8/1おめでとうございます!
というわけで、8/1小説という名の、無印全然関係ない短編です!(笑)
お正月特別編 おやつの恨みの続編です。
ノリと勢いで書き上げたので、粗があるかと思いますが、ご容赦くださいませ。
なお、今回登場するデジモンは、拙作『デジモンフロンティア02~神話へのキセキ~』の登場デジモンとは無関係です。
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あたし、元は天界で幸せに暮らしてた超絶プリティーな天使デジモン☆
でも、怒りっぽいオファニモンのせいで、醜いブタの姿にされたうえ、地上に落とされちゃったの!
元の姿に戻るには、サンゾモンのお供をして、天界まで送り届けなさい、だって。
というわけで、あたしはサンゾモンとヤンキー猿と怠け馬と一緒に、天界目指して歩いてるってわけ。
ああ、早く元の姿に戻りたい!
「一人で何をぶつぶつ言ってるんだ」
ゴクウモンの呆れた声で、あたしは現実に引き戻された。
「モチベよ、モチベ! こうやって物語のヒロインっぽい想像をして、頑張る気力を出してるの!」
「誰がヒロインだよ。一番食い意地張ってるお前が、『超絶プリティーな天使デジモン☆』とは思えねえな」
ゴクウモンが、途中あたしの声真似をしてせせら笑う。声真似、ちょっと似ててムカつく。
「むうう、そんなこと言って、あたしが元の姿に戻った時に、美しさで目が潰れても知らないんだからね!」
あたしは思いっきり舌を出してやった。
あたし達の後ろをポクポク歩いているユニモンが、ため息をついた。
「僕は、僕のこと『怠け馬』呼ばわりされてることにツッコミたいですけどね」
この発言には、あたしもゴクウモンも眉根を寄せてユニモンの顔を見る。
「盗賊に襲われると、すーぐ逃げるじゃねえか」
「そうそう、どこかに飛んでっちゃって、戦いが終わるまで帰ってこないんだから」
当のユニモンは、悪びれもせずに小首を傾げる。
「僕の役目は、戦う事じゃなくて、サンゾモン様を安全にお運びすることですから。普段はこうしてサンゾモン様を乗せて歩いて、戦いの時には安全な場所までお連れしてるんですよ」
よくもまあ、もっともらしい言い訳ができること。
あたしが更に言おうとすると、ユニモンの背でサンゾモンが和やかに口を開く。
「そこまでですよ、チョ・ハッカイモン。ユニモンはユニモンにできることを精一杯やっているのです。デジモンには誰しもそれぞれの役割があるということです」
サンゾモンの「ザ・無邪気」な発言に、あたしは若干の不満を覚えながらも引き下がる。サンゾモンみたいに何でもプラスに考えられたら気楽だろうけどさあ。
と、サンゾモンが背筋を伸ばし、道の先に目をこらした。
「皆さん、茶屋が見えてきました。一休みできそうですよ」
その言葉に、全員の目が輝く。あたしはみたらし団子の匂いでもしないかと鼻をひくつかせる。
微かな甘い匂いがする。でも、みたらしじゃない。これは、この少し焦げた甘ったるいカラメルの匂いは――。
「ま、まさか!」
あたしはみんなを置いて全速力で駆け出した。坂を越え、茶屋の前で転げるように止まる。
茶屋に架けられたのれんに書かれた屋号は、「デスメラモン亭」。
あたしはその字に釘付けになった。
「一体どうしたんですか、急に」
慌てて追いかけてきたユニモンが、息を上げながら聞いてくる。
あたしは我に返って叫んだ。
「かの有名なデスメラモン亭よ! 地上のみならず天界の天使達の心までとろかす、メラメラプリンのお店! 朝から夕方まで、店の前には行列ができる超有名店! その甘さたるや、当時プリティー天使だったあたしが、禁を犯してオファニモンに献上されたものを盗み食い」
「でも、その割に誰も並んでないぜ」
ゴクウモンに言われて、辺りを見回す。店の戸は閉ざされ、客は誰もいない。
店の戸には、一枚張り紙がしてある。
『お客様へ
昨今、デジモンさらいを繰り返している悪党により、とうとう我が店の看板娘がさらわれてしまいました。
店主は意気消沈しており、とてもプリン作りができる状態ではありません。
そのため、看板娘が帰ってくるまで、お店は閉めさせていただきます。 店主』
