ピンクの鳥が落ちた辺りで、マーメイモン達は海が黒く濁っているのを見つけた。
オクタモンが鳥につけた墨汁だ。
墨汁は左右に揺らぎながら、近くの入り江へと伸びている。
マーメイモンは意地の悪い笑みを浮かべた。
海賊から逃げ切れると思うなよ。
マーメイモンが尾を一振りすると、墨汁がじわりと広がった。
入り江の波打ち際に、黒く汚れたピンクの鳥が打ち上げられていた。
オクタモンとイッカクモンを沖に残し、マーメイモンとガワッパモンが近づく。
その水音に気づいたのか、鳥が身じろぎした。上半身を上げて、マーメイモン達の方を振り返る。
マーメイモンはその首元に錨の切っ先を突き付けた。
「ここまでだよ、おチビちゃん。割符を渡しな」
鳥は肩で息をしながら、黙ってマーメイモンを睨んでいる。
ガワッパモンが、鳥の足に括りつけられていた割符を奪い取った。
割符を一目見たガワッパモンが、驚きの声を上げた。
「かしら、これ見てくれ!」
見せられた割符には、何も書かれていなかった。
本来の割符に書かれているはずの文字がない。
これは、ただの木切れだ。
「お前っ! これはどういうことだ!」
混乱しながらも、鳥に切っ先を近づける。
鳥がのどの奥から笑い声を漏らした。マーメイモン達に蔑んだような目を向ける。
「残念、私は囮でした。あなた達は、私に騙されて、必死に偽の木切れを追いかけてきたってわけ」
ガワッパモンが息を飲んだ。
マーメイモンは錨を握り締め、鳥の頬を打ち据えた。ピンクの羽が散る。
それでも鳥は不敵な表情を崩さなかった。
「そろそろ、隊商の船は陸に着いた頃。もうあなた達海賊は手出しできないわね」
マーメイモンは歯噛みしながらも、頭を巡らせる。
「いや、まだ手はある」
マーメイモンは鳥の翼を掴み上げる。鳥はボロ布のように軽々と持ち上げられた。
「あんたの命と割符とで取引する。仲間が危険にさらされれば、隊商も考えるだろう」
それを聞いて、鳥は少し寂しそうに笑った。
「悪いけど、それもムリ。私、いざという時の捨て駒だから。逃げ切れなかった時点で見捨てられる決まりなの」
マーメイモンは一瞬言葉に詰まった。鳥を掴む手が緩み、鳥は柔らかい砂浜に落ちる。
「あんたは、仲間に見捨てられると分かっていて、囮になったのか」
マーメイモンの言葉から、覇気が抜ける。
「《マジカルファイアー》!」
マーメイモンの顔に、緑の炎が浴びせられた。ひるんだ隙に、鳥が砂浜を蹴り、海賊から距離を取る。
「へえ、海賊って情に厚くて隙だらけなんだ」
鳥はそう言って飛び立とうとする。
しかし、すかさずオクタモンの墨汁が浴びせられる。視覚を奪われた鳥は落ち、ガワッパモンがそれを捕まえる。
「ったく、かしらの性格につけこみやがって。逃げられると思うなよ」
ほとんど黒にまみれた鳥を、ガワッパモンが引きずってくる。
半ば独り言のように、マーメイモンは吐き捨てる。
「そうさ、あたしらは優しいんだ。陸のデジモンみたいに、仲間を見捨てたりしない」
陸のデジモンには詳しくない。だが、この鳥がまだ幼いことは分かる。ガニモンと同じくらいの年だろう。
そんな年のデジモンが、自分の命を簡単に捨てようとしている上に、海のデジモンを見下してくる。その考え方は、自分達とあまりにも違う。
やっぱり、陸のデジモンはろくでなしだ。
砂の上に転がる鳥を見下ろす。鳥は、口に入った墨を吐き出して咳きこんでいる。もう飛ぶ力もないようだ。
マーメイモンは錨を握り直した。
「せめて、楽に死なせてあげるよ」
錨を持ち上げて、鳥ののどに狙いを定める。
「次は、もっとましな場所で生まれ変わりな」
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相も変わらず亀更新ですみません。今回短めですが、キリのいいところで切りました。
マーメイモン視点だったり命がかかっていたりで、ピヨモンをいつもより性悪に書いてます。
次はデジフェスレポートの予定です! デジフェス楽しみです!