第163話 かつての面影を探して! ぬくもりのあるテラス | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

 入ってすぐの空間は、半円形のロビーになっていた。ここだけで俺の家がすっぽり入りそうなほど広い。左右に一本ずつ廊下が伸び、正面には広い階段がある。階段は壁にぶつかったところで左右に分かれて、半円に沿って二階に伸びている。

 ロビーの中心には直径二メートルあるシャンデリアが落下していた。翼を全面にデザインしたガラスと金の金具の、ぜいたくな作品だ。天井を見上げると、シャンデリアがかかっていただろう場所がどろどろに溶けて、穴が開いていた。

 戦いだとしてもこんな豪華なシャンデリアを落とすなんて。

「もったいないことするなあ」

「ツッコむところ、そこ?」

「城に住んでたノゾムと違って、俺は一般庶民なの」

 金のかかってそうな物は他にもあった。シャンデリアを囲むように四つの四角い台座があって、その上に大理石の石像の跡があった。

 残念だけど、こっちも破壊されている。むしろ、石像の方がひどい壊され方だ。燃やされたり踏まれたり切られたり、しつこいくらいに痛めつけられて、石というより粉になっている。これじゃ何の像だったのかも分からない。

「ノゾムは思い出せるか? この像が何だったのか」

 試しに聞いてみる。ノゾムは顔をしかめて考え込む。でも、すぐに首を横に振った。

「そっか。じゃあ、行ってみたい方向はあるか?」

 ノゾムはロビーを見回した後、右の廊下を指さす。

「こっちの棟にテラスがあった気がする。よくそこにいたんだ」

「よしきた」


 右の廊下へ足を踏み入れる。

 南側、つまり城の正門側がガラス張りになっていた。今は一枚残らず割れているけど、残った部分からステンドグラスだと分かった。ステンドグラス一枚ごとに間に柱が立っていて、デジモンをモチーフにした彫り物がぼんやりと残っている。

 天井には、野原でパーティーをやっている油絵。人型デジモンと獣型デジモンが一緒にテーブルを囲んでいる。北側は白塗りの壁にレンガ造りのアーチが並んでいる。ステンドグラスがあった頃は、ここにカラフルな光が映っていたんだろう。


「お前、すごいところに住んでたんだな」

 ため息交じりに言うと、ノゾムは恥ずかしそうに、そうだね、と答えた。

「でも僕がここに住めるようになったのは、ディノビーモンが連れてきてくれたからだよ。その前どこにいたのかは、まだ思い出せないけど」

 話している間に、廊下の曲がり角まできた。南側がここまでステンドグラス、柱、ステンドグラスと並んでいたのに、最後だけ木の扉になっている。

「ここか?」

「うん」

 俺の質問に短く答えて、ノゾムがドアノブに手をかける。ひどくきしんだ音を立てて、扉が開いた。




 テラスに置いたテーブルに、紙やインクが置かれている。僕は息を吐いてペンを置いた。

「書けたよ!」

 一文字一文字丁寧に書いた紙を、横に立つケンタルモンに渡す。ケンタルモンは目を通して、満足そうに頷いた。

「よくできました。半月でここまで覚えるとは、予想以上の記憶力です」

「ケンタルモンの教え方が上手いからだよ。教育係になってくれたのが違うデジモンだったら、きっともっと難しかった」

 褒めてもらえたのが嬉しくて、僕は座ったまま体をすぼめた。

「ケンタルモン、ボクもかけた!」

 僕の横でバドモンが跳ねた。インクをつけるのは葉っぱの先だけのはずなのに、丸い体やトゲにもインクが飛んでいる。

「分かった分かった」

 ケンタルモンが苦笑してバドモンの字も見る。待っている間に、僕はココナッツジュースを口にする。

「ねえねえ、進化したの何回目?」

 ジュースをテーブルに置いたところで、バドモンが話しかけてきた。

「僕は生まれてから進化したことはないよ」

「ええ!? だって、ボクより前に生まれたんでしょ? なんで? ボクこないだユラモンからバドモンに進化したよ? なんで進化しないの?」

「うーん、なんでだろう」

 バドモンの質問攻めに、僕は困って首を傾げる。

 ケンタルモンが姿勢を低くして、僕やバドモンに視線を合わせる。

「それはね、彼が特別だからですよ」

「とくべつー?」

「そうです。デジモンは生まれた後、何度も進化して見た目が変わるでしょう。でも、彼は生まれた時からこの見た目で、ずっと進化してないんです」

「へんなのー」

 バドモンが僕を見て目をぱちくりする。

「ケンタルモン、僕はこれからも進化しないのかな?」

 僕が聞くと、ケンタルモンは腕を組んで考え込む。

「どうでしょう。進化をしない生き物など、この世界にいたことがありません。今後進化するのか、ずっとこのままなのか。様子をみるしかないでしょう」

「そう」

 僕は机の上に目を落とした。僕はバドモンの言う通り変なのかな。

「あ、でもね、進化しなくても、友達やめないからだいじょーぶだよ!」

 バドモンが真顔で一生懸命言ってきた。僕は笑ってバドモンを抱え上げる。

「ありがとう、バドモン」

「さて、勉強を再開しましょう。あまり怠けると、ディノビーモン様に叱られてしまいますよ」

「はあい」

 ケンタルモンに言われて、僕はペンを手に取った。




 ユウレイ現象が終わって、今のテラスが見えるようになった。白いタイルの上に、テーブルやイスは残っていない。

「今のデジモン達は?」

 俺が聞くと、ノゾムは懐かしそうにテラスを見ながら答えてくれた。

「ケンタルモンは僕に勉強を教えてくれてたデジモン。バドモンはケンタルモンと一緒にこの城に来たんだ。年が近くて、気楽に話せるデジモンがいるといいだろうって」

「じゃあ、ケンタルモンが文字を教えてくれた先生ってわけだな」

 ノゾムが明るい表情でうなずく。ノゾムの謎が、一つ解けた。

 これ以上のユウレイはここには出ないらしい。

 廊下に戻ってみる。ここから廊下は九十度曲がって右側に伸びている。

 でも、曲がってすぐにがれきの山で塞がっていた。緑色の屋根の欠片が混じっている。塔のへし折れた半分が、建物の中に突っ込んだんだ。

 いつもなら両手でよじ登って越えられそうな高さだけど、今はノゾムと手をつないでいる。手を離すわけにはいかない。

「この先、頑張って行ってみるか?」

 ノゾムに聞くと、いい、って返ってきた。

「左の棟とか、真ん中の棟の上の階とか、調べてない場所はまだある。ムリすることないよ」

「だな。うっかり崩れてきたらたまらないし」

 俺達は入口まで引き返して、左の棟に向かった。




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お城の描写するの楽しいです(笑)

リアルワールド風かつ昔風に言うなら、ケンタルモンが乳母(家庭教師)でバドモンが乳兄弟(乳母の子ども)という立場です。ノゾムは特殊なので待遇も良いのです。


信也「うらやましい」

星流「私もうらやましい」