第185話 雷撃VS雷撃 神剣アパラージタの向く先は……! | 星流の二番目のたな

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 俺が振り下ろした剣を、ユピテルモンの左のハンマーが打ち払った。
 間髪入れず、右のハンマーが俺の腹に打ち込まれる。
 猛烈な吐き気と共に、背後に吹き飛ばされた。翼を広げて踏みとどまる。
「お前を……絶対倒すっ」
 友樹と輝二は俺よりもずっと深い傷を受けたんだ。
 この程度でひるむもんか。
 神剣を両手で握り、再びユピテルモン目がけて飛ぶ。
 
 突然、右肩が軽くなった。 
 
 はっと止まって、すぐさま眼下の虚空を見る。俺の目に、真っ暗な空間に落ちていくノゾムが映った。
 俺が激しく動いたせいか? いや、直前までちゃんと座っていたはずだ。
 混乱しながらも、その姿を追って一気に降下する。翼をすぼめ、精一杯手を伸ばす。
 近づくにつれて、ノゾムの表情が分かるようになった。戦場の真っただ中で俺と離れたのに、不思議と焦りはなく、少し怒ったような顔。
 その背後に雷が閃いた。
「っ!」
 ノゾムをひっつかんで、すぐさま右に軌道を変える。
 俺がきりもみ落下する横を、雷が飛び過ぎた。
 体勢を整えて、そっと手を開く。ノゾムは手のひらに座っていて、落ち着いた顔で俺を見上げた。
 その態度に俺は直感した。
「まさかお前、わざと飛び降りたのか」
 ノゾムがこくりと頷く。
「信也を一度落ち着かせるにはこれしかなかった。僕が危険になったら、必ず助けにきてくれると思った」
 痛いところを突かれて、俺は言葉に詰まる。黙ってノゾムを右肩に戻して、戦場に戻る。
 その耳元で、ノゾムが俺に言い聞かせた。
「すぐにかっとなるのが信也の悪いところ。仲間が傷ついた時ほど落ち着いて。作戦が崩れたら、この戦い勝てなくなる」
「ああ。今ので頭が冷えた」
 ついでに言うなら肝も冷えた。仲間を失いたくなかったら、冷静さを失うなってことだ。
 
 ライノカブテリモンが積極的にユピテルモンの周りを飛び回り、角からレーザーを浴びせている。《コンデンサストーム》だと敵にエネルギー吸収されてしまう。それなら、吸収されない程度の微弱な電気でバリアを乱そうってことか。
 兄貴はレーザーに巻き込まれないよう適度に距離をとって、ユピテルモンにレーザーが当たるとすぐに《ブラフマストラ》の連射を浴びせる。バリアの隙を突いた熱線が、少しずつ敵の鎧を削っている。ユピテルモンはライノカブテリモンと兄貴に気を取られて、俺に背を向けている。
 攻めるなら今だ。
 気づかれないように空中のがれきを飛び移り、神剣アパラージタに炎を溜める。
 最後のがれきの裏に隠れ、タイミングをうかがう。
「《サンダーレーザー》!」
 ライノカブテリモンの渾身の一発がユピテルモンに当たった。体を覆うバリアが消える。
 俺はがれきを踏み台に跳んだ。奴の右肩目がけて、神剣を振り下ろす。
「《トリ…シューラ》!」
 熱い切っ先が、鎧を溶かし食い込んだ。全力を込めて、右肩から左脇まで切り裂いた。
 ユピテルモンがよろめいた。振り返り、赤いY字の目が俺を捉える。
 が、奴が動くより速く、突風と赤い光線が追い打ちをかけた。
「ジェットシルフィーモン!」
「ライヒモン!」
 ライノカブテリモンと兄貴が攻撃が上空を見上げる。上空の二人が俺達を見て、頷くのが見えた。雷雲を引きつけるのに慣れてきたのか、俺達を援護する余裕が生まれている。
 俺は剣を握り直し、ユピテルモンに向き直る。こっちの態勢は立て直した。
 一方のユピテルモンは、首を回して俺達全員の様子を眺めた。背中の傷は痛むはずだが、俺達を観察する目は淡々としている。
 観察を終えると、低い声で宣言した。
「第一審議……十闘士勝利により、無罪とする。続いて第二審議に入る」
「はぁっ?」
 俺の戸惑った声には構わず、ユピテルモンが両手のハンマーを打ち合わせた。裁判官が机を打つ時のような、よく響く音がした。
 その響きに反応して、ライヒモンとジェットシルフィーモンを追っていた雷雲が突如動きを止めた。五つ全てが横に伸びていき、分裂した。
「嘘だろ……っ!」
 唖然とする間もなく、ユピテルモンが殴りかかってきた。必死に剣で受け流そうとする。けど、さっきより動きが断然早い。
「まさか、今まで手を抜いてた!?」
 ノゾムの声にユピテルモンが答える。
「私の戦いはすなわち審議。戦いぶりをもって罪の有無を判断する。被告が何の戦いぶりも見せずに倒れてしまっては審議ができぬ。故に、私は被告の戦闘力に見合った力で戦う」
「俺達は第一段階クリアってことか。そりゃ光栄だな!」
 俺は皮肉を言いながら剣を振り上げる。
 その手を、ユピテルモンのハンマーが殴った。
「ぐっ」
 俺の手から神剣が落ちる。
 ユピテルモンがそれをつかみ、剣の柄で俺のこめかみを打った。
 頭が揺れて、意識が一瞬飛んだ。
 
