第183話 敵のふところに飛び込め 天空の神ユピテルモン降臨! | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

 次の日の朝、森のターミナルにトレイルモンのワームが待っていた。トレイルモンの中でも、異世界に行った経験が一番多いやつだ。後ろには茶色の客車が一両つながれている。
 トレイルモンの前にはユニモンが立っていた。手綱で自分とワームを結んで、誘導できるようにしている。背筋はぴんと伸びている。朝飯を5人前食べただけあって、気合も体力も十分だ。
「ご武運を」
 静かなエンジェモンの言葉にうなずいて、俺達8人は客車に乗り込む。
 元・三大天使はこの戦いには参加しない。ユピテルモンがこの世界を襲った場合に備えて、防御を固めておくんだ。
「――で、何でボコモンとネーモンがしれっと客車に乗ってるんだよ」
 座席に堂々と座っている二人に、俺は呆れた声を漏らした。
 ボコモンが自信満々に手を上げた。
「わしらは記録係兼避難指示役じゃ!」
 友樹が首を傾げる。
「記録係は前からやってたから分かるけど……避難指示役って何するの?」
「拓也はん達が戦ってる間、ワームとユニモンが巻き込まれないように安全な場所を指示していく仕事じゃハラ」
 ネーモンはその横で浮いた足をぷらぷらさせている。
「おれは危ないからヤダって思ったんだけど。帰りの列車がなくなったら拓也達帰ってこれなくなるし。会えなくなるのはもっとヤダな~って思って」
 能天気に見える二人だけど、二人なりにできることを考えた結果らしい。
 輝二があごに手をやって考える。
「逃げ足の速いユニモンはともかく、トレイルモンは線路のない場所では動きが鈍い。早めに戦況を見極めるのに、目は多くあった方がいいな」
「じゃあ、トレイルモン達のことはボコモンとネーモンに任せるよ」
 純平が笑うと、ボコモンとネーモンは反らした胸をぽんと叩いた。
「任せんしゃい!」
 兄貴が窓から顔を出した。
「よし、行こう! ユニモン、ワーム、出してくれ!」
 兄貴の声に、ユニモンがいななき、ワームが力強い汽笛で答える。
  ひづめが線路を蹴る音に続いて、足元が軽く揺れて列車が動きだす。車輪が線路を踏む規則的な音。速度を増すにつれて、音も速くなっていく。
 突然その音が消えた。同時に、窓の外が真っ白な光に包まれる。線路のない、時空の狭間に入ったんだ。
 次に景色が見えるようになった時、俺達は敵の本拠地にいる。

 ノゾムはイスに膝立ちになって、窓の外、ワームの進む先を見つめていた。俺が来たのに気づくと、イスに座り直した。俺はノゾムの左に座る。
 ノゾムに聞きたいことがあった。
「昨日、ネプトゥーンモンと何を話したんだ?」
 ノゾムは微笑んで答えた。
「僕のこと心配してくれてたんだ。生まれが特殊だから、具合の悪いところはないかって」
 そうか。十二神族のネプトゥーンモンだからこそ気づけることがあるかもしれない。
「で、体は大丈夫なのか?」
「平気。何かあったらちゃんと言う」
 ノゾムの答えを聞いて俺は肩の力を抜いた。
 その後もう一回ノゾムの顔を見る。
「本当に本当だな?」
「うん」
 向かい側に座っていた泉が苦笑した。
「戦いの前で緊張してるのは分かるけど、心配しすぎじゃない?」
 俺は顔をしかめて頬をかく。
「いや、ノゾムは俺と長く一緒にいるから、性格が俺に似てるところあるんだよ。だから、ノゾムが辛いこと黙ってるんじゃないかって、気になって」
 俺の言葉に、輝一が優しく微笑んだ。
「自分の性格と向き合えるようになったんだな。しかも、戦う前なのに自分より他人のことを心配できる余裕もできてる」
「っ、真正面からそういうことを……」
「あれ、信也照れてるの?」
「友樹までからかうんじゃねえっ!」
 横でくすくす笑う声がしたから目を向けたら、ノゾムが肩を震わせて笑っていた。恥ずかしくて頬がほてる。ノゾムの肩に腕を回して、軽く締めてやった。周りが微笑ましそうに見てくるから、気持ち悪くって顔を窓の外に向けた。
 
