2026年2月末のホルムズ海峡の事実上の封鎖以降、日本のメディアではおおむね2つの種類の論調が強調されている。一方は「日本は中東依存度が突出しているから危機的である」と煽るもの、もう一方は「高市政権は何もしていない」と政権批判に直結させるものである。

 

だが、いずれの論調も、政府が公表している事実関係を踏まえているのか、いささか心許ない。そこで、経済産業省や資源エネルギー庁、内閣官房などが示している公表数値を一つずつ確認しながら、現状を冷静に評価してみたい。

 

資源エネルギー庁の公表データによれば、2026年1月末時点で日本の石油備蓄は約254日分約7,445万klにのぼっている。世界的にも厚みを持った備蓄である。経済産業省は中央危機後の4月10日、日本の包括的な備蓄量が約6,862万kl・約243日分であると公表した。

 

政府は3月以降、段階的に放出を進めてきた。3月16日に民間備蓄15日分の放出を開始し、3月26日には1978年の制度創設以来2回目となる国家備蓄第1弾30日分を放出、産油国共同備蓄も約6日分を活用、5月初には国家備蓄第2弾20日分の追加放出を予定している。

 

産油国共同備蓄も含めると合計71日分相当の備蓄放出であるが、仮にこれらの放出分を使いきっても、備蓄は約5,023万kl・178日分が残る計算である。代替調達を50%と仮定すれば、180日後でも約4,322万kl・153日分の備蓄が温存される計算になる。

 

これは「数か月で備蓄は枯渇する」状況とは程遠い数字である。石油が足りなくなるという危機感だけが独り歩きしているが、政府公表データを見る限り、量的な不足が現実問題として日本国民の生活を脅かす段階には、今のところ至っていない。

 

高市政権は何もしていないという主張も、事実と符合しない。時系列を追うと、日本政府の動きは国際的に見ても極めて迅速である。3月11日、高市総理は備蓄放出方針を会見で表明した。これはIEAが4億バレルの協調放出で全加盟国合意に至るより前のことである。

 

日本が単独で動いた直後にG7が緊急会議を開き、IEA加盟32カ国の協調放出が全会一致で決まった。日本が先に市場安定シグナルを出し、世界がそれに続いたという構図は、複数の専門メディアが指摘するところである。

 

3月19日にはガソリンの激変緩和措置が始まり、制度開始前に190.8円であったガソリン全国平均小売価格は170円程度、軽油157円程度、灯油139円程度の水準まで低下した。日米首脳会談では、米国産原油の生産拡大とアラスカ産の日本での共同備蓄構想が議論された。

 

3月23日には参院本会議で高市首相自身が中央アジア、南米、カナダを代替調達候補として明言した。4月21日には、メキシコのシェインバウム大統領との電話会談で原油100万バレルの輸出に合意している。

 

これらを「何もしていない」と評価するには、あまりに具体的な動きが多すぎる。むしろ、危機発生から1か月余の間に、これだけ多角的な外交カードを切った政権を、戦後の日本で他に挙げることは難しい。

 

経済産業省の4月10日公表の資料によれば、4月時点で前年実績比で2割以上、5月には過半の代替調達に目処がついたとされている。特に米国産は5月に前年比約4倍まで拡大する見通しで、日本向けタンカーが4月末から5月末にかけて随時到着予定である。

 

国別に整理すると、米国本土からは5月に約36万バレル/日の規模、INPEXが権益を持つ中央アジアからは日量計約78万バレルの一部を日本向けに振替、ロシアはサハリン2のLNG年約400万トンを継続供給、メキシコからは7月に100万バレルが到着予定といった具合だ。

 

アラスカ産原油の共同備蓄構想は最終調整段階にあり、中南米やアフリカについても個別契約で進展している。ナフサ調達も、4月の中東以外からの到着量を平時の45万klから90万klへと倍増させる見通しが示されている。

 

代替調達は絵に描いた餅と批判する声もあるが、すでに第一船が到着し、5月までに前年比4倍規模の積み上げが進む実務段階にある。世界で最も中東依存度が高い国にも関わらず、想定を上回るスピードで多角化が進展している。