「なんということだ……」
「なんということでしょう……」
あたしとサンゾモンが同時につぶやく。あたしが振り向くと、サンゾモンの固い決意を秘めた目と目が合った。
「チョ・ハッカイモン、これは由々しき事態です!」
「そのとおりね、サンゾモン!」
「何としてもその看板娘さんを取り戻してあげなければ!(悲しむ店主のために!)」
「ええ、このままにしていい訳がないわ!(またプリンを作ってもらうために!)」
ゴクウモンとユニモンが呆れた目を向けてくるが、見なかったことにする。
あたしとサンゾモンは店の戸を勢いよく開けた。
「たのもー!!」
「デジモンさらいの話、詳しく聞かせてください!!」
板の間に座り込み、うなだれていたデジモンが顔を上げた。鉄仮面に青いツンツン頭、体には何十にも巻き付いたチェーン。外見のヤバさはゴクウモンといい勝負だ。
でも今はすっかり背中を丸めていて、覇気は全くない。
「あんた達は……? 店なら休みだが」
「我々は、デジモン助けをしながら旅をしている者です」
「娘さんは、あたし達が助け出します!」
あたし達は板の間に勢いよく上がり込んで、正座した。
店主は数秒呆然としていたけど、すがりつくようにあたし達の手を取った。
「た、頼む! 悪党は北の山に棲みついていて、里に下りてきては美しいデジモンや可愛いデジモンをさらっていくんだ。先週、ついにうちの愛娘であるキャンドモンが」
そこで涙が込み上げてきて、店主は仮面越しに目を拭った。
あたし達は深くうなずいた。
「キャンドモンちゃんも、さらわれたデジモン達も、必ず連れ戻します」
ゴクウモンが確認のために発言する。
「でも、悪党のすみかがどこか、詳しくは分からないと」
うんうん。
「それで、可愛いデジモンを餌にして、その悪党をおびき出すと」
その通り。あたしってばナイスアイディア。
「で、何でお前が一番目立つところに座ってるんだ?」
「あたしが、その餌である可愛いデジモンだからに決まってるでしょうが!」
あたしの渾身の裏手ツッコミは、ぎりぎりのところで避けられた。ちっ。
時刻は夜。あたしは店の縁側にお行儀よく座って「大人しい可愛いデジモン」として振る舞っている。ゴクウモンは、目につかないよう戸の裏に隠れている。
サンゾモンとユニモンは、荒事に巻き込まれないよう奥の家の一室に泊めてもらっている。
さあ、来るなら来なさい、悪党め。あたしがメタメタのギッタンギッタンにして、さらったみんなの居場所を吐かせてやるんだから。
突然、大きな物音がした。
奥の家の方から。
そして聞こえてくるサンゾモンの悲鳴。
ま、まさか。
あたしとゴクウモンは、それぞれの武器を手に家の方へ走る。
サンゾモンの部屋から庭へと、一体のデジモンが飛び出してきた。暗がりでも、丸い頭に長い手足が分かる。目を凝らすと、指の間に水かきがある。片手には三日月型の槍。
そして、肩に気絶したサンゾモンをかついでいる。
あたしとゴクウモンは、悪党カッパに武器を向けた。
「こらあんた! あたしを差し置いてサンゾモンを狙うなんてどういうつもりよ!」
「ブサイクに用はねえ! ハアッ!」
悪党カッパが、槍を地面に突き立てた。
そこから大量の水が噴き出し、あたし達に降り注ぐ。その重量に耐え切れず、膝をつく。
悪党カッパはそのまま北の山へと跳び去った。
すぐに水も降りやむ。あたしは震える膝を押さえながら立ち上がった。
「は、早く追わないと」
「ああ。でもその前に」
ゴクウモンはサンゾモンの部屋に上がり込んだ。押入れの戸を勢いよく開ける。
ユニモンがいた。
「お前、ひとりだけ隠れてやがったな」
ゴクウモンがどすの効いた声を出したけど、ユニモンはぺろっと舌を出した。
「だって、あの悪党は強そうでしたから。僕が戦っても倒されるだけでしたよ。それに、ちゃんと成果はありました」
ユニモンが押入れから出て、北の山に目を向ける。
「悪党がサンゾモン様に、『キレイな滝と虹の見える家に住ませてやる』って言ってるのを聞いたんですよ。だから、川をさかのぼって滝のある場所を探せば、住み家を見つけられます」
それはすごい成果だ!
