カウンセリングサービス代表の平準司です。
ご相談におみえになった男性は、女性に自分から告白したり、近づいたりということがとても苦手でした。
彼はきちんとしたサラリーマンで、それなりのイケメンで、けっしてモテないほうではありません。
しかし、前述のようなタイプなので、30代後半になっても、女性と交際した経験がまったくなかったのです。
では、なぜ、自分から行けないのかといえば、彼がものすごく失敗を恐れる人だったからです。
告白してもうまくいかないとか、つきあっても上手にエスコートできないということばかりを想像し、実行に移せないのですね。
このタイプの場合、非常に厳しく育てられたという人が少なくないようです。
さっそく、彼に「ご両親は恐かったですか?」と聞いてみると、父親がそれは厳しい人だったという答えが返ってきました。
心理学的に、家庭というのは何度失敗しても許され、受け入れられる環境にある場所と考えられています。
子どもたちが何度も失敗をし、そのたびにまたチャレンジし、成功に行きつくというプロセスがたどれる唯一の場所といえるわけです。
「ほんとうに、しょうがないわね」と言いながらも受け入れてくれる母親、「こんどは気をつけるんだぞ」と注意はするものの笑顔の父親‥‥。
そんな親たちに見守られていたなら、子どもたちもさほど失敗を恐れずにすみます。
ところが、中には今回の彼のように、家庭環境が厳しく、失敗が許されないという中で育つ人もしばしばいるわけです。
すると、どうしても完ぺき主義者になりやすく、失敗する自分を許せなくなったりしがちです。
恋愛においても、もちろん失敗は許されません。
そんな人にとって、失恋という失敗をしない唯一の方法‥‥、それが、恋をしないこととなるわけです。
また、フラれることを恐れる彼にとって、安心できる恋愛の方法は、女性のほうから彼に近づいてくるということしかありえません。
しかし、女性が近づいてきても、その人が好きなタイプであるときほど、彼は視線をそらせたり、興味のなさそうな態度をとったりしてしまいます。
女性たちは「自分には興味がないのだな」と彼から距離を取るようになっていきます。
ですから、結局、彼が女性と接する機会はないまま、今日まできたというわけです。
さて、父親に厳しく育てられた彼の子どものころの記憶には、“とても恐いおとうさん”の顔やイメージが残っています。
そのおとうさんの横で、自分はいったいどんな表情や態度でいたかということを彼に想像してもらいました。
そこには、父親になつかず、反抗的な態度の子どもがいたわけです。
「では、その子を見て、おとうさんはどう感じていたと思いますか?」と私が聞くと、彼は父親が子どもだったころの話をしてくれました。
彼の父親は幼いときに両親を亡くし、母方の祖父母に育てられたのだそうです。
その家は農家でしたが、母の姉であるおばさんが結婚せずに同居していて、面倒こそみてもらえたものの、とても厳しい家だったということです。
そして、子ども時代に家庭的に恵まれていなかった父親は、将来、結婚し、自分の家庭をもつということをとても楽しみにしていたのだそうです。
彼には姉がいるのですが、彼女はけっこう父親にかわいがられて育ったようです。
が、とにかく、父親は彼には厳しかったそうです。
多くの場合、人は自分の育った環境を基準に物事を考えます。
父親にとってはそれが厳しい祖父母の家だったわけですね。
また、強い人間に育てることを子育てだと感じる親というのも少なくないわけで、彼のように厳しく育てられることもよくあるのです。
その一方、彼があまりなつかない子どもだったということは、おとうさんの心の傷にふれる部分もあったようで、それによって、二人の仲はあまりいいものとはいえなくなっていったようです。
そこで、彼には、長いこと、父親との間にあった心の距離を感じてもらいました。
そして、その感情を使い、おとうさんが子ども時代に感じていた孤独を感じてもらいました。
その孤独な子どもである父親を、その父親、つまり彼の祖父の立場になって、愛してあげるというワークをしてもらったところ、彼は泣き出してしまいました。
「そうか‥‥。親父も自分の親父から愛されていなかったので、どうしていいかがわからなかったんですね」
その後、彼は女性たちから離れるのではなく、「どう近づいていったらいいのかがわからない」、「気持ちをどう伝えればいいのかがわからない」と正直に伝えられるようになりました。
それによって、恋愛の腕が急速に上がりだしたのです。