マーメイモンの錨が、鳥ののどを貫こうとした瞬間。
「《メガフレイム》!」
入り江の奥から、火球が飛んできた。
「っ!」
マーメイモンはとっさに錨を掲げて盾にした。
が、魚の下半身では踏ん張りが効かず、火球に押されてバランスが崩れる。
やや飛んで波打ち際にあお向けに打ちつけられた。
「かしら!」
「ピヨモン! 無事か!」
波打ち際と入り江の奥から、同時に声が上がった。
ガワッパモンに助け起こされ、マーメイモンが半身を起こす。
入り江の奥からは、重い足音と共にデジモンが走ってきた。
身長はマーメイモンの二倍、幅は三倍はあるだろう。二つの足で力強く砂浜を蹴り、牙の生えそろった口からは煙が漏れている。
確か、先程の船上にいた隊商のひとりか。
マーメイモンの推測に答えるように、鳥――ピヨモンが口を開いた。
「何であなたがここにいるのよ!」
走ってきたデジモンは、ピヨモンをかばえる位置で止まり、真面目な顔で答えた。
「何でって、お前がこの辺りに落ちるのが見えたから、助けに来た」
ピヨモンは咳きこみながら反論する。
「そうじゃなくて! あなたは隊商の護衛なの! それが仕事なの! 隊商を離れちゃ駄目でしょ!」
「ああ、隊長にもそう言われた」
大柄なデジモンは、うんうんと首を縦に振った。
そして、ピヨモンの次の言葉を待たずに続けた。
「だから、ピヨモンを探すために、護衛辞めるって言ってきた!」
「はああっ!?」
ピヨモンの悲鳴は、怪我をしているとは思えないほど大きかった。マーメイモンが、その声量に顔をしかめたほどだ。
「あいつら、何の話をしてるんだ」
マーメイモンのつぶやきに、大柄なデジモンが改めて向き直った。
「ああ、悪い。俺はピヨモンの仲間でジオグレイモンっていうんだが……えっと、仲間を助けにきた。ピヨモンを隊商に戻らせたいし、必要ならお前ら海賊と戦う、っていう話をしてた」
「違う、そういう話じゃない……」
ピヨモンの声がしぼんでいく。疲れたのか、反論する気が失せたのか。
そんなピヨモンを無視して、マーメイモンはジオグレイモンに向かって錨を構えた。今、一番警戒すべき戦力は奴だ。
「あたしは、そのちっこいデジモンにだまされてイライラしてるんだ。あんたがそいつをかばうってんなら容赦しないよ」
「俺も、仲間を傷つけられて許す気はない」
ジオグレイモンも表情を引き締める。
お互いがにらみ合い、身構える。
マーメイモンが、ガワッパモンに目配せした。
その隙を見逃さず、ジオグレイモンが動く。
「《メガフレイム》!」
海賊達に向かって火球が放たれる。マーメイモンは海辺へ、ガワッパモンは砂浜へ宙返りして避けた。
「まだまだ!」
ジオグレイモンはガワッパモンに狙いを定め、次々と火球を吐いた。砂が跳ね、焼ける臭いが鼻をつく。
その中から、銀色に光る円盤が飛び出した。
「《DJシューター》!」
円盤は砂浜をえぐり、ジオグレイモンに迫る。
「おっと」
ジオグレイモンは円盤を避けて移動しながら、ガワッパモンに攻撃を続ける。
ジオグレイモンの右足が、波打ち際を踏んだ。
「《ノーザンクロスボンバー》!」
突然、海面から水柱が上がった。
マーメイモンが激しく錨を振り回し、ジオグレイモンの足場を崩す。
ジオグレイモンは海に倒れこんだ。
すかさずその首に、マーメイモンが錨をかける。
「あんた、泳いだことはあるかい?」
その言葉に、ジオグレイモンの体がこわばる。
マーメイモンはにやりと笑いながら、錨を引いた。
ジオグレイモンの巨体が引きずられ、顔が水中に沈む。
「ジオグレイモン!」
ピヨモンが悲鳴を上げる。
ジオグレイモンは必死に体を起こし、息を吸おうとする。
しかし、顔が海面から出たのもつかの間、マーメイモンが錨を引き、海中に引きずり込む。
それを繰り返すうちに、ジオグレイモンの体は少しずつ海へと沈んでいく。
ピヨモンは激しく視線を巡らせ、何か考えているようだった。が、ガワッパモンが砂浜を歩き、ピヨモンに迫る。
ガワッパモンがピヨモンをつかもうとした瞬間、ピヨモンが目を見開いた。
「海賊! 戦いをやめて! 提案がある!」
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更新が遅々としていて申し訳ありません(平身低頭)
デジモン愛と小説愛はちっとも減っていないのですが、リアルの仕事がなかなか減らないのです(泣)
学生の頃(フロ02を書き始めた頃)は週1~2回ペースで更新していたことを思うと、つくづくあの頃は時間と体力があったなと思います。
……いや、体鍛えろって話なんですけどね。運動、嫌だなあ……。