 

政府の対応がまずいのであれば、市場はそれを正確に映し出すはずだ。ところが日経平均株価は危機発生後も基調を崩さず、6万円の大台も突破した。エネルギー危機の最中にもかかわらず日本株が崩れない事実が何を意味しているかは、自ずとわかる話しである。

 

外交面でも、日本の存在感は明らかに高まっている。各国との首脳協議での成果に加え、首脳陣の訪日も相次いでいる。ホルムズ海峡封鎖という危機下で、原油の9割超を中東に依存する国が、パニックに陥っていない事実そのものが、国際社会の関心を集めている。

 

中東以外からの代替調達拡大、官民連携、IEA協調、産油国への直接働きかけという多面的アプローチは、エネルギー安全保障の教科書的対応そのものである。海外メディアの評価が冷静なのに比べ、国内メディアが不安を煽る論調に染まっているのは残念だ。

 

もちろん、現状を手放しで楽観視するつもりはない。本当の課題は備蓄量の枯渇ではなく、地域・業種別の偏在である。全国合計では足りていても、医療、農業、漁業、地域交通、製茶業のような特定業種への配分が滞る局所的な目詰まりが発生している。

 

これに対し政府は元売直販ルートの拡大、前年同月並み供給ルールの徹底、買い急ぎ抑制など、具体的な対応を進めており、し尿処理施設や茶製造に必要なA重油、塗料用シンナー、住宅設備メーカーTOTOのユニットバスといった個別案件では改善も確認されている。

 

ナフサや石油化学製品では、プラスチック、塗料、接着剤、合成繊維、医薬品原料など産業の奥深くまで影響が広がっており、燃料油に比べて事態は見えにくくなっているが、出荷制限から従来の実績並み出荷へ方針転換するなどの動きも出ており、改善は進んでいる。

 

原油価格の高騰とその価格転嫁の問題は少しややこしい。ガソリン価格などは補助金で店頭価格を抑制している段階にあるが、財政負担の累積と出口戦略が中期的には論点となってくるため、この問題は今後の動向を注視する必要がある。

 

今回の危機で最も冷静に見据えるべき問題は、時間軸の問題である。米国は中間選挙を控えており、それまでに紛争が解決の方向に進む蓋然性は高い。しかし、現時点ではいつこの紛争が解決されるかが見えないため、不安感が拭えないという状態になっている。

 

政府のベースケース(代替調達率50%)で試算すれば、日本の備蓄は半年経過後でも153日分が残り、その後も備蓄が枯渇するまでは1年近く余裕がある。この時間的余裕の中で事態が拗れた場合は追加策を準備すれば良いので、ここで焦る必要はない。

 

いますぐ節約、補正予算で支援という方向に走るのは、危機対応として時期尚早であるばかりか、むしろ不必要な不安と行動を国民に強いることになる。冷静な経済運営という観点からは、このような発想はセンスの良い政策判断とは言い難い。

 

この時間的な猶予は、米国産共同備蓄構想や産油国共同備蓄拡大、ナフサ調達の多角化、再エネや原子力の活用といったエネルギーの構造転換を進める好機でもある。この間に腰を据えて対策を講じることができるかどうかが、日本にとっての最大の安全保障政策となる。

 

中国からの威圧的な行動が高まり、中東で石油危機が起きている中でも、通常の経済活動を維持できている状況に、世界の評価は高い。ガソリンスタンドで長蛇の列を作ることもなく、株価は史上最高値を連日のように更新していることに、驚きの目が集まっている。

 

海外の評価と反対に、危機を煽り政権を批判すること自体が目的化した日本のメディアの論調には、2つの問題がある。第1に、それは事実に基づいていないということだ。政府公表データを見れば、量的な石油不足の懸念は当面ないことが明確に示されている。

 

第2に、それは国益を損ねるということだ。買い占めや過剰発注、需要家の不安を煽る報道などは、本来必要のない目詰まりを生み出し、本当に必要な業種への供給を阻害する。政権を批判をするなとは言わないが、批判をするならそれは事実に基づいて行うべきだ。

