膝が痛い!動かしにくい!とお感じの中高年の方は多いでしょう。「もう歳をとったのだからしかたない」と諦めていませんか?
もし辛い症状があるのなら、我慢してはいけません。膝の痛みの原因で最も多いのが「変形性膝関節症」という病気で、自然に治ることはないからです。
変形性膝関節症は、加齢や生活習慣などの影響で、軟骨や関節がすり減って痛みが生じる病気です。40歳以上の人の半数程度がかかっているとも言われています。
自然に治ることはありませんが、適切な治療を行えば、痛みを軽減し、進行を食い止めることができます。運動や生活改善など、日々の生活のなかでできることもあります。治療法も進歩し、選択肢も増えています。
この連載では、変形性膝関節症が起きる原因やさまざまな治療方法、生活の工夫などをQ&A方式で解説します。人生100年時代といわれている今、大切な膝を守りながら、心身ともに元気に過ごしていくためのヒントを見つけてください。
今回は、受診の目安や診断、治療の選択肢についてお伝えします。
変形性膝関節症 治療大全第2回
40歳以上の半数がかかる「膝の病気」…男性より女性の方が「膝を悪く」しやすい理由© 現代ビジネス
Q 変形性膝関節症の受診の目安を教えてください。
まず、膝の痛みなどの症状がある場合は、早めに整形外科を受診して検査を受けたほうがよいでしょう。変形性膝関節症は一般的に進行がゆるやかなので、初めから強い症状が出ることはありません。
そのため、しばらく様子をみる人も多いのですが、診察を先延ばしにするとその間にも進行してしまいます。また、症状には波があるので痛みがおさまる時期もありますが、変形性膝関節症が完治したわけではないので注意しましょう。
膝のこわばりや違和感がある程度のごく初期であれば、ストレッチや筋力トレーニングで改善することもありますが、1ヵ月ほど続けてみても改善しないときは受診のタイミングと考えましょう。
すでに症状によって日常生活になんらかの支障が出ているときは、速やかに受診しましょう。
例えば、歩行中に痛みが出て休まないと歩けないとか、正座やあぐらができない、しゃがむ動作ができない、安静時も痛みがあるという場合は、膝関節の炎症や変形が進んでいます。
また、以前よりO脚が目立つようになってきたら変形がかなり進行していることが考えられます。すぐに受診することをおすすめします。
なかには歳をとれば誰にでも起こるものだからとそのままにしておいたり、痛みをがまんしたり、市販の湿布薬などでやり過ごしたりしている人も多いようです。
しかし、立ち座りの動作や歩行が困難になると、やがて介護が必要になるリスクが高くなります。
高齢者の膝の痛みはサルコペニア(筋肉量の減少)やロコモティブシンドローム(運動器症候群)を招き、寝たきりにつながることもあります。さらには不眠、うつ病など心の不調に発展するリスクもあります。
健康で自立した生活が送れるようにするためにも、早めに受診して治療を開始することが大切です。なお、急に強い痛みや腫れが起こって、膝が熱をもった場合は至急診察を受けてください。
こうした急激な症状の場合は、化膿性関節炎(膝の痛み以外に、発熱や悪寒などかぜに似た全身症状が現れます。急激に悪化すると軟骨や骨が破壊され、ときには命にかかわることもあります。
)など別の病気が起こっている可能性もあります。自己判断で解熱薬や鎮痛薬を飲んで、がまんするようなことはしないでください。
Q 変形性膝関節症の診断までの流れが知りたいです
膝の痛みなどの症状があって整形外科を受診した場合、初診では問診、触診などの診察、エックス線検査、必要に応じて血液検査などがおこなわれます。
まず問診をおこない、次に膝の状態を観察したり触ったりして確認します。
膝の変形の程度をチェックしますが、立った姿勢だけでなく、あお向けに寝た状態で膝を内側や外側に少しひねって動きを見ることもあります。実際に歩いてもらって歩き方を観察することもあります。
例えば、膝関節の変形が進行してO脚が進むと、膝の外側にある靭帯がゆるくなって歩行時に地面に足がついたとき、痛みがある側の膝がずれることがあります。そうした様子がないか確認します。