「たまにはやるじゃない!」
あたしがユニモンの背を叩くと、ユニモンはゲホゲホと咳きこんだ。
川をさかのぼっていくと、涼しげな水の流れ落ちる音が聞こえてきた。
じきに視界が開けて、目の前に滝つぼが現れた。デスメラモン亭がすっぽり入るくらい大きな滝つぼだ。その上には、うっすらと虹がかかっている。あたしが住んでた天界ほどじゃないけど、まあまあキレイな場所だ。
この辺りに悪党の住み家がありそうなもんだけど。辺りを見回しても、それらしい建物はない。
「っ、そこか!」
突然ゴクウモンが、滝に如意棒を向けた。瞬時に如意棒が伸び、滝を突き破る。
キンと金属音がして、滝から三日月型の槍が突き出し、如意棒を弾いた。
「なるほど、仲間達か」
その声と共に、滝の中から悪党カッパが現れる。
よく見れば、滝の向こうに洞穴が見える。滝の中に住んでるってわけね。悪党カッパらしい隠れ場所だわ。
ゴクウモンが如意棒の長さを戻し、先を悪党カッパに向ける。
「そのとーりだ。さあ、調子に乗るのもここまでだぜ」
ゴクウモンの不敵な笑みに、悪党カッパが静かに武器を構える。
「じゃあ僕は、おふたりが戦ってる隙に、サンゾモン様達を助けに行きますね」
ユニモンが体よく言って、あたし達から離れる。……まあ、ひとりで逃げないだけマシだと思っておこう。
あたしも自分の武器――ハンマーの先に棘のついたクソダサ武器――を構える。
先に動いたのは悪党カッパだった。
「《降妖杖・渦紋の陣》!」
滝つぼの水が吹きあがり、渦を巻く。見上げんばかりの水の竜巻が、あたし達にのしかかってくる。
「へっ、同じ攻撃二度もくらうかよ!」
ゴクウモンが如意棒を地面に突き、天高く伸びあがって避ける。
あたしはその場に残り、両手に握った武器を後ろに引く。ゆっくりと息を吐き、力を溜める。
「はああっ! 《強振砲舞乱》っ!!」
全力で振った武器が、竜巻を真っ二つに切り裂いた。
大量の水が、豪雨のように滝つぼへ降る。
が、その向こうに悪党カッパの姿はなかった。
どこへ、と目をやる暇もなく、目の前の滝つぼから悪党カッパが飛び出した。
「ふんっ!」
水滴と共に、三日月槍を突いてくる。あたしはとっさに武器で受け止めた。それでも勢いを殺しきれず、体が押された。足の爪が地面をえぐる。
やるじゃない、あたしの怪力相手にここまで押してくるなんて。
「でも、あたしをブサイク呼ばわりした罪は重いんだからね!」
渾身の力を込めて、武器ごと体当たりをかます。悪党カッパはもんどりうって滝つぼに落ちた。
その姿が見えたのは一瞬で、魚のように優雅に泳ぎ、水の中に消えた。
直後、地面が揺れた。
あたしの足元の地面が裂け、水が噴き出した。
裂け目は見る間に広がって、あたしは足を滑らせた。頭まで水に飲みこまれる。
必死にもがくけど、ブタの鎧が重くて思うように動けない。口からあぶくが漏れ出す。
まずい。水の中は敵のテリトリーなのに!
水の向こうから、ゴクウモンの声が聞こえた。
『ちょっと痛いけど我慢しろよ!』
あ、なんか嫌な予感。
揺れる水面の向こうで、ゴクウモンが動くのが見える。
『秘儀! 《超帯電雷光砲》!』
天から、輝く雷の球が放たれた。
それは水面に触れるとともに、水中へ一気に広がった。
「ひぎゃぎゃぎゃやああ!!」
全身を駆け巡る電流に、あたしは悲鳴を上げた。
電気が消えると同時に体の力が抜けて、あたしは水面に浮きあがる。
それをゴクウモンがつかんで、地上に引き上げた。
あたしは震える腕でゴクウモンをつかんだ。
「し、しぬかと思ったじゃない!」
「お前、前にこれ食らった時も、数分後にはぴんぴんしてたじゃねえか」
しれっと答えるゴクウモン。
「だからって、気軽に巻き込むんじゃないわよぉ!」
乙女の抗議には耳を貸さず、ゴクウモンは水面をしげしげと眺めた。
「俺の攻撃は水棲デジモンに効果抜群だからな。さすがにカッパもただじゃ済まないだろ」
「確かに、大した攻撃だった」
その言葉とともに、悪党カッパが水面に顔を出した。ゴクウモンとあたしの顔がこわばる。
「おい嘘だろ」
ゴクウモンが思わずこぼした。
悪党カッパが地上に上がってくる。その動きに、さっきまでの精細はない。それでも、武器を落とすことなく、こちらを注意深く見る動きに隙はない。
あたしは改めて身構えた。
「ただの悪党カッパじゃないわよ、こいつ」
「それはこちらのせりふだ。お主達こそ、ただ者ではあるまい」
悪党カッパは背筋を伸ばし、正々堂々とこちらに問いかけてきた。
「ゴクウモンさーん! チョ・ハッカイモンさーん! みんなを助けましたよー!」
間延びした声がして、緊迫が薄れた。
見ると、滝をくぐってユニモンが出てきた。その後ろからは、サンゾモンやさらわれたデジモン達。
サンゾモンが嬉しそうにあたし達に手を振った。
「あなた方が助けてくれると信じていました!」
その笑顔に、あたしはほっとして手を振り返し、ゴクウモンは気恥ずかしそうにそっぽを向いた。
一方で、悪党カッパは怪訝そうにあたし達とサンゾモン達を見比べた。
「お主達、悪党の仲間ではなかったのか」
「はあ?」
あたしはきょとんとして聞き返した。
「あんたこそ、サンゾモン達をさらった悪党カッパでしょ?」
あたしの言葉に、悪党カッパは、ああ、とひとり納得したような声を出した。
「もしや、あの岩陰に倒れている奴のことか」
指さす方を見れば、岩陰で気絶している一体のカッパ。もしかして……これが悪党カッパ(真)?