 

日本にとって最大の関心事は、石油の確保よりこの紛争を長引かせないことにある。そのためには、これまでの対策を通じて生まれた時間的余裕を活かした働きかけと、事態が拗れた場合に備えることが重要である。高市政権の真価が問われるのは、これからである。

 

参考資料 中東情勢と日本の石油安全保障シミュレーション

参考動画 中東情勢を踏まえた日本の石油確保の対応についてのシミュレーション

 

明日からゴールデンウィークとなる。本ブログはこの期間はお休みをいただき、次回は5月7日から再開する予定である。皆さん、良い休日を!

 

 

4月20日から4月26日までの「政策リサーチ」アクセスランキングTop10は以下の通りとなった。

 

1位 政策情報・海外(Global Energy Review 2026・IEA)

2位 中央教育審議会・初等中等教育分科会・教育課程部会・芸術WG・文科省(芸術WG参考資料・データ)

3位 政策情報・RIFJ(日本成長戦略17の戦略分野と8つの分野横断的課題の全体像、防衛装備移転三原則運用指針の見直しについて)

4位 報道発表・総務省(サービス産業動態統計調査)

5位 中央教育審議会・大学分科会・質向上・質保証システム部会・文科省(参考資料集)

6位 政策情報・総務省(地方公共団体におけるサイバーセキュリティに関する支援策及び実効性確保の検討に係るWG報告書)

7位 法律情報・国会(南極地域の環境の保護に関する法律の一部を改正する法律案に対する附帯決議・参議院)

8位 政策情報・経産省(使える経済産業省支援メニューガイドブック)

9位 デジタル行財政改革会議・内閣官房(資料1  デジタル行財政改革の進捗と更なる対応について)

10位 企業のリスクマネジメントの高度化に向けた検討会・経産省(報告書概要)

 

 


 

 

 

日本列島を強く豊かに、高市首相が選挙で訴え、施政方針演説で掲げたこの一言には、日本経済の再設計に向けた明確な意志が込められている。その実現のために前面に押し出された戦略が、成長戦略と地域未来戦略である。

 

昨日、日本成長戦略の17分野について、その全体像を解説したが、成長戦略だけでは日本経済の再生は半分しか語れない。もう一方の車輪が、地域未来戦略である。この両輪がかみ合って初めて、日本のみらいは動き出すと言って良い。

 

この2つの関係は、縦軸と横軸として捉えると分かりやすい。日本成長戦略は、AI・半導体、量子、フュージョン、創薬、コンテンツなど17の重点分野を「縦」に切り、それぞれの分野でどこまで市場を取りに行くのかを示す戦略である。

 

分野ごとに数値目標と達成年限が置かれ、国内・海外の巨大市場を視野に入れた設計図になっている。何で勝つのか、どこで稼ぐのかを明らかにし、600兆円の市場を作り、1,600兆円を超える海外マーケットの取り込みを目指している。

 

一方の地域未来戦略は、それを「横」から見る視点である。どの分野を、どの地域に、どのような産業集積として根付かせるのか、誰が担い手になり、どの企業群と教育機関、研究機関、自治体、金融機関が支えるのかを含めた設計を目指すのが地域未来戦略である。

 

成長戦略だけでは、結果は数字で終わる。地域戦略だけでは、世界市場を取る力は生まれない。縦と横が重なって初めて、現場に根を張る政策になるという考え方に立っている。ここで重要なのは、クラスター(集積地)の創出である。

 

参考となるのは、すでに動き出している半導体クラスターである。半導体戦略そのものは、安倍政権時代から始まった政策であり高市政権独自のものではないが、経済安全保障や産業基盤強化の文脈で動いていた経緯がある。

 

半導体は、工場の誘致だけで成立する産業ではない。製造装置、部素材、物流、電力、工業用水、人材育成、大学や研究機関、関連企業群が近接し、面として機能して初めて競争力を持つ典型的なクラスター型産業である。

 

