風の章〔3〕偽りのお触れ | 星流の二番目のたな

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 口ではジオグレイモンにおごらせると言いながら、ピヨモンは自分の菓子代を自分で出した。そこは隊商の一員、金のやりとりが争いを生むことを良く知っていたのだ。
「んーやっぱり、あったかい所で食べるかき氷って最高!」
 自分と同じピンク色のかき氷を口に運び、ピヨモンが嬉しそうに首を傾げる。
「お前なあ、俺の頭にこぼすんじゃないぞ」
 ジオグレイモンがぼやく。
 ピヨモンはジオグレイモンの頭に寝そべり、くつろいでいる。すっかり頭の上が気に入ったらしい。
 そんなジオグレイモンの頭を、ピヨモンが羽の先で小突く。
「ほらほら、そんなしかめ面しないで。この練乳かき氷おいしいでしょ?」
「俺は甘い物好きじゃないんだ」
 言いながら、自分の分を口に運ぶ。
 氷菓子を食べるのは初めてだった。口に含むと、甘みよりも冷たさが広がり、心地よい。ただし、後をひく練乳の甘さだけは好みに合わない。
 かき氷自体は気に入った。だが、それを言うとピヨモンが調子に乗りそうなので、本心は飲み込むことにした。

 器の底に残った氷水をさらい終わった頃。
 当てもなく歩いていたふたりは町の中心広場に着いた。
 広場の周りには二階建ての建物が取り巻いているが、一軒だけ三階建ての建物がある。町長の家といったところか。
 その前に住民達が集まっている。
 ピヨモンが様子を見ようと軽く羽ばたく。
「何かあったのかな?」
「町長の家の前に集まるのは、お触れが出た時だろ」
 ジオグレイモンはこともなげに答えた。自分も草原の町でお触れが出た時は、張り紙を見に町長の家に出かけたものだ。
 ピヨモンが頭の上に着地して、ジオグレイモンを見下ろす。
「ジオグレイモンって、字読めるの?」
「まさか。お前は読めるのか?」
「……ゆ、ゆっくりなら」
 ピヨモンが目をそらす。胸を張れるほどではないらしい。
 それはそうと、気になるのはお触れの内容だ。大抵は、字の読めない庶民のために、町長が代読してくれるものだが。
 ジオグレイモンの予想通り、デジモン達の中心で黄金色の毛のハヌモンが大声を張り出した。
「皆、集まったな! 光の城からのお触れだ、心して聞くように!」
 ハヌモンが壁の張り紙に向き直り、大きく息を吸う。
「『草原の町における急襲事件について』」
 ジオグレイモンがはっと身をこわばらせた。町を焼く炎の記憶が、脳裏をよぎる。
 ピヨモンもジオグレイモンを見下ろして、遠慮がちに相手の頭をつつく。ジオグレイモンはぴくりとも動かない。
 ハヌモンは離れた場所のその様子には気づかず、言葉を続ける。
「『殿下が草原の町の視察に行かれた際、そのお命を狙った事件が発生した。これはヒューマンデジモンの指導者グレイドモンが草原の町長スターモンと結託して計ったものである。』」
「町長が!? そんなわけあるか!」
 ジオグレイモンが声を上げ、ピヨモンは思わず飛び上がった。住民達も、何体か怪訝そうに振り向く。
「ちょっと、ジオグレイモン落ちついて」
 ピヨモンがジオグレイモンの頭をぱたぱたと叩く。
 ジオグレイモンはそれをうっとうしそうに払う。
「俺は町長と直前に話してるんだぞ。第一、町長に王を暗殺する肝っ玉なんかない」
 声量はやや小さくなったが、早口で鼻息も荒い。
 ピヨモンがなだめるように語りかける。
「ちょっと、ここから離れない? ジオグレイモンは聞くの辛いっていうか、聞く準備ができてないっていうか」
「黙っててくれ」
 ジオグレイモンの声は低く、どすが効いていた。
 ピヨモンは直感した。彼をこの場から動かすのは無理だ。
 とっさにピヨモンは空高く飛び上がり、天に向けて緑の炎を吹き上げた。
 そんな様子をよそに、ハヌモンがお触れの続きを読む。
「『しかし、暗殺計画を知らずにいた罪なきデジモン達も多く戦闘に巻き込まれ、命を落としてしまった。誠に遺憾である。』」
「どこが戦闘だ! あれは一方的な虐殺だ!」
 ジオグレイモンの声は更に大きくなった。住民達の半数が振り返り、騒々しい部外者を睨む。
 ハヌモンも部外者の様子が気になるようで、視線がお触れとジオグレイモンを行ったり来たりする。
「えー、『この件について、いわれなき流言が広まっているが、暗殺者の生き残りが自らの正当性を訴え、殿下を貶める目的で流しているとみられ』……」
 読み上げられる言葉に、ジオグレイモンの全身に力が入っていく。
 ハヌモンが急いで残りの文を読み上げる。
「あー、『流言を積極的に流す輩が見受けられた場合は、町長等を通じて光の城に知らせられたし。』以上」
 ハヌモンが話し終えた時には、住民全員の視線がジオグレイモンに向いていた。ジオグレイモンの振る舞いは、「自らの正当性を訴える暗殺者の生き残り」そのものだった。
 屈強そうなデジモン達がじりじりと動き、ジオグレイモンを囲んでいく。

「やあジオグレイモン、こんなところにいたのか!」
 緊張した空気を壊すように、陽気な声が割って入った。
 隊長のツチダルモンが、にこやかに、それでいて早足にジオグレイモンに歩み寄った。住民の中から、「イリス隊商のツチダルモンだ」という声が上がる。ツチダルモンは、それなりに名の知られた存在だった。
 ツチダルモンはにこやかな顔のままジオグレイモンの肩を叩き、周りのデジモン達を見回す。
「うちの奴が済みません。小さい頃から根はいいんですが、少しばかり妄想癖がありまして。久しぶりに隊商に入れてみたのですが、なかなか」
 ジオグレイモンが草原の町と無関係であるような物言いをして、さりげなく周りの疑念を解く。
 その隙に、ピヨモンがジオグレイモンの肩を押した。こちらも子どもをあやすような優しい声を出す。
「ほら、隊商に帰るよー、ジオグレイモン」
「いや、俺は」
「いいから!」
 ピヨモンは小声で、しかし鋭く言った。
 ジオグレイモンが更に何か言おうとするので、ツチダルモンがその口に自分のこぶしを入れて黙らせる。
 住民達の怪訝な目にさらされながら、三体は広場から足早に去っていく。
 
 
 広場から百歩は離れたところで、ツチダルモンがピヨモンに声をかけた。
「良かった。ピヨモンが合図をくれたからすんでのところで駆けつけられたが、あのまま捕まっていたら厄介だった」
「うん。ありがとう」
 ピヨモンもほっと息を吐く。非常時は空に技を放って、助けを求めること。隊商の決まりだった。
 当のジオグレイモンは、黙ってついてきてはいるが、今にも炎を吐きそうな形相で、鼻息も荒い。
 その様子を見て、ピヨモンはげんなりと思う。これは、面倒な護衛を雇ってしまったのかもしれない。
 
 
 
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次回、ジオグレ叱られるの巻。
昔『まんが日本の歴史』を読んでいたせいか、お触れは村の名士やお坊さんが読んでくれるイメージがあります。
 
さあ、8/1用の小説書くぞー。