見比べてみると、悪党カッパ(違)は緑で、悪党カッパ(真)は青。でもパッと見はどっちもカッパだし、武器もそっくりだ。暗がりで見たんじゃ区別がつかないだろう。
悪党カッパ(違)が口を開く。
「私は旅の途中、デジモンさらいがいるという噂を聞きつけ、ここを探し当てたのだ。それを討伐したところにお主達が来たので、てっきりデジモンさらいの仲間かと思ってしまった。すまない」
丁寧に頭を下げる悪党カッパ(違)に、あたしはぶんぶんと手を振った。
「い、いやこっちこそ話を聞かずに攻撃しちゃってごめん!」
サンゾモンが、嬉しそうに両手を合わせる。
「では、貴方も我々を助けるために来てくださったんですね。私のお供をふたりも相手取るとは、名のある方とお見受けいたします」
その言葉に、シャウジンモンは少し困ったように頭を掻いた。
「今の私はただのシャウジンモンだ。元は力あるデジモンだったのだが、故あって呪いを受け、今の姿に退化してしまった。その呪いを解くために、天界を目指しているところなのだ」
「じゃあ、あんたも俺達と行き先は同じってわけだ」
ゴクウモンがにっと笑った。
「なあ、俺達と一緒に行かないか? あんたと修行すれば、俺はもっと強くなれる気がする」
「確かに、一緒に来てくれれば頼もしいわね!」
あたしも期待の目でシャウジンモンを見る。
ユニモンがサンゾモンを見上げる。サンゾモンは無邪気な笑顔でうんうんと頷いている。
あたし達を見回して、シャウジンモンは「了承した」と答えた。
「旅は道連れという。天界までは長い。私も共に行こう」
悪党を捕まえ、さらわれた里のデジモン達もみんな戻ってきた。
里のデジモン達は大喜び。特にデスメラモン亭の店主は店を貸し切りにしてくれて、プリンづくりの腕を振るってくれることになった。
厨房から漂ってくるカラメルソースの香りに、あたしはうっとりとする。
一方、あたしの前に座っている悪党カッパ(違)改めシャウジンモンは、顔をしかめている。
「ずいぶん甘ったるい匂いだな」
「もしかして甘い物苦手なんですか?」
ユニモンに聞かれて、シャウジンモンは仏頂面でうなずく。
「えー、こんな世の中で最っ高においしいもの苦手だなんてもったいない!」
あたしは唇を尖らせた。でも、こんな強いデジモンに苦手なものがあるのは、ちょっと可愛い。
厨房からキャンドモンが出てきた。
「ハイお待ち! 当店名物、メラメラプリンだよ!」
お盆に乗せたプリンが、手早くそれぞれの目の前に配られる。
あたしはすぐさまスプーンを手に取り、プリンをすくいあげる。
「いっただっきまーす!!」
プリンがあたしの口に入る、その瞬間。
シュッと音がして、視界が真っ暗になった。
「え?」
驚いてスプーンを下ろす。
シュッと視界が開ける。
スプーンを上げる。
シュッと視界が暗くなる。
スプーンを下ろす。
視界が開ける。
ふと見ると、あたしのももに貼ってあるお札が光っている。何か書いてある。
『デスメラモン亭のプリンを食べようとすると鎧の口が閉まって食べられなくなる呪い』
「オ、オファニモンめぇぇぇぇっっ!! なんつー具体的な呪いをぉぉぉっ!!」
あたしの絶叫が店内に響き渡る。
お札の文字を見たユニモンが、心底同情する目を向けた。
「ご愁傷様です。あなたのプリンは、代わりに僕が食べておきますね」
「ああっ、だめ、プリンーー!」
プリンのお皿にすがりつこうとするけど、シュッと視界が閉じて見えなくなった。
あたしはしくしくと泣き、机に突っ伏す。
ああ、早く元の姿に戻ってプリンが食べたいーーー!!