熊本県菊陽町にはTSMCの工場が立地し、九州一帯で関連企業の集積が加速している。一方、北海道千歳市ではラピダスが次世代ロジック半導体の生産を目指し、周辺地域を含めた広域的な産業集積の構想が進んでいる。

 

重要なのは、この2つが同じ半導体でありながら、同じ型ではないという点である。熊本は量産を軸にした現実的な集積モデルであり、北海道は先端技術への挑戦を前面に出したモデルである。両者は競合というより、役割の違う重要性を持っている。

 

ここに地域未来戦略の核心がある。地域ごとの条件が違えば、勝ち筋も違う。かつての地方創生は、どうしても全国一律の発想に陥りがちであった。どこも似たようなメニューになり、決定的な差別化にはつながらなかった。

 

熊本には熊本の強みがあり、北海道には北海道の強みがある。関西にはライフサイエンスや研究開発の蓄積があり、中部にはモノづくりの裾野がある。港湾に強い地域、エネルギー条件に恵まれた地域、コンテンツ人材が集まる地域、それぞれに異なる勝ち方がある。

 

そのため、全国の自治体が同じ最先端産業都市を名乗ることではなく、その地域は何で勝つのかを決めることが重要である。半導体は、あくまでも先行事例にすぎない。本当に問われるのは、その発想を他分野へ横展開できるかどうかである。

 

例えばフュージョンエネルギーなら、大型試験設備や高度技術人材を受け止められる地域が主役になる。洋上風力や次世代地熱なら、自然条件と立地条件を備えた地域が有力になる。バイオものづくりや創薬なら、大学・研究機関や医療機関の集積地域が強みを持つ。

 

コンテンツ分野でも、東京一極ではなく、京都、札幌、福岡など、独自のクリエイティブ集積を持つ地域には十分な可能性がある。物流や港湾、高度素材、防災・国土強靱化なども理由は同じである。

 

17分野すべてに、その分野にふさわしい場所があると言える。そして政府がやるべきことは、適地と思われる地域に旗を立て、都道府県や地域の産業界とともに、戦略産業クラスターと地域産業クラスターを育てることである。これが地域未来戦略の核心となる。

 

政府が何をすべきかははっきりしている。第1に投資促進策と産業用地・インフラ整備を一体で進めること、第2に地域金融を強くすること、第3に中堅企業と地場産業への目配り、第4に人材育成である。この4つを、政府がしっかり後押しすることである。

 

成長戦略という縦軸と地域未来戦略という横軸がかみ合って回転したとき、日本経済は初めて本当の意味で動き出すと言えるだろう。17分野の巨大な成長機会を47都道府県に分散し、どこに住んでいても仕事と希望が見える国へ近づくようにしてほしいと思う。

 

本気で日本を変えるつもりなら、地域未来戦略を観光振興や移住支援の延長で終わらせてはならない。産業政策としての地方政策へ踏み込み、各地域が何を武器に勝つのかを明確にし、そのための投資、制度改革、人材育成、インフラ整備を一体で動かす必要がある。

 

半導体クラスターはその試金石であり、本当に大事なのはこれからである。半導体の発想を、創薬、GX、コンテンツ、防災技術、先端素材、物流、エネルギーといった他分野へどこまで広げられるかに、この戦略の成否がかかっている。

 

日本のみらいは、地域ごとの個性と強みを基軸に国家戦略を組み立て、それぞれの地域で異なる勝ち筋を育てていくことに尽きる。その積み重ねが、日本全体の成長につながると言って良い。そのためにも、成長戦略と同様に地域未来戦略にも目を光らせる必要がある。

 

 

 

政府の成長戦略策定に向け、17の重点分野のロードマップとりまとめ作業が急ピッチで進んでいる。これほど細部まで具体的な方向性を描いた戦略は、歴代政権を見渡してもほとんど例がなく、それだけでも高市政権の本気度が伝わってくる。

 

ただ一方で、範囲が広範にわたるため、全体像を把握できている人はほとんどいないのかとも思ってしまう。そのため、「目標が見えない」「範囲を広げすぎて焦点がぼやけている」といった批判の声があるのも事実である。

