運転席には誰もいない。アプリで呼んだ車が自分で迎えに来て、歩行者に道を譲り、目的地まで走る。遠い未来の話ではない。

 

米Waymoは累計2,000万回超の乗車を提供し、現在は米国14都市圏で乗客を運ぶ。2026年6月時点では週50万回超の有料乗車、約3,500台の車両に達していた。ロボタクシーは「実験」から「交通産業」へ移ったのである。

 

すごさは台数だけではない。米道路安全保険協会(IIHS)がサンフランシスコなど4都市の約5,000万マイルを分析したところ、Waymoの無人車が警察への届け出対象となる事故に関与する率は、人間の運転より68%低かった。

 

対象地域と期間が限られ、監視制度にも改善余地はある。それでも、企業の宣伝ではない独立研究で、安全上の優位が示された意味は大きい。

 

では、自動運転を含む米中競争はどちらが勝っているのか。結論は「現在の王者は米国、量産の地力は中国」である。

 

無人・有料運行の完成度では、Waymoが突出しており、都市ごとに運行条件が異なる中国との差は歴然である。

 

安全性の公開・第三者検証では、Waymoには独立研究あり、横比較できる公開資料が少ない中国とは比較そのものができない。

 

有力企業の厚みでは、米国のWaymo、Tesla、Zoox、中国のApollo Go、Pony.ai、WeRideを比べると、中国の方に厚みがある。

 

車両・部品の低コスト量産では、米国は強いが高コスト、中国はEV、電池、LiDAR、製造網が厚く、中国に分があるといえる

 

2030年に向けた拡張力は、米国は民間主導、中国は政策と都市実装が連動しており、中国が優勢である。

 

中国の強みは「一社の天才」ではなく「産業の厚み」である。百度Apollo Goは28都市に足場を持ち、累計3.5億キロ超を自動走行、そのうち2.4億キロ超を完全無人で走ったと公表した。Pony.aiはロボタクシー1,975台、WeRideは1,800台超を世界で展開している。

 

商用化を重視するAutnmy AIの順位でも、Waymoに続く2~4位はこの中国3社であった。さらに、中国政府は2026年9月、2030年までに高速道路、都市高速、一部市街路で自動運転車を大規模展開する方針を示している。

 

ただし、数字は同じ物差しではない。「展開都市」には試験走行も含まれ、Waymoの有料無人サービス14都市圏と単純比較できない。2026年春には武漢でApollo Goの少なくとも100台がシステム障害で一斉停止し、中国当局は新規許可を一時停止したと報じられた。

 

中央制御された車両群は、人間の居眠りをなくす一方、一つの不具合を同時多発させる。またPony.aiとWeRideは急成長中だが、2026年4~6月期はいずれも売上高を上回る損失を計上した。中国勢は規模では侮れないが、安全情報の比較可能性、システムの透明性、採算性はなお課題である。

アメリカで本当にすごい会社はどこか

第1位は、疑いなくWaymoである。走行できる、客を乗せられる、料金を取れる、安全性を検証できる――この4つを同時に満たす規模が違う。

 

第2の注目は、Teslaである。ただし、「現在の実績」ではなく「成功した場合の破壊力」が大きい。Teslaは、カメラ中心のAIと自社の量産工場を組み合わせるため、技術が十分に安全だと証明されれば、専用センサーを多用する車より急速かつ安く増やせる可能性がある。

 

一方、2026年6月末までの有料ロボタクシー走行は約250万マイルで、車内監視員なしは約38万マイルにとどまったと報じられた。一般車向けFSDも基本は運転者監視を要するレベル2であり、Waymoのレベル4無人運行とは分けて考えるべきである。Teslaは王者ではなく、ゲームのルールを変え得る挑戦者である。

 

第3は、Amazon傘下のZooxである。ハンドルもペダルもない対面座席の専用車は、既存車を自動化するのではなく「移動する部屋」を設計した点が面白い。2026年7月には、米当局から有料運行に向け、年2,500台を2年間展開できる承認を得た。ただし、現時点の運行規模はWaymoよりはるかに小さい。

 

GMが、Cruiseのロボタクシー開発から撤退した事実も、この競争が資金と安全の両面で、いかに厳しいかを示す。

日本はこれからどうなるか――2027年度が「実証卒業」の年

日本の遅れは否定できない。しかし、来年の2027年度を単なる目標年とは置いていない。都市のロボタクシー、地方のバス、幹線物流、一般向け乗用車、事故調査制度が同時に動き出す転換点とする動きが始まっている。

 

政府は、2027年度までに無人自動運転移動サービスを100か所以上で実現し、2030年度には全国のバス、タクシー、幹線輸送トラックを合わせて自動運転サービス車両1万台を目指す。国土交通省の資料が示す普及イメージでは、2025年度の約10台から2027年度に約1,000台、2030年度に1万台へ増やす急勾配の計画である。

 

その助走として、政府は2026年3月、2027年度をめどに継続的な事業化を目指す13地域を選んだ。横浜と神戸はモジュール型AI、堺はE2E型AI、日立と塩尻は既存サービスの運行エリア拡大、仙台、つくば、川崎、平塚、小松、愛知、京都、三豊は個別の技術課題に挑む。

 

