※一部の記事を修正しました。
詳しくは、【おしらせ】をご参照ください。
前回では、感情の苦しさが「考え方」や「心の持ちよう」ではなく、身体反応のプロセスとして捉えられることを整理しました。
今回は、気分ややる気、不安がなぜ意思では動かせないのかを、自律神経の性質から整理していきます。
その中で【1-1:私の体験・メソッドの原点】で、お話をした私の体験を理解していきます。
私たちはつい、気分を「考え方や心の持ちよう」の問題だと捉えがちです。
「前向きに捉え直せば楽になるはず」
「ネガティブな思考を止めれば大丈夫」
「感謝の気持ちを持てば道は開ける」
しかし、ポリヴェーガル理論(多重迷走神経理論)の視点では、
気分は「認知(思考)」よりも先に「神経の状態」によって決まると考えます。
「どう感じるか」は「どう考えるか」以前に、
「今、どの自律神経回路が優位か」という生理的なスイッチによって支配されているのです。
自律神経は、単なる「交感神経/副交感神経」の二分割ではありません。
ポリヴェーガル理論では、私たちの心身は以下の三つのモードを行き来していると考えます。
- 安心モード(腹側迷走神経優位)
リラックスや好奇心、柔軟性が生まれ、人と自然に関われる状態です。
いわゆる「調子がいい」「心に余裕がある」状態。 - 警戒モード(交感神経優位)
不安や焦り、イライラ、止まらない思考(反芻思考)が強まり、身
体は常に緊張し、休んでも疲れが取れません。
多くのメンタル不調は、この警戒モードが「オン」のまま固まった状態です。 - シャットダウンモード(背側迷走神経優位)
無気力や抑うつ、感情の麻痺、孤独感が強まり、
体が鉛のように重く、動けなくなります。
これは「怠け」ではなく、過剰な負荷から命を守るための
「強制終了(フリーズ)」という防衛反応です。
当時の私は、表面的には仕事をこなしていましたが、
内側では「警戒モード」と「シャットダウンモード」の間を激しく揺れ動いていました。
常に頭が忙しく、小さな刺激で不安が跳ね上がる(警戒モード)。
一方で、人と会うと極端に疲れ、家に閉じこもりたくなる(シャットダウンモード)。
この状態では、対人コミュニケーションを司る安心モードが働かず、雑談すら苦痛になるのは当然の結果だったのです。
ここで最も重要なのは、「このモードにあるとき、前向きに考えようとする努力は逆効果になりやすい」という点です。
無理に「ポジティブになろう」と負荷をかけると、
脳はそれを「さらなる脅威」として感知します。
無理に明るく振る舞う=神経へのさらなるストレス
「できない自分」を責める=脳内での危険信号の増幅
その結果、ブレーキとアクセルを同時に踏むような状態になり、
反芻思考は加速し、心の苦しさは増していきました。
「良くしようとする努力」そのものが、神経の警戒を解く邪魔をしていたのです。
私が最終的に継続した取り組みは、
自律神経を無理やり整えようとするものではありませんでした。
- 安心しようとしない
- 落ち着かせようとしない
- ポジティブになろうとしない
ただ、身体に起きている感覚や「ぐるぐる思考」という現象を、
「評価せず・操作せずに、ただ観察する」という実験を
観察するような姿勢を貫きました。
一見、何も変えようとしていないこの姿勢こそが、
私の神経系に「今は安全だよ。もう守らなくていいよ」というメッセージとして伝わったのです。
一見、悪化したように見えますが、理論的には「凍りついていたエネルギーの放出」です。
長年、防衛のために身体に閉じ込められていた過剰なエネルギーが、
安全な観察によって解放され、神経系が「再起動」していたのです。
この嵐を通り過ぎた後、私の神経系は自然と安心モードを取り戻していきました。
「今の神経状態にそぐわない努力をやめる」という、
神経生理学に基づいた合理的な選択です。
「操作しない」「変えようとしない」
それは精神論ではなく、あなたの身体が本来持っている「自己調整能力」を信頼し、
再び動き出すための最も近道な方法なのです。
では、それらの身体反応や神経の情報を、脳はどのように扱っていたのでしょうか。
次回は、扁桃体・島皮質・前頭前野という脳内の役割分担から、
なぜ「頭では分かっているのに、やめられなかったのか」という状態が続いていたのかを整理していきます。
今後の記事として検討させていただきます。