 

しかし、この戦略の詳細を読み解くと、印象はまったく逆転する。緻密に組み立てられた、戦略的な青写真があることが浮かび上がってくる。理由は単純である。17の対象分野には、それぞれに細かな数値目標と達成年限が設定されているからである。

 

個別分野の発表が断片的に報じられても、それらを束ねた全体像が現時点では示されていないことが、全体像をわかりにくくしている原因だが、政策リサーチではこの全貌をわかりやすく整理した専用コーナーを立ち上げ、継続的に情報発信もしている。

 

今日は、その中から特に注目すべき切り口として、このロードマップがどれほどの規模のマーケットを取り込もうとしているのかに絞って、高市政権で何が変わろうとしているのかを解説してみたい。

 

まず、数字を並べてみると、現時点での概算で正確ではないが、この戦略が対象とする国内市場規模の合計は、実に約600兆円に及ぶことがわかる。さらに、現時点ではまだ目標値を設定していない分野に関しても、取り込みを狙う海外市場の規模は1,638兆円にのぼる。

 

桁が桁なので感覚を失いそうになるが、ここは冷静に考えてほしい。日本の名目GDPは現在およそ600兆円である。つまり、この戦略は「日本のGDPと同規模の国内市場を、17の成長分野だけで新しく立ち上げる」と宣言しているに等しいのである。

 

これは、途方もなく大胆な目標である。そして同時に、極めて希望の持てる目標ともなっている。これを、日本が世界に誇れる技術や製品で実現しようというのが戦略の柱になっているのだが、中身を詳細に見れば、主役となる分野の輪郭も浮かび上がってくる。

 

最大の柱は、情報通信の186兆円である。次世代ワイヤレスで110兆円、オール光ネットワークで53兆円、海底ケーブルで23兆円という内訳である。続いて、デジタル・サイバーセキュリティが120兆円、防衛産業が59兆円となっている。

 

また、AI・半導体65兆円、創薬・先端医療71兆円、フードテック32兆円、コンテンツ21兆円も明確な数値目標を伴っている。コンテンツに至っては、ゲーム12兆円・アニメ6兆円・マンガ1兆円・音楽1兆円・実写1兆円と、ジャンル別に目標が切り分けられている。

 

海外市場に目を転じると、光景がまた変わる。フュージョンエネルギー700兆円、次世代型地熱375兆円、空飛ぶクルマ220兆円、ロケット・射場150兆円、量子130兆円と巨大な市場があり、国内で育てた技術で海外を取りに行くという明確な構図も読み取れる。

 

この戦略のもう一つの大きな特徴は、「何が入っていないか」に表れている。観光や従来型の公共インフラ、既存の製造業の延長といった歴代成長戦略の常連項目は、ここにはほとんど入っていない。今回の成長戦略は、これらとは別枠の扱いになっている。

 

成長戦略の対象は、成長分野の技術と製品に限定されており、すでに成熟した市場の底上げではなく、日本初の技術や製品で市場をどう取りに行くかに焦点が絞られている。この割り切りこそが、戦略の戦略たる所以である。

 

仮にこの戦略が全て実現した場合は、約600兆円の市場が生まれ、さらに海外の巨大なマーケットの取り込みも可能となり、一定割合を日本企業が獲得する。この双方が両立すれば、日本のGDPは現在の水準から倍以上に拡大する計算になる。

 

もちろん、すべてが計画通りに進む保証はない。実現には研究開発投資、規制改革、人材育成、国際展開支援など、多方面の政策が歯車のようにかみ合う必要がある。達成年限も2030年代から2040年代、一部は2050年まで広がっており、短期で結果が出る話ではない。

 

しかし、方向性を定め、目標が数字で示されていることは、大きな前進である。長らく「失われた30年」と言われ、成長を半ば諦めかけていたこの国にとって、初めて具体的な地図が広げられたに等しい。

 

目標が見えないという批判の多くは、実は全体像を見ていないことから来ている。17分野それぞれの目標を束ねれば、600兆円に及ぶ市場が見え、海外で取り込み可能な市場が1,600兆円を超えるという巨大な絵面が出現する。

