「うちの子ども、もう何度言っても、言うことを聞かないんです。勉強だけじゃないんですよ。 片付けも、返事も……。ずーっと言っているのに、ちっとも聞かない。やらない。
一体どうしたら、やる気になってくれるんでしょうねー?」イライラ感いっぱいで訴えてくるAさんは、小学4年生のお子さまのお母さんです。
「もう、石川さん、なんとかしてくださいよー!」と言わんばかりの迫力に、少々タジタジになりながら……。
「それで、Aさんは、お子さまには将来、どうなってほしいと思われているんですか?」
こうなったら、質問するしかありません。
「えっ?」
Aさんがようやくしゃべるのをやめました。しばし、沈黙……。
「お子さまには、最終的に、どんな人生を歩んでもらいたいと思いますか?」少し質問を変えて、再び、質問。考え込むAさん。皆さんだったら、どう答えますか?究極のゴールに向かって関わる
「そりゃあ、幸せな人生、ですよね。そんなにものすごく大成功しなくてもいいから、自立して元気で幸せに生きてもらいたいです」ようやく、Aさんが答えてくれました。
「そうですよね。そのためには、お子さまにはどんな大人になってもらいたいですか?」
「それは……、親にいちいち言われなくても、自分で何でもできる人になってもらいたいです。親はいつまでも一緒にいるわけじゃないんだから」
「そうなんですね。それで、今は、どういう気持ちで接しているんですか?」
「言っても聞かない。言われないとできない子……。
あっ!? あー!そうですよねー!! 言われないとできないと思っているから、つい言ってしまって、言われないとできない子になっているんですよねー。
あー、私がそういう子にしているってことですかー?」
「そうだとしたら、じゃあ、どうしますか? これから」
「私から『やれ!』って言わない。まず、任せる。子どもに考えさせるってことですよね。
あー、だから、コーチングってこと?」いつの間にか、Aさんのコーチングのようになってしまいましたが、短時間で、「これからはこうする!」と自らおっしゃったAさんに、私はとても感動しました。
このコラムでも、「子どものやる気を引き出す」をテーマに、さまざまなコミュニケーションのとり方や言葉の使い方などをご紹介していますが、それらを用いて、「そもそも、なぜ、子どものやる気を引き出す必要があるのか?」
「子どもにどうなってもらいたいのか?」という点を、時々、思い出す必要があると思います。究極のゴールを見失って、目先のことばかりに反応していたら、保護者も子どもも決して幸せにはなれないでしょう。
「考えることを促す」、「引き出す」コミュニケーションを
私は、ビジネスコーチとして、日々、さまざまな社会人と出会うなかで、確信していることがあります。「社会に出たら、ものを言うのは学力よりもコミュニケーション力と課題解決力だ」と。どんなにペーパーテストの点数がよくて入社しても、
現場で、「周囲の人とうまくコミュニケーションをとり、自分で考え、行動し、課題解決する」ことができなければ、望む成果は得られません。仕事のやりがいや人生のだいご味など味わえないのです。そのような例を山のように見てきました。
「言うことを素直に聞く子」「テストの点数がよい子」だけではかなり危ういです。特に、「自分で考え、自分で行動できる子」であることは、将来、確実にものを言います。
だから、「ああしろ! こうしろ!」とこちらが言うのではなく、子どもが自分で考えて行動する機会をつくってあげてほしいのです。
「自分の課題は自分で解決できる」という体験が多ければ多いほど、自己肯定感は高まります。それこそが、幸せに生きるための原動力です。
将来、幸せになってほしいと願うならば、やはり、「教える」のではなく「考えることを促す」、「与える」のではなく「引き出す」コミュニケーションだと思うのです。
プロフィール 石川尚子
国際コーチ連盟プロフェッショナル認定コーチ。ビジネスコーチとして活躍するほか、高校生や大学生の就職カウンセリング・セミナーや小・中学生への講演なども。
近著『子どもを伸ばす共育コーチング』では、高校での就職支援活動にかかわった中でのコーチングを紹介。