 気づいた時には、仰向けに倒れていた。
「大丈夫か、スーリヤモン!」
 ライノカブテリモンの声が下から聞こえた。どうやら、ライノカブテリモンの背中で受け止めてくれたらしい。
「きゃああっ!」
 悲鳴に顔を上げると、ジェットシルフィーモンが落ちていくのが見えた。デジコードに包まれ、泉の姿に戻る。上空は雲から放たれる雷で埋め尽くされている。これだけの攻撃に対処するなんて、ムリだ。
 泉が離脱したことで、雷雲の一部が兄貴を狙い始めた。ライヒモンは自分の身を守るのに精いっぱいで、兄貴のフォローに回れなくなっている。
 そして、止める者のいなくなったユピテルモンが、白いマントをなびかせて俺に迫っていた。その右手には、神剣アパラージタを握っている。
「俺の剣……返せ!」
 返答の代わりに、ユピテルモンがハンマーを投げた。連続して2本。1本は俺の胸に、もう1本はライノカブテリモンの背中に当たった。電流が俺の全身を駆け巡り、焼き焦がす。
「うあああっ!」
 俺と、ノゾムと、ライノカブテリモンの悲鳴が重なった。
 電流が収まり、俺はどうにか息を吐いた。
 直後に、ユピテルモンが俺の左ももに神剣を突き刺した。
「ぐっ……つっ!」
 ももの筋肉が微かに動くだけでも痛みでめまいがする。敵が目の前にいるのに、電流のダメージとももの痛みで動けない。
「スーリヤモン! しっかり、しろ!」
 ライノカブテリモンの苦しげな声が聞こえる。雷の闘士だけに、まだダメージが少ないか。
 でも、俺とユピテルモンが背中の上にいるせいで、ライノカブテリモンは下手に動けない。
 神剣の柄を握ったまま、ユピテルモンがライノカブテリモンの顔の方に目を向ける。
「ライノカブテリモン、電気の扱いなら負けないと言ったな。お前が雷の闘士なら、私は天空を統べる神。雷も天候も、全て私の手中にある」
 ユピテルモンが俺の足に刺した神剣をねじった。脳天まで突き抜ける痛みに、俺は絶叫する。
「ぐあああっ!」
 頭の奥で、ドクンと何かが脈打った。
 スーリヤモンの体が、デジコードを求めている。
 ダメだ。今データを吸収する力が働いたら、俺の下にいるライノカブテリモンを吸収してしまう。
「やめて……これ以上、信也を」
 ノゾムの言葉はユピテルモンに殴られて途切れた。俺の胸の上に、気絶したノゾムが倒れる。
 どうせ吸収してしまうのなら、ユピテルモンのデータを。
 そう思って伸ばした右手から、ユピテルモンは足を遠ざけた。
「スーリヤモン、私の判断に抗い続けた罰だ。お前の手で、雷の闘士に刑を与えろ」
 
 
 
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「デジモンフロンティア」の二次創作である以上、ラスボスに一発で勝てるほど甘くするつもりはありません。
ただ自分で書いてて、少し過酷すぎるかな、と思わなくはないです(汗)今回もまあ過酷なんですが、しんどさのMAXはここじゃないので……。