第193話 終焉の一撃! 信也の望むもの | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよび
デジモンアドベンチャー02の
二次創作(小説)中心に稼働します。

注)『デジモンフロンティア02~神話へのキセキ~』は
管理人が勝手に想像するフロンティアのその後の物語です。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。


テーマ:

 鋭い一撃が、肉を断つ音がした。
 俺の右耳のすぐ横で。
 同時に俺の体が重くなり、振り下ろした剣は敵に達する前に止まった。
「え……」
 首を回して、自分の右肩を見る。 
 ノゾムの胸を、一条の稲妻が貫いていた。
 人間のこぶし程度の細さの、しかしノゾムのスピリットを撃ち抜くには十分な一撃。
 ノゾムは呆然として自分の胸を見た後、ぎこちない動きで俺の顔を見あげた。
「信、也」
 その体が後ろに傾き、俺の肩から落ちる。
 手を伸ばそうとするが、水の中のように動きが鈍い。俺の指をすり抜けて、ノゾムが墜ちていく。
 体と同じで、頭も働かない。
 今、何が起きたんだ。
 「っ、スーリヤモン避けろ!」
 スサノオモンの声がした直後、額に重い衝撃が走った。視界が真っ白になる。
 目が見えだした時には、俺は頭を下にして落下していた。
 にじんだ景色の中で、ユピテルモンが半分に折れたハンマーを放り捨てるのが見えた。
 その横で、小さな雷雲が崩れていくのも。
 《マボルト》の雷雲。全部吹き飛ばしたはずなのに。ひとつ隠していたのか。あれを使って、ノゾムを背後から攻撃したのか。
 考えている間に、スサノオモンが敵に殴りかかる。
 そして、俺は地面に叩きつけられた。

 体がデジコードに包まれ、神原信也の姿に戻る。胸の周りにデジコードが出たまま消えない。体中が痛い。
 だけど、それよりも大切なもの。
 頭を上げる。
 ノゾムが数歩離れた場所に倒れていた。まだ意識はあって、焦点の合わない目でこっちを見ている。
 胸には穴が空いている。その前に黒いスピリットが転がっている。胸とスピリットを何本かの細いデジコードがつなぎとめている。それが俺の見ている間にぷつぷつと切れていく。
「嘘だ……嫌だ!」
 俺は転がるようにノゾムに駆け寄った。
 ノゾムの前に座り込んで、スピリットを両手ですくい上げる。スピリットは吸い付くように俺の手に収まった。

 まだ間に合う。助けられるはずだ。

 スピリットをノゾムの胸に押し込もうとする。

 手が震えて上手く入らない。

 入れ。戻れ。

 やっと胸の穴に入った。

 なのに、ノゾムとスピリットをつなぐデジコードは次々と切れていく。

 デジコードをつかもうとしても、データの屑になって俺の手からこぼれ落ちていく。

 止められない。

「何でだよ」

 スピリットを押し込む手に力が入る。

「俺のケガは一瞬で治すくせに! 何でノゾムは助けてくれないんだよ! ノゾムと俺とで成長させてきたスピリットなのに!」

「信也」

 ノゾムが俺の右手を優しく握った。はっとして、その顔を見る。

 ノゾムは小さく微笑んで、まっすぐ俺を見つめていた。

「信也、大丈夫だよ。僕が、ついてる」
「っ、それはこっちのセリフだ」

 汗ばんだ右手で、ノゾムの左手を強く握り返す。

「俺は、ノゾムと一緒に戦うって決めたんだ。だからこんなこと、あってたまるか」

 唇の端を無理やり上げて、笑ってみせる。

 ノゾムも嬉しそうに笑った。

「うん。信也のこと、信じてる」

 ぷつ。

 最後のデジコードが切れた。

 俺の左手に、スピリットが転がり落ちる。

 ノゾムの手から、温もりが消えていく。

 無理に作っていた笑顔が崩れる。

「……ノゾム」
 返事はない。微笑みを浮かべたまま、ノゾムは動かない。

「嫌だ」
 震える口から言葉があふれる。

「俺は、こんな思いをするために戦ってきたんじゃない。俺とノゾムなら、どんなに強い相手にも勝てるって、信じて、ここまで」

 重い音とともに、地面が揺れた。

 顔を上げると、大きなクレーターができていた。その中心に、傷だらけになったスサノオモンが倒れている。トゥルイエモンが駆け寄っていく。

 兄貴達、負けた……?