扱う難所は、雪や凍結、坂道、狭い道、路上駐車、複雑な右折、通信途絶、高速道路の合流、夜間運行、そして一人が複数台を見る「1対N」の遠隔監視である。これは、派手な試乗会ではなく、日本の道路で毎日サービスを続けるための地味で重要な条件整備である。

 

2027年度に動く計画を整理すると、次のようになる。

 

ここで重要なのは、「自動運転」という一語の中に別のものが混在していることだ。レベル2は、人が監視する運転支援であり、レベル4は、決められた地域、道路、天候、速度などの条件内でシステムが運転を担う。

 

2027年に、日本中で運転席が一斉に空になるわけではない。まずは限定された条件の中で、無人サービスが日常の交通として成立するかを問う年になる。

ロボタクシーは過疎地と相性がよいのか

結論から言えば、社会的な相性は非常によいと言える。だが、事業としては自然にもうかるわけではない。

 

国土交通省の2026年調査では、通院、通学、買い物などに使える足がない、あるいは使いにくい「交通空白」が全国2,740地区、892市区町村にあり、そこに暮らす人口は約1,721万人に上る。駅やバス停が近くても本数が少ない、

 

坂道で高齢者が利用できない、タクシーを呼んでも来ない、予約交通が朝夕に走らない地域も含む。人口減少、高齢化、運転者不足が進めば、この空白はさらに増える可能性が高い。

 

移動できないことは、単なる不便ではない。病院へ行けない、買い物ができない、子どもが学校外の活動に参加できない、高齢者が外出を控えるといった形で、健康、教育、消費、就労を同時に細らせる。

 

家族が送迎を肩代わりする場合は、国土交通省の分析では、週に数時間から10時間ほどを費やす例も少なくない。とくに、子育てや介護を担う現役世代の時間が細切れになり、働ける時間や地域に住み続ける余力まで失われる。

 

ロボタクシーや自動運転バスは、運転者一人の勤務時間と車両一台の運行時間を切り離せる。早朝の通院、夕方の買い物、夜間の最終便を、運転者不足だけを理由に諦めずに済む可能性がある。

 

電話や窓口でも予約できるようにすれば、スマートフォンを使いにくい高齢者も取り残されにくい。都市でロボタクシーが「タクシーの代替」なら、地方では病院、学校、商店、駅をつなぎ直す生活インフラになり得る。

 

しかし、ここに逆説がある。社会的に最も必要な場所ほど、民間採算は最も厳しい。都市は短い待ち時間で次々に客を乗せられるが、過疎地は予約が散らばり空車で走る距離が長い。

 

雪、山道、通信不感地帯への対応、車庫、充電、整備にも費用がかかる。無人車でも、遠隔監視、乗降介助、清掃、救援は必要である。「運転手がいない」と、「人が要らない」は、同義ではない。

 

日本の勝ち筋は「人口減少モビリティ」の運行システム

米国の強さは、WaymoがAI、車両、配車、遠隔支援、安全検証を一体で磨くことにある。中国の強さは、それに低コストのEV・電池・センサー供給網を重ねられることだ。日本は、同じ規模の消耗戦を後追いするより、「需要が薄くても移動を止めない仕組み」をつくる方が現実的であり、社会的な意味も大きい。

 

第1に、最初から全域ドア・ツー・ドアを目指さないことである。集落、住宅地、駅、病院、商業施設を結ぶ幹線には、低速でも時刻どおり走るレベル4のバスやシャトルを置く。自宅から乗換拠点までは、小型の予約型乗合車が担う。運行範囲を絞れば安全条件を定義しやすく、相乗りで一人当たりの費用も抑えられる。

 

第2に、ばらばらの需要を束ねることである。通院、介護、通学、買い物、観光を別々の車で運ばず、時間帯と車両を共同利用する。制度上可能な範囲で、乗客の少ない時間に薬や日用品、小口荷物も運べば、車両の稼働率を上げられる。交通単体の赤字を見るのではなく、家族送迎の削減、介護離職の防止、通院機会、商店の売上、観光消費まで含めた地域全体の便益で判断すべきだ。医療、福祉、教育、観光、物流を横断して財源を組み直すべきである。

 

第3に、「完全無人」より、「少人数で多数台」を先に完成させることである。一つの広域運行センターが、複数自治体の車両を1対Nで支援し、現地には乗降介助や緊急対応のできる人を置く。高齢者、車いす利用者、子どもに必要なのは運転だけではない。人をすべて消すのではなく、人にしかできない仕事へ再配置する方が、安全と雇用の両面で持続しやすい。

 

第4に、100か所で100通りの実証をしないことである。配車、予約、決済、遠隔支援、整備、保険、事故報告の仕様を共通化し、車両や自動運転AIを交換できる構造にする。国土交通省も、地域交通DXで、個別最適を超えるシステム標準化と技術知見の共有を打ち出している。雪国の小松や仙台、狭路と坂の神戸、都市の路上駐車に挑む横浜やつくばで得た解決策を部品化できれば、日本の難しい道路環境は、輸出可能な資産になる。

 

第5に、評価指標を変えることである。「何キロ走ったか」「何自治体で実証したか」だけではなく、通院、買い物、通学が可能になった人数、家族送迎が減った時間、予約を断らなかった割合、運行継続率、手動介入率、遠隔担当者一人当たりの車両数、乗客一人当たりの総費用、公的負担額まで測るべきだ。採算化できない地域でも、従来の赤字バス、福祉送迎、スクールバスを統合した結果、地域全体の支出が下がるなら、それは十分に成功である。