 

高市政権が描こうとしているのは、日本のGDPを倍増させるだけの市場を、これからの20年の間に日本国内と世界の成長市場から取り込むという、極めて大胆かつ緻密な設計図である。そのために、従来型の項目を意図的に外し、これから伸びる領域にだけ旗を立てた。

 

当然、従来から進めている戦略に関しても、これまで通り計画を進めることとなる。そして、この両輪で成果を出すことにより、日本は初めて「失われた30年」から脱することができると言えるのではないだろうか。

 

政策リサーチでは引き続き、各分野の個別ロードマップを深掘りしながら、この大戦略の進捗を追いかけていく。ロードマップは現在検討中のものも多いため、正式決定後に改めて個別の分野も含めた解説をしたいと思う。次の機会をお待ちいただきたい。

 

 

 

日経平均株価が上昇の波を描き続けており、6万円台突破も目前となってきた。中東情勢の緊迫で、原油高や円安、長期金利の上昇が続いていることから、株高に注目する人は少ないが、このタイミングでも日本株が弱含みとならない状況は驚きでもある。

 

そこで、岸田政権→石破政権→高市政権の間に日本の株式市場がどのような動きを示していたかを調べたところ、それぞれの政権の特色が、日経平均株価のチャート上に綺麗に現れており、高市政権では株高傾向が続く可能性が高くなることがわかった。

 

岸田政権下では日経平均株価は徐々に上昇し、バブル期の高値も突破した。「新しい資本主義」を掲げ、資産運用立国や新NISA制度の導入などで、市場フレンドリーな政策を実行したことで、円安の進行と企業収益の改善を背景に、海外投資家の買いが集中していた。

 

しかし、チャート上では衝撃的な「崖」が2024年8月に出現する。日銀の追加利上げが大きなネガティブサプライズとなり、8月5日に日経平均はブラックマンデーを超える過去最大の下落幅を記録した。それまでの円安・株高の流れが一気に反転した。

 

ここに岸田政権の本質的な限界が映し出されている。岸田首相は調整型のリーダーであり、政策の方向性自体は合理的であったが、日銀の利上げ判断に対する政治的グリップが弱く、金融政策と市場期待の齟齬を防ぐことができなかった。

 

わずか数営業日で1万円以上を失ったこの崖は、政策の発信力と政治的なリーダーシップの欠如がもたらした帰結とも言える。その後、岸田首相は退陣し、この出来事は政権が市場の信認を失ったことを象徴する出来事となった。

 

株価は、岸田総理の退陣表明後から9月末にかけて38,000〜39,000円台まで戻すが、これは次の政権への期待値であり、岸田政権への評価とは言い難い。新しい資本主義という曖昧な概念では、これ以上力強く株価を押し上げる力はなかったとも言える。

 

石破政権の約1年間は、極めて特徴的な形をしている。総裁選で石破氏の勝利が確定した直後に、市場は失望で急落した。第1回投票では高市氏が1位だったことで、その時点で「高市トレード」を期待した動きが出たが、決選投票で石破氏が逆転すると一気に反転した。

 

石破政権期のチャートを俯瞰すると、2024年10月〜2025年3月の約半年間、日経平均は概ね36,000〜40,000円のレンジに閉じ込められている。これは、上にも下にも抜けられない方向感のないチャートであり、石破政権の政治的性格そのものを表している。

 

石破氏の政治手法には3つの構造的弱点があった。第1に少数与党で政策の実行力を欠いたこと、第2に財政規律派と認識され景気刺激という買い材料を市場に提供できなかったこと、第3に党内基盤が脆弱で政権の安定性が疑問視されていたことが指摘される。

 

その上、2025年4月にはトランプ関税ショックが襲った。チャート上、この暴落は2024年8月と同じ31,000円近辺まで下げており、約8ヶ月の上昇がすべて吹き飛んだ形となった。今回も31,000円台が底となったが、レンジから抜け出せない構図は鮮明となった。

 

