佐々木穣著「警官の条件」(新潮社)を読む | 世日クラブじょーほー局

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警官の条件/佐々木 譲

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 佐々木穣、この名前を知りませんでした。さる人物が薦めてくれなければ、著書を手に取ることもなかった。佐々木氏は、警察小説の名手と謳われる。なるほど巻末の広告欄には、「警官の血」などのタイトルが見える。

 本書は内容の前にまず、550ページという分量に気圧される。ここにも当方が普通なら手にすることのない理由がある。

 物語の舞台は、言わずと知れた警視庁であり、その中で、組織犯罪対策部(組対)をフィーチャー。この巨大組織をそれなりに俯瞰するのに、いきおい登場人物も多くなり、何度か読み直す必要もあったが、ほどなく引き込まれるように読んだ。

 帯に「お前はなぜ、ここにいる」とあるが、読み進めながら常に、タイトルである「警官の条件」とは?にフィードバックさせられる。

 物語は、かつて任務を共にしたが、ある時点を期して全く違う人生を歩むことになった二人の刑事の視点を通して、警察機構の本質に肉薄せんとするが、一つの小説の中で、現在の警察のありようを良くも悪くもこれほど網羅し、なおかつ微に入り細を穿って描き出したのは、他に例がないのではないか。(よく知らんけど…)

 現実とフィクションが入り交りながら、ストーリー展開のスリリングさは、エンターティンメント性も十分。さらに登場人物の心情の機微や、何気ない仕草など、細やかな筆致で、読み手の眼前に鮮やかな映像を映し出してみせた。まさに小説の神髄をみた思いがしたが、大袈裟かな?しかしいやはや、佐々木穣恐るべし。

 ところで数年前、「アメリカンギャングスター」なる映画があった。時は、ベトナム戦争の末期、ラッセル・クロウ扮するニューヨーク市警の孤高の敏腕刑事とテンゼル・ワシントン扮する麻薬密売の新興組織のボスとの闘いを描いた、リドリー・スコット監督の手になる実話に基づいた作品だった。素材もメッセージ性も本書とシンクロするところが多かったと思うが、佐々木氏が、まさかこれにヒントを得たということもあるまい。

 ともあれ、昼夜たがわぬ過酷さであったり、常に危険と隣あわせの任務に携わる全国の警察官総勢4万人へのオマージュは、ひしひしと伝わってきた。