 

海外AIを使う場合も、国籍だけで排除する必要はない。ただし、緊急停止権限、OTA更新の承認、映像・地図・走行ログの保存先、障害時の原因解析、遠隔アクセス権限は、国内側が監査できなければならない。車両やAIを外から調達しても、運行、顧客接点、データ、安全責任を国内に残す。この層こそが長期的な競争力になる。

 

空の運転席は、見た目の驚きにすぎない。本当の革命は、人口が減っても病院へ行ける、買い物ができる、学校へ通える地域を残すことにある。2026年の世界一はWaymoである。2030年の台数競争は中国が取るかもしれない。

 

だが、高齢化と人口減少は、日本が他国より早くに直面している課題でもある。2027年度の13地域の実証を、孤立した実験で終わらせず、同じ仕組みで100か所へ広げられれば、日本は無人車そのものではなく、「人口が減っても移動を止めない運行システム」で勝負できる。それが、日本の現実的な勝ち筋である。

主要根拠

高市首相の今回の訪米を、日米同盟の「再確認」だけで見てはいけない。ポイントは、トランプ大統領と習近平国家主席の会談で、米国が何を譲り、何を譲らないのか、そして、そこに日本の意思がどこまで織り込まれるかにある。

 

日米首脳会談は、約35分だった。外務省の発表で最も重要なのは、両首脳が、「今後予定されている米中首脳会談も念頭に、中国をめぐる諸課題について、経済安全保障を含め意見交換」したと明記された点である。

 

AI、半導体、重要鉱物でも、協力を確認した。拉致問題では、トランプ氏から即時解決への全面的な支持を得た。そして、高市首相は、国際刑事裁判所(ICC)などについても、率直に意見を交わしたとされる。

 

ここまでは評価できる。とりわけ、ICCを議題にした意味は小さくない。日本は、米国の同盟国である。しかし、同盟とは、相手の全てに追随することではない。法の支配を掲げるなら、米国と見解が異なる問題でも、日本の立場を伝える必要がある。

 

高市首相は、国連演説でも、国際司法裁判所、ICC、国際海洋法裁判所への支持を明言した。対米協調と多国間秩序を両立させようとした点は、今回の外交の強みである。

 

国連演説全体を貫いたのは、「力」と「法」の二本立てだった。供給網、エネルギー安全保障、重要鉱物、AIという現実の力を確保するとした一方で、国連改革、核不拡散、航行の自由、国際裁判所という法の枠組みを守るとも語った。

 

中国を名指しはしなかったが、経済的威圧や重要鉱物の輸出制限を念頭に置いたメッセージは明瞭だった。広島AIプロセスを発展させ、日本で早期にAIサミットを開く意向を示したことも、日本が単なる技術の利用国ではなく、ルール形成国を目指すという意思表示だ。

 

ただし、合格点と満点は違う。公表された日米会談の概要には、台湾海峡や東・南シナ海で米国が守るべき具体的な一線が記されていない。国連演説でも中国を名指ししなかった。

 

非公開の場で踏み込んだ可能性はあるし、首脳外交では公言しない方が効果的なこともある。しかし、国民が確認できる公開文書上では、「日本の懸念を米国の計算に入れた」とまでは言えても、「米国の譲歩を止めた」とは言えない。

 

目前の米中首脳会談で、習主席は、台湾への武器売却の停止を求めるとみられている。ほかにも、半導体・AI、関税、レアアース、イランをめぐる協議が並ぶ。米中が衝突回避のための「競争的安定」を探ること自体は必要である。

 

しかし、安定が、同盟国や台湾の安全を取引材料にすることを意味してはならない。米中間の大国取引が成立した後に、日本へ結果だけが通知される構図は避けるべきだ。

 

前回のコラムで、高市外交の成否を7つの基準で判断すべきだと書いた。今回、そのうち明確に前進したのは、米中会談前の日米協議、重要鉱物・AIを含む経済安全保障、そして、同盟国にも適用される法の原則である。

 

とりわけ、日米会談でICCについて日本の立場を伝え、国連演説でも国際裁判所への支持を明言したことは、「ルールは対立国だけでなく、友好国にも自国にも適用してこそ意味がある」とした前回の主張に応えるものだった。

 

さらに評価すべきは、高市首相が国連演説で、国連憲章に残る旧敵国条項の早期削除を明言したことである。敵国条項は事実上死文化しているが、憲章本文には現在も残されている。削除には国連憲章の改正が必要であり、実現は容易ではない。

 

それでも、日本の首相が国連改革の具体的課題として正面から掲げた意味は大きい。日本が時代に合わない制度を受け入れる側ではなく、その改革を主導する側に立つ意思を示したからである。

 

安保理改革は、歴代首相も国連の場で繰り返し訴えてきたが、旧敵国条項の削除まで首相自身が明言した例は極めて少ない。主要な前例としては、2005年の小泉首相による国連首脳会合演説があるが、一般討論演説に限れば、高市首相の明言は、確認できる範囲では初めてであり、長年の日本外交の主張を、再び首相レベルの課題として正面に掲げた意味は大きい。

