなものではなく、自らのこれまでの人生における過去の暗部を見せられるのだった。なお見てしまったからにはタダではすまされない。

 4人の中の一人であるケビンベーコン扮する人物は幼少期に同級生の黒人の女子に対して、差別的でセクハラ的な暴言などでいじめた過去があった。それはすでに彼の記憶の片隅にさえなかったのだが、臨死状態おいて赤裸々に暴かれる。そしてそのことで心が傷つけられた相手が当事の姿で現実世界に現れ、今度は逆に彼女から執拗なまでに罵詈雑言を浴びせられるという現象が起こる。

 耐えかねた彼は、その解決に、ふとあることを思い立つ。それはいじめた彼女に謝罪し、許しを乞うということだった。むろん彼女は生存しており、彼はその彼女を探し出して、志を遂げる。それ以来この現象は止むようになった。一見単純なように見えるが、深い内容があると思う。人として傷つけた相手に対して自分の非を認め、頭を下げて誠心誠意謝るということほど難儀なことはない。差別、偏見により相手を低く見た場合なおさらのこと。このことができるならば、世界中で起きている問題はあらかた解決しよう。これは一つの普遍的な原則を示しているといえる。

 このケビンベーコン扮する医大生の体験はそれでもまだ一番容易かった。その他のメンバーもそれぞれ脛にキズをもつが、はたして結末や如何に。詳細に関してはご自分で確かめ、その目に焼きつけられたい。

 この作品から教訓を汲み取るとすれば、人生において人を恨み、また恨まれることがあってはならない。そして国の法律による処罰如何にかかわらず、あるいは生前か死後かを問わず、その代価は必ず支払われなければならない。なおその仕方は「目には目を」が原則となる。

 これは確かに単なる娯楽映画だ。しかし“売らんかな”だけで考え出した空想の産物に過ぎないのだろうか。あまつさえキリスト教的贖罪観が色濃く反映されているのであって、だから自分には関係ねーと切って捨てられるだろうか。程度の差こそあれ人種、年齢、宗教を問わず己の胸に突き刺ささってくるものがあるはずだ。

 以前にも記事に書いたが、人間誰しも、母の胎内に生命が宿り、十月十日を経てこの世に誕生するまで、これから生まれ出る世界が、今現在自分が目にしている「このような世界」だと理解した者はいない。胎児は無意識なのだから当たり前だというのだが、もし胎児に意識と考える力があったら、この世のありようを想像できたろうか。馬鹿な発想ではある。

 人間は全く無知無力な状態でこの世に生まれて来るが、時を経て成長するにつれ、なまじ知識や経験を得て、さも自分から望んで生まれてきてこの世を謳歌しているかのごとく錯覚するようになる。しかし、“おでんくん”の文句じゃないけど、「何でも知ってるつもりでも、世の中知らない事だらけ」。人間はいまだに物質の根本も、生命の起源も、宇宙の構造のありようもわからない。死後の世界の有無さえわからず、人生の意義、価値、目的も真に見出せずにただ悄然と立ちつくすのみではないか。まわりの誰もがそうなので時の過ぎ行くままに、特段気にもかけない。極言すれば、それは胎中の胎児のようでもある。だからまずもって無知の知を自覚し、自ら頭を低くする必要があるということだ。人は肉体の死を迎えて、今度はまた新たなステージたる無形世界に生まれ出ると考えられないだろうか。これは荒唐無稽な話しか。富や権力、名声にご執心なら到底わかるまいが、しかしもう、そこかしこにヒントはあふれている。この作品もその一つだろう。

(出演)
キーファー・サザーランド、ジュリア・ロバーツ、ケビン・ベーコン、ウィリアム・ボールドウィン、オリバー・ブラット
(監督)ジョエル・シューマッカー