第148話 永遠なる廃墟! ひも解いていく過去 | 星流の二番目のたな

星流の二番目のたな

デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

 城の造りは複雑で、簡単に迷子になりそうだった。

 ドアを開けると壁だったり。

 俺達でもかがまなきゃならないほど狭い通路があったり。

 外から見ても変な建物だったけど、中はそれ以上だ。作りたいものを適当な場所に建てた結果がこちら、って感じ。

 三十分近くうろついて、やっと探していた場所にたどりついた。

 ドアを開けた瞬間、古い紙の匂いが押し寄せてきた。ちょっとほこりっぽいような、かび臭いような、そんな匂いだ。ノゾムがくしゃみした。

 中は資料室って感じだった。棚が並び、茶色くなった巻紙が積み上げられている。適当に手に取って広げると、何かのリストだった。表にデジモンの文字がちまちまと記されている。

 ノゾムに見せると、その目がリストの文字を追った。

「村や町の名前と、デジモンの名前、木や石の量……。建物を作る材料とそれを持ってきたデジモンのリストだ。こっちは、建てるために集まったデジモンのリストみたい。オーガモンとかドリモゲモンとか、腕力や技術のあるデジモンばかりだよ」

 ざっと見てそれだけ分かるんだからすごい。文字だけじゃなく、デジモンの特徴までよく分かっている。

「デジモンが建物作ってるの、見たことあるのか?」

「のかな……」

 俺が聞くと、それには首を傾げた。

 とにかく、今欲しいのは大工デジモンのリストじゃなくてこの辺りの地図だ。巻紙を元に戻して、ノゾムと二手に分かれた。適当な棚に行っては巻紙を広げてみる。

 十七枚目に開いたのが地図だった。この城を中心に周りの地形や道が描かれている。

 俺は右下を見てはっとした。赤いバラの形をした雲――確かバラの明星だ。それがあったのはケルビモンの城。

 俺は自分のデジヴァイスから地図を呼び出した。ケルビモンの城は土のエリアのここにあったんだから、その左上っていうと――。


闇のエリア

「闇のエリアのど真ん中か……」

 初めて来たエリアだ。知っていることは正直言って少ない。平和でもまともに日の差さない場所で、ここを恐れ近づかないデジモンも多いって。

 「行く時になったら友樹達に聞けばいいや」って思ってたからな。もうちょっと聞いときゃよかった。


「信也!」

 ノゾムが分厚い巻紙を抱えて戻ってきた。開いたのをそのまま抱えていて、今にも落っことしそうになっている。

 ゆっくり広げられる場所を探して、一旦部屋を出た。薄暗い廊下の冷たい床に、それぞれが持ってきた紙を広げる。

「信也も何か見つけたの?」

 先に聞かれて、俺は現在地が分かったと教えた。地図を見せてやるとノゾムはうなずいた。

「地形も合ってるね」

「そっちは?」

 ノゾムが抱えてきたのは長々と文章の書かれている巻紙だった。最初にタイトルらしい大きな文字が書いてある。ノゾムがそれを指さした。

「このお城が建てられたいきさつについて書いてある」

「本当か!」

 読めもしないのに俺は身を乗り出した。

 ノゾムが文字を指でなぞる。

「長いから飛ばしながら読むよ」


『無益な争いの後の新しい秩序において、主となる方の城の建造は象徴たりうるものであった。

 ――その完成の後、神は“人にして獣たる”ディノビーモンに近隣の地をお与えになった。自らに最初に味方し城の建造にも尽力した者に、自らの城に次ぐものを作れとおおせになったのである。ディノビーモンは近隣の村々から資材と人材をつのり――。

 ――自分が移り住んだ後も建築の続くその城を「永遠の城」と名づけた』


 永遠ねえ。

 俺は今の城を見回した。昔は華やかな場所だったんだろうけど、今は廃墟一歩手前だ。デジモンがいなくなっても建物は残っている。そういう意味じゃ「永遠の城」って名前も合ってるかもな。

「歴史はボコモンにざっと聞いただけだから詳しいことは分からないけど。多分ここはルーチェモンの時代に建てられた建物だな。文章の内容もそれっぽいし。ルーチェモンの部下だったディノビーモンってデジモンが住んでたわけだ」