5月以降に回復局面に入るが、これは海外市場の好転やトランプ関税の軟化といった外部要因に乗っかった回復であり、受動的である。石破政権が自ら市場を引き上げる触媒となったことは一度もないのが、この政権の本質と言える。

 

石破首相が辞任の意向を表明すると、株価は一時43,838円と最高値を上回る局面まで行ったが、これが辞めると上がる首相というイメージを作り上げてしまい、株式市場における石破政権の位置づけを決定するものとなった。

 

石破政権の後を継いだ高市政権のチャートは、石破政権と根本的に異質なものである。最大の特徴は「階段状の上昇」、すなわち明確な政治イベントを契機とした「段差」を伴って上昇トレンドが形成されているということである。

 

高市新総裁の誕生を受けて、日経平均は一時48,527円まで急伸し、終値も前週末比2,175円高の47,944円と、史上最高値を更新した。この時点で、チャート上では45,000円台から48,000円台への一気の跳躍が確認できる。

 

この「段差」の意味は極めて重要である。石破政権が一度も届かなかった水準を、高市総理は自民党総裁就任と同時に突破した。市場は高市政権を、何をやりたいのかわからない石破政権とは違う存在であるということを、この時点で瞬時に理解したということになる。

 

しかし、台湾問題をめぐる中国との関係悪化で、11月以降は上昇に翳りも出た。これは少数与党という構造的な制約もあり、市場は政策が本当に実行されるのかを見極めていたとも言えるが、ここで高市総理は通常国会冒頭での衆院解散という大きな決断を下した。

 

その結果、自民党は316議席を獲得する歴史的大勝となり、翌9日の日経平均は一時3,000円超の上昇を記録し、終値も56,363円と最高値を更新した。チャート上は、54,000円台から一気に57,000〜59,000円台へ駆け上がる「第二の段差」となっている。

 

これは、高市政権が積極財政にアクセルを踏むとの思惑に加え、政治的基盤が強まり長期政権化するとの観測が海外投資家の買いを呼んだ結果でもある。トランプ大統領が選挙直前に高市総理への支持を表明したことも、日米リーダーの蜜月として好材料に作用した。

 

その後の「中東ショック」で、チャート上では59,000円近辺から51,000円付近まで、一気に約8,000円の急落が起きたが、注目すべきはその後の回復である。4月21日現在で日経平均株価は再び59,000円近辺まで戻している。

 

このように、この数年間の日経平均株価のチャートを見ると、それぞれの政権の株価のパターンは、驚くほど各総理の政治手法や性格と符合していることがわかる。以下に、各政権におけるチャート上の特色を書き出してみた。

 

岸田政権では、チャートは「緩やかな右肩上がりの末に断崖」となっており、合理的で堅実な政策が株価を着実に押し上げていったが、リーダーシップの欠如が日銀の利上げを許し一気に崩壊した。政策は正しいがリーダーシップが弱いという相場である。

 

石破政権のチャートは、「箱の中を行ったり来たり」で、政権自体が上昇の触媒になっていないという、調整はできるが推進力がない政治家の特徴的な相場である。市場にとっての石破政権は、居てもいなくても同じ、あるいはいない方がマシという評価となっている。

 

高市政権のチャートは、「階段状の飛躍」を遂げており、総裁選と衆院選という2つの政治イベントを通じて右肩上がりを続けている。外部ショックで急落しても、速やかに元の水準を回復する復元力があり、リスクを取って結果を出す政治家による相場となっている。

 

言い換えれば、岸田政権は「官僚の相場」、石破政権は「管理人の相場」、高市政権は「経営者の相場」ということになる。岸田元総理は正しい方向に舵を切ったが嵐に対処できず、石破前総理は嵐をやり過ごすことに全精力を注いで前に進めなかった。

 

岸田政権発足時に3万円を切っていた日経平均株価が、今や倍近くまで上昇している。その大半が高市政権下の半年間に集中しているというのは凄いことだ。チャートが物語るこの事実は、よほどのことがない限り、日本の株式市場は当分強含みで動くと言うことでもある。