キーボーディスト、としての誇り8 | KeyboardだってROCKだぜ

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引き際を見誤った、金髪ロックキーボーディストの日常。

一部の皆様、お待たせしました。なんだかんだで第8弾です。
今回のお題は『アナログ感覚』。

楽器業界の中で、“デジタル化”の波が押し寄せたときに、真っ先にあおり(?)を受けたのがキーボードでした。時は70年代→80年代への転換期。当時のイメージとしては『デジタルは新しい、デジタルの方が何かカッコいい。』…かなり主観も入ってますが。
VCOがDCO(どちらも発振器=シンセの音作りの大元です)にとってかわるくらいならまだしも、【シンセサイザー=フロントパネルに所狭しと並ぶツマミの数々】という概念を覆した“YAMAHA DX7”の出現は衝撃的でした(注:それ以前にもボタン&スライダーで音作りをするシンセはありましたが、後発への影響という意味ではDX7の比ではありませんでした)。ときは1983年。1981〜82年にかけ制定されたMIDI規格の影響も相まって、当時の自分にとって、とても未来的に映りました。見た目も斬新で、チョコレートブラウンの筐体に、グリーンのボタン(正確にはプリントでしたが)。

自身もいち早く購入しようと思い立ちましたが、爆発的売行きで品薄。当時既に上京していたのに、地元(静岡県)の楽器店に無理を言って1台確保して頂いて、段ボール梱包のまま新幹線で持ち帰りました(笑)。

住んでいたアパートまでヒイコラ言いながら持ち帰り、いそいそと開梱。
「え、ツマミ(スライダー)が2つしかないの?」
それまでのシンセと違い、パラメーター(音色作りのための要素)をボタンを押して呼び出し、その数値を変更して音作りを行うというスタイル。今でこそ当たり前となったこの手法を確立させたのもDXでした。音源は“FM音源”だそうで。『キャリア?モジュレータ?アルゴリズム?何それ?』てなもんで、これまでの音作りのノウハウが一切通用しない音源システム…。
などなどですが、このまま話を続けるとどんどんディープになっていくので、DXの話はこのへんで。
↓手放せないまま、今でも持ってます。
(画像下段。上段は後述minimoog。)
久しぶりに引っ張り出しましたが…重い!

一方レコード業界ではアナログ盤→CDへの転換期。それよりも早く時計業界では“デジタル時計”なるものが製品化され市場を賑わせてました。
(注:それまで時計は“針”で指示された時間を読み取るものだったのに対し、LCDに時間が数字で表示される形態になったものを当時“デジタル時計”と呼んでいたのですが、これって本来の『アナログ/デジタル』とは意味合いが異なります。)

楽器業界のみならず、一般社会においても“デジタル化”の勢いは止まらず、なんでもかんでもがデジタル、デジタル…。1980年前後はそんな時代だったように回想します。
話は現在に戻りますが、音楽ソフトを作るレコーディング作業の現場においても、アナログマルチ(テープレコーダー)の時代はとうに終わり、デジタルマルチ(テープレコーダー)の時代もあっという間に過ぎ去り、今やテープなんて過去の遺物。制限のあるトラックのやりくりに頭を悩ませてた時代が懐かしくなりつつあります。
『3テイク前のやつで!』とか、素材繋いで1本にとか、そりゃ若年ミュージシャンの質も落ちるわk…ゴニョゴニョ


さて前置きが長くなりましたが(長過ぎ)、ハードがいかにデジタル化されようとも、機械的に進化を遂げようとも、人間の感覚や感性は“アナログ”なんです。これは間違いなく。

たとえばリズム感。
4分の4拍子において1拍めの次は2拍め、確かにそうです。しかしその間には“裏”があり、さらにその間にも、またその間にも…と、数字で割り切れない“間”が無限に存在します。また、『タメ』や『ツッコミ』という微細かつファジーな感覚、これが人間の感覚本来でいうところの『気持ち良さ』に繋がっていたりもします。曲想により、テンポにより、その具合は異なります。その日の気候や気温・湿度によっても変わってくるかも知れません。それが人間の感覚ってもんだと思います。

一方で音色。
前述したように、シンセサイザーはデジタル化の波に押され、以降数々の“デジタル音源の名機”が生み出されました。それでもなおかつてのアナログシンセ、minimoogやARP Odysseyの音が珍重されているのは、『人間の元々の感性がアナログだから』に他ならないと思っています。のちに“アナログモデリングシンセ”や、前述楽器の復刻版がリリースされたのは、決して『アナログの良さが見直された』わけではなく、本来の感覚に正直になった結果だと思ってます。

音律もしかり。
現代では12平均律が主流ですが、人間の感性(=気持ち良さ)に即していえば純正律(または純正調)の方が美しい。機能性と利便性を優先するために、こうした感性や感覚を犠牲にしたのが平均律ですもの。ヴェルクマイスターやキルンベルガーなどなど紆余曲折の果てに、単に1オクターブ(=周波数比1:2)の間を12等分しただけのものが現代の12平均律です。



手間味噌な話で恐縮ですが、つい先日イベントで競演したミュージシャンの方にこんな言葉を頂きました。
『こんなにアナログな音を出すキーボーディストに、久しぶりに会ったよ。』
ありがたいお言葉です。当日使っていたのは“デジタル音源”だったにも関わらず、です。なお、この方とは4月に初共演させて頂ける予定なので楽しみです(^^)

この方はギタリストですが、ギターってアナログそのものですものね。
ピックで弦を弾く→弦が振動する→ピックアップがその弦振動を拾い、電気信号化する→アンプが増幅する→ギャーン!!
途中経由するエフェクターがデジタル回路だろうが、アンプがモデリングアンプだろうが、関係ないです。結局、弾き手の動作と気持ち、音を作る時の感覚が全てなんだと思います。
先の『アナログな音を出す』というお言葉、最高の褒め言葉でした。オカ○ロさんありがとう←一応伏せ字(笑)
けど、単に音色だけを指した言葉ではなく、楽器を弾くことに対する想いや感覚・感性、ひいては音楽に挑む気持ち。そういうものが総体的に評価されたと受け止めています。


そう、人間の感覚や感情は“アナログ”なんです。言い換えれば“いいかげん”、いや“良い加減”なのです。アナログ的感性をもってしてこそ、聴衆の心や魂を揺さぶることが出来ると信じています。

楽器=キーボード/シンセサイザーは我々にとって、自己表現のための大切なツール。しかしその機械的構造がどうであれ、きちんと自分の感情や想いを乗せて音として表現したいものです。


人間の気持ちは割り切れるものではないし、感情は0か1かでもない、ましてや我々はミュージシャンですから、ね。
『アナログは温かい』『デジタルは冷たい』なんて一辺倒に表現する向きもありますが、それはまずあなたの人間性と表現力なのではないですか?血の通った音楽しましょうよ!

と、ちょっと小難しい話でした。