 俺の横を、エンジェモンとテイルモンが飛び過ぎた。ボコモンとネーモンが俺の両脇に走ってきた。

「早く、信也さんを!」

 エンジェモンの言葉に、ボコモンとネーモンが俺の腕をつかむ。

「信也はん、立ちなはれ!」

「ここにいたら危ないよー」

 俺を立ち上がらせて、引きずっていこうとする。

 俺は首を横に振って、それを振りほどく。

「だめだ。ノゾムを置いていけない。ノゾムも一緒じゃなきゃ」

 ノゾムの脇に左腕を回して、持ち上げようと力を込める。俺の気持ちと反対に、だらりとしたノゾムの体はひどく重い。

 ボコモンがもう一度俺の腕をつかむ。

「気持ちは分かるが、今はわしらの言うことを聞くんじゃハラ」

「そうだよ、信也だけでも」

 二人が必死に俺に呼びかけてくる。でも、俺はノゾムと握った右手が離せない。

 ノゾムを置き去りにしたら、ノゾムを諦めたことになる。

 ノゾムがいなくなったんだって、受け止めなきゃいけなくなる。

「ぐはあっ!」

「ぐうっ」

 俺達の横に、エンジェモンとテイルモンが叩きつけられた。

「スサノオモンも、元三大天使も、勝てぬと分かっていても、信也を守るために戦いを挑んだか。敵ながら崇高な志だ」

 雷鳴のような低い声に、俺は奥歯をきつく噛んだ。怒りを込めて声の主をにらむ。

 ユピテルモンが重い足音を立てながら歩いてきた。ボコモンとネーモンが短く悲鳴を上げ、固まる。

 ユピテルモンは俺の目の前で足を止め、俺を見下ろした。

「最終審議は決した。お前達の敗北だ」

「ふざけるな。ノゾムを狙っておいて、何が最終審議だ!」

 握っていたノゾムの手を離し、ユピテルモンに殴りかかる。

「ネプトゥーンモンはお前のこと、十闘士が勝つなら、素直にそれを受け入れる奴だって言ってたんだ! 俺の心臓の刻印だって、戦いの手段にはしないって!」

 目の前のユピテルモンの鎧を、何度も何度も殴りつける。手が赤くなっても、皮がめくれても、こぶしを打ちつける。

「なのに、どうしてノゾムを狙った! 一番弱いノゾムを!」

 俺の絶叫に対して、ユピテルモンの淡々とした声が降ってくる。

「心臓の刻印は、確かに戦いの手段ではない。だから私は刻印を使わなかった。正々堂々とした手段で勝ったのだ」

「どこがだ! お前は、俺達に勝てないって思ったから、ずるいやり方を使ってでも勝とうとしただけだ!」

「ずるいかどうかは勝った者の決めることだ。私が勝ち、お前達が負けた。お前達に私の判断を覆す資格はない」

 俺がどれだけ言葉をぶつけても、殴りつけても、ユピテルモンは動じない。俺は両手を強く握りしめる。

 左手に、しんと冷たい感覚がした。

 手の中には、ノゾムのスピリットがある。

 黒い鎧と金色の牙を持つ、ヒューマン型のスピリット。

 俺に、ユピテルモンを倒す力をくれるスピリット。

 制御さえできればいいんだ。俺が制御できれば。それだけで、目の前の敵を倒せる。

 俺の手の中で、スピリットが冷たさを増していく。真冬の金属のように、肌の熱を奪い、俺の手に吸い付いてくる。

「いけません!」

 テイルモンの声で、俺の意識がそれた。

 デジコードの浮かんだ体を必死に起こして、俺に言葉を投げかけている。

「今のあなたは、そのスピリットを使ってはいけません! 冷静さを失ったあなたには制御できない。あなたを信じたノゾムくんのためにも、今は逃げてください!」

 ボコモンも大声で呼びかけてくる。

「そうじゃマキ! かっとなって戦って、勝てる相手ではないぞ!」

「つっ」

 俺の目がノゾムに向く。

 前にノゾムに言われた言葉が頭に浮かぶ。
『すぐにかっとなるのが信也の悪いところ。仲間が傷ついた時ほど落ち着いて』

 分かってるよ、ノゾム。頭じゃ分かってるんだ。お前がもういないってことも、今の俺じゃスピリットを制御できないってことも。

 でも、心じゃ全然納得できないんだ。まだお前を助けられるような気がするんだ。ユピテルモンをぶっ飛ばしてやりたいんだ。

 ノゾム、俺はどうしたら。

「直接スピリットを埋め込んでやれば決断できるか」

「なっ!?」

 予想外の言葉の直後、左腕をつかまれた。ユピテルモンの大きな手が、俺の肩から肘までがっちりつかんでいる。もがいてもびくともしない。

 見上げると、赤いY字の目が俺の顔を見つめていた。

「審議に負けた今、お前は神罰を受けて心臓を失うことが決まった。その代わりにこのスピリットを埋め込まれれば、お前はプルートモンの力から逃げられなくなる」

 自分の思考が凍りつく。心臓が激しく鳴っているのを感じる。呼吸が早くなる。

「やめろ! 俺達の仲間に――俺の弟に手を出すな!」

 スサノオモンが必死に叫び、立とうとする。が、足に力が入らず地面に倒れ伏す。

「ノゾムはんを亡くした信也はんをこれ以上苦しめるなんて、神でもなんでもないハラ!」

「もうやめて~」

 ボコモンとネーモンも、ユピテルモンに言葉をぶつける。

 が、ユピテルモンが振った左手に吹き飛ばされ、木の幹に叩きつけられる。

 誰も、この天空神を止められない。止めてくれない。

 体が震えて、無意識に言葉がこぼれる。

「死にたくない」

 俺をつかむユピテルモンの親指が、ゆっくりと俺の肩をなでる。

「安心しろ。お前はすぐに息を吹き返す。全ての者に死をもたらす最期の神として」

 ユピテルモンの言い方は、ぞっとするほど優しい。

 ユピテルモンがもう片方の手を伸ばし、人差し指で俺のみぞおちに触れた。

 嫌だ。

 嫌だ。

  兄貴。

   ノゾム。

      助けて。

「《パニッシュジャッジ》」

 胸の奥が一瞬で熱くなる。

 息が詰まる。

 そして、何も分からなくなった。

 

 


☆★☆★☆★

 

 

 

3年以上前から、スーリヤモンが初めて出てきた頃から、ノゾム(と信也)の最期はここと決めていました。

自分がキャラに感情移入してしまうタイプなので、生存ルートが可能かずいぶん検討したのですが……結論は変わりませんでした。理由は、この後の展開にも関わってきますのでここでは語りません。

 

ということで、第193話はここまでですが、「デジモンフロンティア02~神話へのキセキ~」はもう5話ほど続きます。

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