次に腫れや熱感のチェック、膝に関節液がたまっていないか、膝のぐらつきがないかなどを調べます。
また、膝の可動域を調べるため、膝を動かすこともあります。この場合は、あお向けになり、医師が患者さんの膝の曲げ伸ばしをして、動く範囲を確認します。
膝を動かすときには可動域だけでなく、異音がしないかも調べます。骨と骨がこすれあったりぶつかったりする音がしないか、音がしなくても引っかかりがあるときはその感触がわかります。
膝の痛みの原因が腰や股関節などほかの部位にあることも考えられるので、腰の触診をしたり股関節の動きを調べたりすることもあります。
このように診察では膝をいろいろな角度から観察したり動かしたりするため、診察がスムーズに進められるように、服装は膝を露出しやすい幅がゆるめのパンツスタイルがよいでしょう。
さらにエックス線検査などの画像検査をおこなって、膝関節の状態を確認します。別の病気との鑑別が必要な場合は、血液検査や関節液検査がおこなわれることもあります。
診断は問診や触診、画像検査の結果を見たうえでおこないます。変形性膝関節症であれば、たいていはこれらの診察で診断が可能ですが、症状によってはさらに詳しい検査が必要になることもあります。
Q 手術以外の治療方法はありますか?
変形性膝関節症と診断された場合、治療の選択肢は大きく2つに分けられます。
手術と、それ以外の保存療法です。通常はまず保存療法が選択され、関節の変形をそれ以上進行させないようにしていきます。ただし、関節の状態によっては手術が必要になることもあります。
一般に、初期のエックス線検査で膝関節の変形がまだ軽度であるというときは、保存療法が推奨されます。保存療法には、以下のものがあります。
●運動療法
ストレッチや筋力トレーニング、有酸素運動などで膝関節を支える筋肉を鍛えたり、膝の可動域を保ったりするのが目的です。また、肥満によって膝に負担がかかっている人は、体重を適切にコントロールするための運動も必要です。
●生活指導
膝を守るための日常生活での注意点です。肥満の改善、膝の保温、膝に負担をかけない動作や生活の工夫などがあります。
●薬物療法
痛みや炎症を改善する消炎鎮痛薬の投与や関節内注射などがあります。
●装具療法
装具を使用して膝の負担を軽減します。
●物理療法
主に通院しながら受けるもので、膝を温める温熱療法や電気刺激療法などがあります。これらの保存療法を少なくとも3ヵ月~6ヵ月は続けてみます。
それでも効果が得られず痛みが強くなったり、関節の変形が進行したりしているときは手術を検討します。
ただ、実際には数年間は保存療法を継続して経過をみることが多いです。また、医師が手術をすすめる場合でも患者さんが保存療法を続けることを選ぶケースもよくあります。
変形性膝関節症では、軟骨がすり減って関節の変形が進行していても、痛みがあまり強くならない人もいます。日常生活に支障をきたしておらず、薬や運動で症状を十分にコントロールできていれば、保存療法を続ける選択もあります。
しかし、歩くのもままならず、日常生活に支障があるようなときは手術に踏み切るタイミングといえるでしょう。
どちらを選択するにしても、大切なのは患者さんが何を望んでいるかです。休み休み今の生活が続けられればよいという人もいれば、早めに手術をして仕事や趣味を楽しんで活動的に暮らしたいという人もいます。
患者さん自身がどうしたいのかをよく考えて、医師と相談しながら治療法を選ぶとよいでしょう。
池内昌彦(いけうち まさひこ)
1995年、高知医科大学医学部卒業。高知大学医学部整形外科講師、准教授などを経て2014年に高知大学医学部整形外科教授に着任し、2020年より高知大学教育研究部医療学系臨床医学部門部門長を併任。日本整形外科学会、日本膝関節学会、日本人工関節学会、日本関節病学会、日本運動器疼痛学会などの理事も務める。専門は変形性膝関節症、スポーツ障害、人工関節手術、運動器疼痛、リハビリテーション医学など。全国から膝の痛みを抱える患者さんが後を絶たない。膝の痛みに対する新しい治療法の研究もおこなっている。