 建物の古さを考えてもそれぐらい昔ではありそうだ。なにしろ200年以上前の話だからな。

 さて、現在地もこの城のことも分かったわけだし。

「もうこれはいいな」

 俺は地図を元通りに丸めた。ノゾムはまだ文章に目を落としている。

「まだ何か書いてあるのか?」

 聞くと、ノゾムがぱっと顔を上げて首を横に振った。

「ううん。それ以外には、特に」

「じゃあ行こうぜ。俺そろそろ腹が減ってきた」

 おっさんが、ここには食料庫があるって言ってた。二百年前の食料……ってことはさすがにないだろうけど、教えてくれたからには食べられるものがあるはずだ。

 ノゾムが巻紙を丸め直した。重いそれを抱えて、少し考え込む。

「これ、持っていってもいいかな」

「え? さすがに重すぎるだろ。旅するにはお荷物だ」

 そこまで言ってから、ノゾムの顔がけわしいのに気づいた。

「何か、気になるのか」

「うん。自分でもよく分からないけど、今の話、知っているような気がする」

「それって、記憶を失う前にデジモンに教えてもらったとか?」

 ノゾムがデジモンに文字を教わったのはほぼ間違いない。歴史だって俺なんかよりよく聞いているはずだ。

 ノゾムはけわしい顔のまま巻紙を抱きしめた。

「まだ、そんな気がするってだけ。……やっぱり、この巻紙は置いていく。後は自分が思い出せるかだし」

 そう言って、ノゾムは巻紙を戻しに行った。

 待っている間に、俺は左腕に目を落とした。手首に携帯より小さな端末が巻いてある。ノゾムの銃と一緒に、異世界でもらったものだ。俺とノゾムについて調べてもらった記録が入っている。

 それによると、ノゾムの記憶には厳重なプロテクトがかかってるって。かけたのがユピテルモンなのかノゾム自身なのか分からないけど、重要な情報が眠っているのは間違いない。

 文字の話や今の歴史の話。少しずつ、確実に核心に近づいている。でもその核心の形はいまだに見えなかった。




 帰り道もさんざん迷って、ようやく食料庫にたどりついた。

 最後に頼りになったのは目じゃない。鼻だ。階段を下りる途中で下からアルコールの臭いが漂ってきたんだ。

 開けっ放しになった地下の木戸をくぐると、案の定おっさんが飲んだくれていた。

「臭い」

 ノゾムが素直に言って鼻をつまむ。おっさんの眉が吊り上がった。

「ここの酒はお前らのもんじゃねえ。どうしようが俺の勝手だ」

「へいへい」

 俺は適当に流して食料庫を見回した。

 学校のグラウンドくらいの広さがあった。半分はワインセラーで、たるがいくつも並んでいる。おっさんがぐいぐいやってるのはこれだ。

 もう半分は野菜を保管する棚や干し肉を作るロープが渡してあった。干し肉通り越して石みたいな色になってるのは、実際二百年前からぶら下がってるのかも。食べる度胸は俺にはない。

 棚の一部に、まだ新しい肉リンゴやスープキャベツが並んでいた。おっさんが収穫してきたのをここに置いてるらしい。

 ぐちゃぐちゃと行儀の悪い音に振り返ると、おっさんが肉リンゴにかぶりついていた。俺は呆れてため息をついた。

「おっさん、それ生だろ。よく食えるな」

「うい。ずっと一人でいると、食い物の味なんかどうでもよくなってくんだよ。酒のつまみにはなる」

 そう言ってまた硬そうなのを噛み砕く。

「食べ物に対するボートクっていうんだぜ、そういうの」

「あ゛?」

 俺の文句に、おっさんは気に入らなそうにそっぽを向いた。

 仕方ねえな。保管棚に顔を戻して、材料を確認する。

「この城の台所は?」

「階段上がった1階だ。でもほこりまみれで使えねえ。川なら中庭に流れてる」

「じゃあ外でたき火するしかないな。ノゾム、これ持って」

 一つ、カゴ代わりにされている鍋を見つけた。取っ手が取れているけど使えそうだ。そこに材料も入れてノゾムに渡す。自分もスープキャベツを二つ抱えた。

「1時間くらいしたらおっさんも中庭に来いよ」

「お前の作ったの食わせる気か? 小僧の作る飯なんぞまずくて食えるか」

 口の減らないおっさんだ。俺はにやりと笑って言い返してやる。

「久しぶりのうまさに泣くようなやつ作っといてやるよ」




☆★☆★☆★




というわけで、場所が判明しました。闇のエリア編でございます。とうとうラストエリアです。


この城のかつての主については

・人型っぽくかつ獣型っぽくもある外見

・かつ完全体である

・城に住めるサイズである

・ちょっと悪そうだとなお良し

という基準の元、選びました。意外と該当者いなくて大変でした(汗)この文章くらいしか出番ないデジモンなのに……労力と釣りあわない。でもやる。


今更気づきましたが、おっさんの公式設定がどう見ても「た○ごっち」。これアウトじゃないのか(笑)幼心に「最終形態出したいけど最後がこれってやる気がイマイチ……」と感じていたのを思い出しました。



ワールドマップ 更新しました。