 

広島AIプロセスを発展させ、日本でAIサミットを早期に開催する意向を示した点も、予想以上に踏み込んだ。日本が、AIを米中の技術競争として眺めるのではなく、安全と信頼の国際ルールをつくる側に立とうとしたからである。

 

一方、台湾が米中の取引材料にされないか、米中会談後の情報共有が確実に行われるか、中国との危機管理・実務対話が再開するかは、まだ確認できない。自由で開かれたインド太平洋(FOIP)についても、理念は再確認されたが、海洋、海底ケーブル、データセンター、港湾などの具体策までは公表されていない。

 

前回、「今回の会談は、成果を得るための重要な入口である」と書いた。その評価は変わらない。ただし、その入口で日本が伝えるべきことは、想定していた以上に伝えられた。以上を踏まえ、現段階の評価を暫定75点としたい。

 

残る25点は、米中会談後に決まる。台湾への防衛支援が後退しないか。経済的威圧や重要鉱物の問題が棚上げされないか。AI安全の議論が、半導体輸出や技術覇権をめぐる取引だけに矮小化されないか。そして、日本の安全に関わる提案や合意内容を、米国が日本と事前・事後に共有するか。この4点を追う必要がある。

 

日本外交に必要なのは、米中対立の観客になることではない。米国には同盟国として率直に注文し、中国には法と抑止の両面で向き合い、国連では制度改革を主導する。この3つを同時に進めることである。

 

高市首相は今回の訪米で、その第一歩を踏み出し、米中首脳会談前に先手を打った。だが、外交は会談や演説で完結するものではない。真価が問われるのは、米中首脳会談とその後の米側の説明に、日本の主張がどこまで反映されるかである。今後の動向も注目したい。

 

 

高市首相は、9月21日から24日までニューヨークを訪問し、第81回国連総会で一般討論演説を行う。22日には日米首脳会談も予定されている。

 

この会談を、単なる日米同盟の再確認で終わらせてはならない。米国時間20日には、ベッセント米財務長官と何立峰・中国副首相がニューヨークで会談し、AI安全、貿易、重要鉱物などを協議した。米国時間24日には、トランプ大統領が習近平国家主席をホワイトハウスに迎える予定である。

 

高市首相は、9月17日に内閣改造を行ったばかりである。その直後の訪米で、しかも米中首脳会談の直前にトランプ大統領との会談が予定された。これは、高市・トランプ両首脳の意思疎通が保たれ、政権の体制変更後も日米間の調整回路が動いていることを示す。

 

少なくとも、日本が米中会談の結果を待つだけの立場ではなく、その前に自国の考えを直接伝えられる位置にいることは評価すべきである。

 

中国に対しても意味を持つ。米中が大きな取引を行う前に日米首脳が協議することで、台湾海峡、東シナ海、重要鉱物、AIをめぐる協議から、日本を切り離すことはできないと中国側に再認識させる効果がある。

 

これは、日米同盟が中国との対話を妨げるのではなく、日本が中国と対等に話すための外交的な土台として機能する。

 

ただし、会談の価値は、その後の米中会談で日本の立場が守られ、米側から十分な説明が行われるかによって初めて検証できる。今回の会談は、成果を得るための重要な入口である。

 

高市外交に求められるのは、米国とは事前調整を徹底し、国連では普遍的な原則を示し、中国に対しては抑止と対話を両立させることである。

 

したがって、高市外交の目標を単なる「日中関係の改善」と置くべきではない。目標は、中国に「威圧しても日本の原則は変わらない。しかし、対話の扉は閉じない」と理解させ、同時に米国にも「日本の安全と経済を米中だけで決めない」と約束させることにある。

米国で確認すべき3つの最低線

第1は、台湾を米中の経済取引の対価にしないことである。

 

トランプ大統領は台湾向け武器売却を中国との交渉材料と表現し、140億ドル規模の案件を保留していると報じられた。日本が警戒すべきは、中国による米国産品の購入や関税上の譲歩と引き換えに、米国が台湾をめぐる表現や関与を弱めることである。

 

高市首相は、台湾海峡の平和と安定、尖閣諸島を含む東シナ海での力や威圧による現状変更への反対、米国の従来の台湾政策に関する表現を維持することを確認すべきだ。

 

日本の安全保障に重大な影響を及ぼす提案を中国側から受けた場合、米国は日本と事前または即時に協議する。この一点を曖昧にしてはならない。

 

第2は、重要鉱物を「米国だけ緩和」する取引を認めないことである。

 

中国商務省は2026年1月、対日両用品目の輸出管理を台湾発言と結び付けた。1~8月の中国から日本へのテルビウム輸出は前年同期20トンからゼロ、ガリウムは65%減、イットリウムは98%減となった。

 

これは一律の規制ではなく、相手国ごとに供給を変える選別的な圧力である。米国が中国に求めるべきは、自国向け数量の回復だけではない。

 

輸出許可の対象品目、法的根拠、審査期限、民生利用の例外を透明化し、同盟国を国別に差別しない運用を求めるべきである。日米は共同調達、備蓄放出、代替精製の工程表まで固める必要がある。

 

第3は、米中首脳会談後の即時情報共有を制度化することである。

 