 そして窓の外に、白い石の壁が現れた。
 ぎょっとしてノゾムから手が離れる。
「来たぞ。十二神族の城の真横だ」
 兄貴の手には、既にデジヴァイスが握られている。
 ワームは静かに停車した。客車のドアを開けると、目の前に開いたままの木の戸があった。順番に城へと飛び移る。周りの気配を探るけど、雷は落ちてこない。
「ここからどう行く」
 輝二がユニモンに聞いた。ユニモンが城を見上げる。
「ユピテルモンがいる可能性が高いのは彼の瞑想の間です。ここからですと廊下を進んでつきあたりを右、左手に階段が出てきたら最上階まで上がり、右に曲がって三番目の宝石と彫刻で彩られた扉の向こうです」
 ユニモンは道順をもう一度繰り返して、俺達に覚えさせた。
「分かった、ありがとな。ユニモンとワームはユピテルモンに見つからないところに隠れててくれ」
 純平が言うと、ユニモン達は城の底の方へ走っていった。
「みなはん、気をつけてな」
「気をつけて~」
 ボコモンとネーモンの応援を微かに聞きながら、城の廊下に視線を向ける。誰もいない城は、光の城と同じように不気味だ。
 兄貴が左手にデジコードを浮かべる。
「ここから先はいつ攻撃が来てもおかしくない。気合い入れていくぞ」
「言われなくたって、ユピテルモンの手強さはよく知ってるよ」
 言い返しながら、俺も左手にデジコードを呼び出す。取り出したデジヴァイスが右手の中で熱くなった。
 
「ホロウスピリット・エボリューション!」
「スーリヤモン!」
 
「ダブルスピリット・エボリューション!」
「アルダモン!」
「ベオウルフモン!」
「フロストモン!」
「ジェットシルフィーモン!」
「ライノカブテリモン!」
「ライヒモン!」
 
 ユニモンに教えられた道を慎重に進む。ノゾムも俺の肩の上で目をこらし、耳をそばだてている。後衛のジェットシルフィーモンとライヒモンは最後尾につき、雷撃を警戒している。
 廊下や階段には食料や宝石、武器などが散乱していた。ディアナモンに先導されて逃げたデジモン達のものか。混乱の中で落としたんだろう。誰も片づけることなく、薄くほこりが被っている。
  最上階に進んでも、ユピテルモンの気配や攻撃はなかった。良い状況のはずなのに、俺はむしろ不安を覚えた。
 本当にユピテルモンはこの城にいるんだろうか。

 そんな不安は必要なかった。
 ユニモンの言ってた瞑想の間の扉の前に立った途端、肌が泡立つような寒気がした。分身と何度も戦ってきた俺だから分かる、よく知ってる気配。
 俺の動揺が伝わったのか、ノゾムが俺の首に触れてきた。大丈夫だ、とその足を軽く叩く。
 兄貴が扉に手を触れようとする。扉はひとりでに内側へと開いた。
 中は思ったよりも狭く、俺達がどうにか全員横に並べるくらい。
 
 奥の壁の前に、デジモンが一体、座禅を組んでいた。
 金色の鎧に全身を包んだ、細身の人型デジモンだ。顔の部分だけY字の切れ目が入っている。その奥は暗くて見えない。頭には2枚の白い羽があり、同じ白い羽のマントが肩から床まで覆っている。
 俺達が駆け込んでも、身動きしない。
「ユピテルモンだな」
 俺が聞くと、かすかに息を吐く音が聞こえた。
「答えるまでもない。神原信也、そして十闘士の子ども達。じきに来るだろうと思っていた」
 夏の遠雷のような、腹の底に轟いてくる声だ。
 兄貴が一歩前に出る。
「十闘士の世界を破壊させたりしない。そのためにお前を倒しに来た」
「私の庇護なしではデジモンは生きていけない。この世界の民も、十闘士の世界の民も」
 その考えは聞き飽きた。俺は剣の切っ先をユピテルモンに向ける。
「言ってろ。今からその考えひっくり返してやる」
 ようやくユピテルモンが背を伸ばした。
「良かろう。お前達には私と戦う権利がある。私の判断が正しいか、十闘士が力で覆すのか。この戦いで占おう」
 ユピテルモンがゆらりと立ち上がる。顔のY字の切れ目に赤い光が灯った。


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 初の7人全員同時進化です。
「デジモンフロンティア02~神話へのキセキ~」も、いよいよラスボスとの戦いが幕を開けます。 
 
 
さて、私事なのですが、ちょっとパソコンの調子が悪いのでこれから1週間ほど修理に出してきます(汗)
スマホしか更新手段がなくなるので、アプモン感想など書くのが遅くなるかもしれませんがご容赦ください。