水の章〔4〕陸と海の境 | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

 ピンクの鳥が落ちた辺りで、マーメイモン達は海が黒く濁っているのを見つけた。

 オクタモンが鳥につけた墨汁だ。

 墨汁は左右に揺らぎながら、近くの入り江へと伸びている。

 マーメイモンは意地の悪い笑みを浮かべた。

 海賊から逃げ切れると思うなよ。

 マーメイモンが尾を一振りすると、墨汁がじわりと広がった。

 

 入り江の波打ち際に、黒く汚れたピンクの鳥が打ち上げられていた。

 オクタモンとイッカクモンを沖に残し、マーメイモンとガワッパモンが近づく。

 その水音に気づいたのか、鳥が身じろぎした。上半身を上げて、マーメイモン達の方を振り返る。

 マーメイモンはその首元に錨の切っ先を突き付けた。

「ここまでだよ、おチビちゃん。割符を渡しな」

 鳥は肩で息をしながら、黙ってマーメイモンを睨んでいる。

 ガワッパモンが、鳥の足に括りつけられていた割符を奪い取った。

 割符を一目見たガワッパモンが、驚きの声を上げた。

「かしら、これ見てくれ!」

 見せられた割符には、何も書かれていなかった。

 本来の割符に書かれているはずの文字がない。

 これは、ただの木切れだ。

「お前っ! これはどういうことだ!」

 混乱しながらも、鳥に切っ先を近づける。

 鳥がのどの奥から笑い声を漏らした。マーメイモン達に蔑んだような目を向ける。

「残念、私は囮でした。あなた達は、私に騙されて、必死に偽の木切れを追いかけてきたってわけ」

 ガワッパモンが息を飲んだ。

 マーメイモンは錨を握り締め、鳥の頬を打ち据えた。ピンクの羽が散る。

 それでも鳥は不敵な表情を崩さなかった。

「そろそろ、隊商の船は陸に着いた頃。もうあなた達海賊は手出しできないわね」

 マーメイモンは歯噛みしながらも、頭を巡らせる。

「いや、まだ手はある」

 マーメイモンは鳥の翼を掴み上げる。鳥はボロ布のように軽々と持ち上げられた。

「あんたの命と割符とで取引する。仲間が危険にさらされれば、隊商も考えるだろう」

 それを聞いて、鳥は少し寂しそうに笑った。

「悪いけど、それもムリ。私、いざという時の捨て駒だから。逃げ切れなかった時点で見捨てられる決まりなの」

 マーメイモンは一瞬言葉に詰まった。鳥を掴む手が緩み、鳥は柔らかい砂浜に落ちる。

「あんたは、仲間に見捨てられると分かっていて、囮になったのか」

 マーメイモンの言葉から、覇気が抜ける。

「《マジカルファイアー》!」

 マーメイモンの顔に、緑の炎が浴びせられた。ひるんだ隙に、鳥が砂浜を蹴り、海賊から距離を取る。

「へえ、海賊って情に厚くて隙だらけなんだ」

 鳥はそう言って飛び立とうとする。

 しかし、すかさずオクタモンの墨汁が浴びせられる。視覚を奪われた鳥は落ち、ガワッパモンがそれを捕まえる。

「ったく、かしらの性格につけこみやがって。逃げられると思うなよ」

 ほとんど黒にまみれた鳥を、ガワッパモンが引きずってくる。

 半ば独り言のように、マーメイモンは吐き捨てる。

「そうさ、あたしらは優しいんだ。陸のデジモンみたいに、仲間を見捨てたりしない」

 陸のデジモンには詳しくない。だが、この鳥がまだ幼いことは分かる。ガニモンと同じくらいの年だろう。

 そんな年のデジモンが、自分の命を簡単に捨てようとしている上に、海のデジモンを見下してくる。その考え方は、自分達とあまりにも違う。

 やっぱり、陸のデジモンはろくでなしだ。

 砂の上に転がる鳥を見下ろす。鳥は、口に入った墨を吐き出して咳きこんでいる。もう飛ぶ力もないようだ。

 マーメイモンは錨を握り直した。

「せめて、楽に死なせてあげるよ」

 錨を持ち上げて、鳥ののどに狙いを定める。

「次は、もっとましな場所で生まれ変わりな」

 

 

 

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相も変わらず亀更新ですみません。今回短めですが、キリのいいところで切りました。

マーメイモン視点だったり命がかかっていたりで、ピヨモンをいつもより性悪に書いてます。

 

次はデジフェスレポートの予定です! デジフェス楽しみです!