米中会談後、米側は当日中に日本側へ説明する。首脳間だけでなく、外相、防衛、経済、安全保障当局の回線を動かし、11月の深圳APECまで共通認識を維持する。同盟とは黙って信じることではない。会談前に注文し、会談後に検証できる関係である。

日米協力を「防御」から「地域公共財」へ

AIも外せない。米中財務協議ですでにAI安全が議題になる以上、日本は半導体やデータを米中間の商取引だけにさせず、重大事故の通知、モデルの安全評価、越境データ利用の透明性を提案すべきだ。

 

米中を含む事故回避ルールへつなぐことは、広島AIプロセスを主導した日本が提供できる、具体的な価値であることをしっかり訴えた方が良い。

 

さらに、エネルギー安全保障も経済安全保障の一部である。日本は米国産LNGの安定調達だけでなく、供給源と輸送路の分散、原子力・再生可能エネルギー・蓄電池・送電網への共同投資を提案すべきである。

 

特定国への依存を、別の一国への依存に置き換えるだけではならない。日米協力をインド太平洋地域の安定した電力供給へ広げることが、FOIPを生活と産業に結び付けることになる。

 

また、自由で開かれたインド太平洋(FOIP)を、理念の確認だけで終わらせてはならない。海洋状況把握、海上保安機関への支援、海底ケーブル、データセンター、港湾など、地域の安全と成長を支える具体的な協力へ落とし込むべきである。

 

FOIPは、特定国を排除する包囲網ではない。航行の自由、透明で持続可能な投資、主権の尊重という共通ルールを、地域の具体的な協力へ変える枠組みとして示す必要がある。

国連演説は、中国批判の羅列にしてはならない

外務省は、今回の国連総会を、日本の「多国間主義へのコミットメント」を改めて発信する機会と位置付けている。演説の主題は「大国を縛り、弱い国を守るルール」とするべきだ。

 

台湾海峡、ウクライナ、中東、重要鉱物、AI安全を別々の政策項目として並べるのではなく、主権と領土保全、力や威圧による一方的な現状変更への反対、重要物資を政治目的の武器にしないこと、国際司法の独立、対立国とも対話を続けることを、一つの原則で結ぶ。

 

> ルールは、対立国を責めるための武器ではない。友好国にも、自国にも同じように適用してこそルールである。

 

この原則を示す具体例が、国際刑事裁判所(ICC)である。米国は2025年2月の大統領令に基づき、ICC関係者への資産凍結や入国制限を進め、2026年8月には日本人の赤根智子ICC所長も制裁対象に加えた。

 

日本政府は、「ICCを一貫して支持してきた」とし、米国の措置を「大変残念」と公式に表明している。高市首相は、これを最優先議題にする必要はないが、ローマ規程締約国としてICCの独立を支持し、裁判官や検察官個人への制裁には同調できないとは伝えるべきだ。

 

国連演説でも、個別の逮捕状の是非には踏み込まず、司法判断への異論は法的手続で争い、経済制裁で裁判所を威圧してはならないという原則を示すのがよい。

 

この原則を掲げれば、中国やロシアだけでなく、国際法上の正当性が問われる同盟国の行動にも向き合うことができる。日本は国際的な航行の安全確保には協力するが、同盟を個々の軍事行動への白紙委任にはしない。だからこそ、中国の経済的威圧を批判する言葉にも説得力が生まれる。

 

具体策は3つに絞ればよい。重要物資の輸出規制について根拠、対象、期限、例外を通知する透明化原則。米中を含むAI大国間の重大事故通知と安全評価の最低基準。そして、防災、感染症、海面上昇、電力、デジタル基盤でグローバルサウスへ実装まで届ける支援である。

中国側に変化の兆しはあるか

中国側にも、公の言葉に限れば小さな変化がある。2025年12月の中国外交部会見は、高市首相の台湾発言の「撤回」を明示的に要求した。ところが2026年6月と8月の公式回答では、「撤回」という語を使わず、日中4つの政治文書と約束を守り、「実際の行動」で政治的基礎を維持するよう求めた。

 

もっとも、非公開の場では撤回を求め続けている可能性もある。重要鉱物の対日制限は緩んでおらず、9月にも歴史認識や「敵国条項」を使った強い対日批判が続いた。

 

現時点の判定は、「政策の軟化」ではなく「公表文言の調整」である。中国側は、過去の一文を取り消させる外交から、今後の日本の行動を縛る外交へ重心を移しつつ、11月の深圳APECへ向けて出口を残している可能性がある。

 

日本は、この公表文言に生じた交渉の余地を生かすべきだ。ただし、中国が求める「実際の行動」を、日本の防衛政策や第三国との連携を制限する包括的な条件にさせてはならない。

撤回せず、挑発せず、対話を切らさない

台湾答弁の全面撤回は必要ないが、同じ具体的な有事シナリオを繰り返す必要もない。日本の台湾に関する基本的立場は、1972年の日中共同声明のとおりであり、台湾問題の平和的解決を求める。個別事態の法的認定は、その時点の具体的状況と全情報に基づいて判断する。この政府方針を確認すればよい。

 

そのうえで、11月18~19日の深圳APECでは、前提条件のない日中首脳会談を求める。日本から、「相互非エスカレーション」を提案してもよい。双方は法的な基本立場を変えず、新たな象徴的挑発を避け、実務協議を再開する。

 

