二日目。太陽がてっぺんに昇る頃、地平線の向こうが茶から緑に色を変えた。
「森……森のターミナルか!」
「うん、きっとあの中だ!」
パートナーの言葉に、ライドラモンも走りながら答える。自分達がたどっているレールはその森の中に続いている。拓也達は、もうターミナルに着いたのだろうか。
ライドラモンの背に揺られながら、近づいてくる森をながめる。胸元のタグが上下に忙しく跳ねる。
それがほんのりと光った。
「! ライドラモン止まれ!」
叫び声に、ライドラモンが急ブレーキをかけた。前に放り出されそうになって、大輔はライドラモンの首にしがみついた。
止まったのを確認してから体を起こす。タグを右手に乗せて見直した。ホタルのようにほのかだけど、確かに光っている。これが光子郎の言っていた反応か?
「どうした!?」
異変を察知して、ネフェルティモン達も空から降りてきた。
お互いデジモンの背から降りたところで、大輔はタグを見せた。ヒカリが自信を持って頷く。
「奇跡の紋章はこの近くにあるのよ。もっと近づけば、光も強くなるはず」
「ここまで来て反応したってことは」
大輔は森に目をやった。一本一本の木が見分けられるくらいに迫っている。森の中に紋章があるのは間違いない。
「あと一息だ! 早く見つけようぜ」
ライドラモンにせかされて、大輔がその背に手をかける。
同時に地面が揺れた。
「きゃっ」
「地震か?」
ヒカリが反射的にしゃがんで、他の三人も姿勢を低くする。震度3くらいか。
それほど経たないうちに揺れはやんだ。全員恐る恐る姿勢を戻す。
「ただの地震……?」
「ううん、見て!」
つぶやく大輔に、ヒカリが森の奥を指さす。
土煙だ。距離はあるが、木々の上まで立ち上っているのが見える。ネフェルティモンが飛び立ち、すぐに戻ってきた。
「誰かが奥で戦っているようだ」
「まさか、拓也達か!?」
「恐らくは」
大輔が聞くと、ネフェルティモンは同意した。
大輔は手元を見た。タグは相変わらず光を発している。元の世界のことを考えれば紋章探しを優先すべきだ。でも、拓也達も危険にさらされている。
ヒカリが一歩大輔に近づいた。
「大輔くんは紋章とデジメンタルを探しに行って。私が戦いの様子を見に行くから」
「ヒカリちゃん」
「私達が大輔くんについていっても探す時間は変わらないと思うの。泉ちゃん達のこと、私も心配だし」
「分かった、気をつけて。俺も見つけたらすぐそっちに行くから!」
ヒカリは回れ右してネフェルティモンに駆け寄った。ネフェルティモンが舞い上がり、戦いの場へ急ぐ。
大輔はタグを左右に向けた。左の方の反応が強い。
「ライドラモン、こっちだ!」
反応の先を指さしながら、再びその背に飛び乗った。
人気のない森。ライドラモンが草を踏む音だけが聞こえる。薄い霧が辺りに広がっている。
大輔が握るタグは、その光を増していた。握りしめていても、指の隙間から輝きが漏れ出す。
そして二人は小さな広場に飛びだした。
大輔の家のリビングくらいの広さだ。柔らかい芝が地面を覆っている。木々の伸ばした枝が天蓋になって、空間を丸く包み込んでいた。
何より大輔達の目を引いたのは、その中心に生える木だった。子ども三人でないと抱えられないような太い幹だ。だがその途中、大輔の目の高さの部分が丸く膨れているのだ。そこだけ幹が細い枝となって絡まり合い、目の細かいカゴを作り出している。現実世界では、いやデジタルワールドでも見たことのない形だった。
ライドラモンの背から降り、大輔は不思議な木に歩み寄った。指を開くとタグの輝きがあふれる。大輔は思わず目を細めた。
それに応えるように、木のカゴが動いた。複雑に絡んでいた枝がひとりでにほどけていく。その内側から金色の光がこぼれだす。
大輔には見覚えがあった。いや、よく似たものを見たことがあった、というべきか。
角柱状のそれは、まぎれもなく奇跡のデジメンタルだった。
その横に目を向ければ、同じ色のピンバッジのようなものがある。大輔が注意を向けると同時に、それは自然と浮かび上がった。
大輔の持つタグの中へ、それは――奇跡の紋章は滑り込んできた。その表面に描かれた紋章は、マグナモンの鎧にあったものと同じだ。
奇跡のデジメンタルに近づき、手をかける。勇気や友情のそれと同じように、軽々と持ち上がった。
持ち主の手に二つが渡った時、広場の静やかな空気も消えていった。薄く巻いていた霧は跡形もない。神秘的な雰囲気のあった木は、ねじれた奇妙な木にしか見えなくなっていた。異世界の力を守る役目は終わったのだ。
大輔は両手の紋章とデジメンタルを見た。さっきまでの輝きは失せているが、ほのかに温かい。
遠くから地響きが聞こえた。ヒカリ達の向かった方角だった。
―――
アグニモンは地割れに挟まれ、抜け出せずもがいていた。
「アグニモン!」
上空にいたフェアリモンがまっすぐに降りてくる。
「来るな!」
間に合わなかった。薄茶の太い腕が、フェアリモンを吹き飛ばした。木の幹に叩きつけられ、フェアリモンがぐったりとなる。その体にデジコードが浮かんだ。
「まず一匹だな」
そう言って歩き出したのは、アグニモンより二回りも大きなデジモンだ。全身薄茶色。長い手足と垂れた鼻が目立つ。
最初に襲ってきた時は、三頭身の小人みたいなデジモンだった。よく分からない言いがかりをつけて殴りかかってきたこいつを、アグニモン達はよく知らない。
分かっているのはこいつがグロットモンという十闘士の一人であること。もう一つは戦いの途中で二つ目のスピリットを使い、今のギガスモンに進化したということだけだ。
しかも、このギガスモンがふざけた強さだ。二人がかりで手も足も出ない。
動けないフェアリモンに、ギガスモンが近づいていく。アグニモンはそれを見て、叫ぶことしかできない。
「フェアリモンに手を出すな!」
「いちいちうるせえな。こいつの次はお前のスピリットだ」
ギガスモンはハエでも払うように手を振った。その手がフェアリモンのデジコードに伸びる。
「《カースオブクイーン》!」
赤い光線が肩を射て、ギガスモンが足を止めた。光線の飛んできた方を見やる。
飛んできた白い獣にアグニモンは顔を明るくした。
「ネフェルティモン!」
「アグニモン、しっかり!」
赤い光線がアグニモンの周りの地面を崩した。どうにか地割れから抜け出す。
ギガスモンは舌打ちした。
「まだ仲間がいたのか。まあいい。お前らがスピリットを持ってるって聞いてここまで追ってきたんだ」
アグニモン達に向き直り、両のこぶしを打ち合わせる。
「それは俺達のもんだ、盗っ人どもめ。返してもらうぜ!」
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本物の奇跡のデジメンタルと紋章発見です。
状況は、このまま帰れると思うなよ、ですが(笑)
暑い。夏が近い。ということは8月1日が近い。何書くかそろそろ考えなくては。