日本は、4つの政治文書と平和的解決重視を確認し、中国には輸出許可の透明で非差別的な運用、危機管理回線の稼働、邦人安全と人的往来の正常化を求める。日本だけが「実際の行動」を迫られる構図にしてはならない。

成功は笑顔の握手では測れない

今回の高市外交の成否は、次の7点で測るべきである。

  1. 台湾が米中の経済取引の対価にされなかったか
  2. 日本の安全に関わる米中協議で、事前協議と会談後の情報共有が守られたか
  3. 重要鉱物とエネルギーで、特定国への過度な依存を減らせたか
  4. AI安全を国際的な事故回避ルールへ進められたか
  5. FOIPを海洋・デジタル・インフラの具体的な協力へ進められたか
  6. 中国との危機管理・実務対話を再開できたか
  7. 国連演説が、対立国だけでなく同盟国と自国も縛る原則として受け止められたか

米国には率直に注文し、国連では普遍的な言葉で語り、中国とは対話を続ける。礼を失わず、譲るべきでない線は譲らない。この「譲らず、孤立せず」を貫くべきである。

 

 


第2次高市改造内閣が発足した。内閣改造を見るときに、最も分かりやすいのは、新しい閣僚の名前を並べることである。しかし、それだけでは今回の人事の意味は見えてこない。

 

高市首相が会見で強調したのは、「責任ある積極財政」の大方針の下、「強い経済」の実現に向けて政策を加速させることであった。つまり、この内閣のテーマは「実行」である。

骨格は残し、実務部門を入れ替えた

今回の改造では、木原官房長官、茂木外相、片山財務相、小泉防衛相、赤沢経済産業相、城内経済財政担当相ら、政権の中枢を担う閣僚が留任した。

 

一方、総理を含む19人のうち10人が交代し、7人が初入閣した。全面刷新でもなければ、単なる現状維持でもない。

 

外交、安全保障、財政、成長戦略という政権の基本路線は変えず、その政策を実際に動かす部分を組み替えた人事と言える。

 

数字で見ると、もう一つの特徴が見える。9月17日時点で、総理を含む19人の平均年齢は約59.1歳である。

 

改造直前の旧内閣の顔ぶれを同じ9月17日時点の年齢で計算すると約60.3歳であり、今回の改造でおよそ1.2歳若返った。

 

第1次高市内閣発足時の平均年齢は約59.4歳であったから、高市政権は発足以来、60歳を下回る比較的若い閣僚構成を維持している。

 

近年の内閣と比べても、その傾向は分かりやすい。2024年の第1次石破内閣は平均約63.6歳、2021年の岸田内閣は約61.8歳、2020年の菅内閣は約60.4歳であった。

 

今回の59.1歳は、少なくとも近年の内閣と比べて低い水準にある。もっとも「若手内閣」と単純に呼ぶのも正確ではない。40代、50代前半の閣僚がいる一方で、70歳の閣僚もいる。

 

40代から70代まで配置しながら、全体として60歳を下回る構成にした。経験者を政権中枢に残しながら、実務部門に比較的若い層も配置したと見るのが近いのだろう。

 

高市首相自身、党内から提出されたアンケートを読み、提案された政策、積極性、情熱を見極めて「実行力重視」で選んだと説明した。

 

この「実行力重視」という言葉と、年齢構成の変化を重ねて見ると、今回の改造内閣の性格がより分かりやすくなる。

来年の総裁選を意識した人事なのか

今回の人事は、来年の自民党総裁選に向けた布陣との見方も出ている。茂木外相、小泉防衛相ら昨年の総裁選を戦った有力議員が留任する一方、林前総務相は閣外に出たからである。

 

しかし、高市首相は会見で、「来年の総裁選挙とは一切関係ない」と明確に否定した。そのうえで、昨年の総裁選を共に戦い、今回留任した閣僚については「第一希望の役職であることを確認した上で人事を行った」と説明している。

 

ここは、事実と分析を分ける必要がある。首相は、総裁選対策を否定している。一方で、政治の世界では、人事と将来の政権基盤が完全に切り離されているとも考えにくい。

 

日本みらい研として注目したいのは、誰を味方につけたかという政局論よりも、今回の布陣で年末までにどれだけ成果を作れるかである。

 

実績が積み上がれば政権基盤は強くなり、結果が出なければ人事の狙いそのものが問われる。来年の政治日程を決めるのは、むしろこれから数か月の政策実績ではないか。

最大の国内課題は「減税を本当に実行できるか」

最初の試金石は、消費税である。高市政権は、2027年4月から2年間、飲食料品の消費税率を8%から1%に引き下げる方針を打ち出している。中低所得者には給付を組み合わせ、「実質ゼロ」に近づける構想である。

 

しかし、年間約5兆円規模とされる減収をどう埋めるのか。政府は、特例公債に頼らず、租税特別措置、補助金、税外収入などの見直しで財源を確保する方針を示しているが、今はまだ確かな見通しが出ているわけではない。したがって、この問題の解決が最初の関門となる。

 

高市首相が掲げる「責任ある積極財政」は、単なる財政出動ではない。投資によって経済を成長させ、所得と企業収益、税収を増やしながら、債務残高対GDP比を安定的に下げるという考え方である。これがうまく起動するまでは、少し時間がかかるかもしれない。

 

そのため、今回の改造では、片山財務相、赤沢経産相、城内経済財政担当相を留任させた。担当者を替えず、出来るだけ早く結果を求める体制にしたということなのだろう。

 

したがって、年末までに注目すべきは、消費税法案の成立や財源の具体化、自治体や事業者が実施できる制度設計の構築が進められるかである。

維新は「要求する側」から「実行する側」へ

もう一つ大きな変化が、日本維新の会の閣内参加である。中司宏氏が規制改革担当相として入閣した。これまで維新は、連立与党でありながら閣外協力という形だった。

 

しかし、閣僚、副大臣、政務官を政府に送り込めば、立場は大きく変わる。政策を「要求する側」ではなく「実行する側」になる。

 

そこで、特に注目されるのが、衆議院議員の定数削減である。自民・維新は、衆院定数を約1割削減する法案を進めている。ただし、比例代表を中心に削減する案には野党の反発も強く、野党との調整も重要となってくる。

 

各党の利害に直結するからこそ、幅広い合意形成が必要だ。維新が閣内に入った以上、これからは、自民党がやらないという批判だけでは済まない。自民、維新双方が制度設計と合意形成について責任を負うことになる。

外交は「強く言うこと」と「話すこと」を両立できるか

そして、高市改造内閣にとってもう一つの大きな試練が外交である。現在、日本と中国、ロシア、北朝鮮との関係はいずれも容易ではない。

 

中国とは台湾問題などをめぐって緊張が続く。ロシアとはウクライナ侵攻、北方領土をめぐる問題がある。北朝鮮とは拉致、核、ミサイル問題が残る。

 

ここで重要なのは、「強硬か融和か」という二択で外交を見ないことである。日本の立場を明確に主張しながら、同時に対話の入口を残すことは可能である。

 

実際、最近の動きには、小さいながらもいくつかの外交的接点が見える。中国国内や中国国境地域で災害が起きた際、高市首相は習近平国家主席らに見舞いの意を伝えている。また、愛知・名古屋アジア大会には、北朝鮮の選手団来日を可能とした。

 

これらを、直ちに関係改善と評価することはできないが、人道、スポーツ、国際会議といった政治対立とは別のルートを残しておくことは、外交の世界では意味を持つ。こうした動きを、「対話の窓を閉じない外交」として注視したい。

米国にも言うべきことは言うのか

今回の記者会見で特に興味深かったのが、ICC=国際刑事裁判所をめぐる発言である。高市首相は、赤根智子ICC所長に対する米国の制裁について、米国への働きかけを継続していると説明したうえで、「国際社会における法の支配の強化に必ず取り組む」と述べた。

 

これは重要である。日米同盟が日本外交の基軸であることと、すべての米国政策に賛成することは同じではない。同盟国だからこそ、異なる立場については明確に伝える。それが成熟した同盟関係である。

 

今後予定される国連総会や日米首脳間の接触でも、この姿勢が続くのかを見たい。正式な首脳会談だけではない。廊下での短時間の立ち話であっても、首脳同士が直接話すことには外交上の意味がある。

 

さらに中国、ロシアとの間で何らかの接触があるのか。北朝鮮とはスポーツ交流以上の接点が生まれるのか。この秋の国際会議は、高市外交の次の段階を見る重要な舞台でもある。

年末までに見るべき五つの結果

今回の内閣改造は、ゴールではない。むしろ、スタートである。そして、年末までに少なくとも5つの点を確認したい。

 

第1に、消費税減税の法制化と財源。

第2に、衆議院議員定数削減・選挙制度改革の具体化。

第3に、責任ある積極財政に基づく2027年度予算編成。

第4に、中国、ロシア、北朝鮮との対話の再構築。

第5に、日米同盟を基軸にしながら、日本自身の外交原則をどこまで発信できるか。

 

この5つがどこまで前進するかによって、今回の改造の意味は初めて明らかになる。高市首相は、「強い経済」の実現を掲げ、内閣の人事を終えた。

 

今から問われるのは、誰を大臣にしたかではない。その人たちが、何を実現する、もしくはしたかである。第2次高市改造内閣の本当の評価は、今日ではなく年末からが本番である。

 

 

 

9月17日未明、米国の金融政策が動いた。FRBは政策金利を0.25%引き上げ、3.75~4.00%とした。利上げは全会一致。しかも新たな金利見通しを見る限り、これで終わりではない。

 

次は日本である。日銀は17、18日に金融政策決定会合を開く。市場では現在1.0%の政策金利を1.25%へ引き上げるとの見方が有力である。

 

米国に続いて日本も0.25%利上げすれば、円高になるのか。ここには、意外に見落とされている事実がある。日米が同じ0.25%を上げれば、日米金利差そのものは縮まらない。

トランプ大統領の利下げ要求とは正反対に動いたFRB

今回の決定が興味深いのは、政治の側から聞こえてきたメッセージとの落差である。トランプ大統領は、FRBに利下げを繰り返し求め、FOMC後も米国の金利は「1%以下」であるべきで、速やかに下げるべきだとの考えを示した。

 

しかし、FRBが選んだのは利下げでも据え置きでもなく、利上げだった。FOMCは12対0の全会一致で0.25%の利上げを決定した。声明では、経済活動は堅調に拡大し、国内支出は底堅く、雇用も労働力の伸びに見合っている一方、「インフレは依然高い」とした。

 

ウォーシュFRB議長も記者会見で、政策の重点は物価安定にあり、夏場の物価指標を見ても基調的インフレに意味のある改善は確認できないとの認識を示した。

 

つまり、今回の決定は、政治側の利下げ要求とは別に、FRBがインフレ抑制を優先した結果と見るのが妥当である。

本当に重要なのは「あと1回」である

さらに重要なのが、同時に発表されたFOMC参加者の金利見通し、いわゆるドットチャートである。2026年末の政策金利中央値は4.1%。現在の政策金利レンジ3.75~4.00%の中央値は3.875%だから、これは年内にもう一度0.25%程度引き上げることを示唆する。

 

実際、18人のFOMC参加者のうち16人が、年末までに現在より高い政策金利を想定している。しかも、2027年末の中央値も4.1%である。6月時点では3.6%だった。

 

FRBは、金利を上げるだけでなく、高い水準を以前の想定より長く維持する可能性を示したのである。これは、円相場を考えるうえで非常に重要である。

日銀が0.25%上げても金利差は同じ

数字で見ると分かりやすい。FRBの現在の政策金利は3.75~4.00%。中央値で3.875%である。日銀は現在1.0%であり、単純な政策金利差は、3.875-1.0=2.875ポイントである。

 

18日に日銀が0.25%引き上げて1.25%になれば、3.875-1.25=2.625ポイントとなる。FRBの利上げ前は、米政策金利中央値3.625%と日銀1.0%との差も2.625ポイントだった。

 

つまり、米国が先に0.25%上げ、日本も同じだけ上げた場合、今回の二つの利上げを通算すれば、日米金利差は元の水準に戻るだけである。

 

したがって、「日銀が利上げする=日米金利差が一気に縮み=円高」という単純な構図ではない。ここが今回最も重要なポイントである。

市場の答えは、まず「円安」だった

FOMC後の為替市場の反応は明確だった。FRBが0.25%利上げし、さらに年内の追加利上げを示唆するとドルは上昇。ドル円は155円台から156円台へ上昇し、円は対ドルで下落した。

 

9月上旬には、日銀の利上げ観測の高まりなどから円が一時1ドル=152.89円まで上昇していた。しかし、その流れは、FRBの利上げ観測が強まるにつれて反転した。これは、今回の論点を象徴している。

 

市場は、「日銀も利上げするかもしれない」という材料だけでは円を買い続けなかった。FRB自身も利上げし、しかも、追加利上げの可能性を示したからである。

 

つまり、現時点では、日銀の利上げ期待による円高圧力より、FRBの追加利上げ観測によるドル高圧力が勝っている。

 

日銀が18日に1.25%へ利上げしても、それ自体はすでに相当程度織り込まれている。円相場を本当に動かすのは、植田総裁が「1.25%の次」をどこまで示せるかである。

円高になるために必要なのは何か

18日の結果は、大きく3つに分けて考えることができる。

 

第1は、日銀が1.25%へ利上げし、その後の追加利上げにも前向きな姿勢を示す場合である。この場合、将来の日米金利差縮小が意識され、円高方向の力が強まる可能性がある。

 

第2は、1.25%へ上げるものの、その後は慎重な姿勢を強調する場合である。利上げそのものが相当程度織り込まれているため、材料出尽くしから円がむしろ売られる可能性もある。

 

第3は、日銀が据え置く場合である。FRBが利上げし、日銀が据え置けば今回の日米金利差はそのまま拡大するため、円安圧力が再び強まる可能性がある。

 

つまり、明日の最大の注目点は、「上げるか、上げないか」だけではない。「次も上げるのか」である。

ただし、日銀にも難しさがある

日銀が積極的に利上げすれば、すべて解決するわけでもない。日本では、原油高による輸入コスト上昇が再び大きな問題になっている。8月の輸入額は前年比28%増加し、貿易収支は1兆円を超える赤字となった。円安が重なれば、輸入インフレをさらに強める。

 

一方、こうした物価上昇は、需要が強すぎることによるインフレとは性格が違う。輸入物価上昇に対して、金利を急激に引き上げれば、企業の資金調達や住宅ローン、設備投資には下押し圧力がかかる。

 

したがって、日銀に求められるのは、単純に「円安だから金利を上げる」ことではない。物価、賃金、国内需要、為替、長期金利を同時に見ながら、どこまで金利正常化を進めるかという判断である。

日米同時利上げの本当の意味

今回のFOMCで、一つはっきりしたことがある。米国の利上げは、今回だけで終わるとは限らない。そして、日本が明日0.25%利上げしたとしても、それだけでは日米金利差縮小という物語は完成しないということである。

 

FRBが、年内にもう一度上げるのか。日銀が、1.25%の先へ進むのか。円相場を決めるのは、この競争である。

 

トランプ大統領は米国金利を1%以下へ下げるべきだと主張する。一方、FRBはインフレが十分に収まっていないとして利上げを選択した。そして、18日には日本銀行が判断を下す。

 

9月の日米金融政策を「0.25%上がった」というニュースだけで見てはいけない。本当に見るべきなのは、日米のどちらが、どこまで、どのくらい長く金利を上げるのかである。その先に、円相場の方向が見えてくる。