〔26〕最後のスピリット進化 今、心と魂をひとつに | 星流の二番目のたな

星流の二番目のたな

デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

「《エクスレイザー》!」

 エクスブイモンの胸の模様からエネルギー波が飛ぶ。廊下に居並ぶハグルモン達が、勢いよく将棋倒しにされた。

「よし! これでこの辺のハグルモンは全部止まったな」

 近くのハグルモンを慎重に足でつついて、大輔はようやく息を吐いた。

 それにしても、と二人で辺りを見回す。戦っている間に工場の奥まで入り込んでしまったようだ。

 元の場所に戻ろうにも、蛍光灯に照らされた廊下に標識は見当たらない。右から来たような気もするし、左から走ってきた気もする。

 大輔は数秒考えた後、右を指さした。

「……こっちだな!」

「大輔、素直に迷ったって認めたらどうだ?」

「ぐっ」

 エクスブイモンの遠慮がちの言葉に、大輔は首をすくめた。おとなしく指をひっこめる。

 これでD-3を持ってる仲間がいれば、D-3の反応を探せばいいのだが。拓也達のデジヴァイスは、D-3には反応してくれない。

 適当でも、歩き回って出口を探すしかないか。気を取り直し、そう言おうとした時。

 大輔ははっと顔色を変えた。

「エクスブイモン、今の聞こえたか!?」

「ああ。拓也達の声だ!」

 パートナーも大輔の言葉に頷く。微かだが、悲鳴のような声が聞こえた。

 エクスブイモンは大輔を片手に抱え、声のした方へ駆け出した。

 階段を一度に飛び降りる。群がってきたハグルモンを脚力で文字通り一蹴する。

 その突き当たりに、全開になった扉が一つ。エクスブイモンは迷いなくそこに走り込んだ。




 濃赤色の何もない空間だけが広がる場所。

「純平、そっちはどうだ?」

 歩いて戻ってきた拓也に、純平は首を横に振った。

「ダメだ。出口どころかネズミの穴だって見つからないよ」

「はわわ。きっとここはダークエリアなんだミノ! 地獄に来ちゃったミノ!」

 拓也の肩で、ミノモンが頭を抱えて震えている。純平の肩が跳ねた。

「ミノモン、変なこと言うなよなっ!」

「変じゃないミノ! きっと僕達死んじゃったんだミノ!」

 そのままさめざめと泣きだしてしまった。拓也がため息をつく。

「何かやりようもあるんだろうけどな、スピリットさえあれば……」




 騒がしい足音に、ケルベロモンが素早く振り返った。赤く熱された電池の壁が、ひび割れるような高い音を立てている。

「こんなところに潜んでいたのか!」

 エクスブイモンが大輔を降ろし、身構える。大輔は広い室内を見回した。

「拓也達がいない。ケルベロモン、ここに俺の仲間がいたはずだ。どこにやったんだ!」

「人間なら、俺の技で閉じ込めたぜ。脱出はあいつらには無理だろうよ」

 ケルベロモンが牙を見せて笑う。大輔達が驚きに一瞬固まる。

 静寂を破ったのは、壁のこすれるような音だった。敵も味方も、視線が電池の壁に集まる。最後の一枚がゆっくりとはがれ、下に落ちていく。電池の内部があらわになった。

 意外にも内部はほぼ空洞だった。ただ、中空で浮いている物体がある。六角形の台座に据えられた青いシルエット。

「スピリットか!」

「ああ。雷のな」

 大輔の声に、ケルベロモンが弾んだ声で付け足した。エクスブイモンが止める間もなく跳び、スピリットをくわえ、壁を蹴って再び床に着地する。

 スピリットからかすかに火花が散った。ケルベロモンはやけどでもしかかったように、慌ててスピリットを床に落とした。

「っと。まだ余分なエネルギーが残ってたか。ハグルモンをこれだけ動かしても使い切れないとは、さすが伝説の道具だけあるぜ」

 そこまで聞けば、大輔にも察しがついた。

「ハグルモンを動かしたのは、工場を襲うためじゃなかったのか!?」

「雷のスピリットは蓄電装置として働いてたからな。ちょっと消費してやらないと触れることもできなかった。ハグルモンが暴れてくれて時間稼ぎもできるから、一石二鳥の作戦って訳だ」

 ケルベロモンが自慢げに口走る。なるほど、ケルベロモンが考えたにしてはよくできた企みである。

 改めて、ケルベロモンが右前脚でスピリットをつかんだ。

「スピリットは手に入った。もうここに用はない」

「そっちになくてもこっちには用があるんだよ! 拓也達の居場所を言え!」

 エクスブイモンが跳び上がり、ケルベロモンに殴りかかる。

 ケルベロモンはその姿を見上げたまま、避けようとしない。それを見て、大輔は何故か嫌な予感がした。

「待て! エクスブイモン!」

「え?」

 エクスブイモンが戸惑い、空中で振り返る。

 ケルベロモンが雄たけびを上げる。全身から緑の炎が吹き出し、エクスブイモンを弾き飛ばした。エクスブイモンはバランスを崩し、背中から床に叩きつけられた。

「しっかりしろ!」

 大輔が急いで駆け寄る。エクスブイモンは顔をしかめながら体を起こした。

「大丈夫だ。でも、あれは」
 見れば、ケルベロモンの発する炎は勢いを増している。黒い体を燃やし尽くすように覆い、その背の三倍近くまで立ち上る。それが次第に形をとり、三つの口内に吸い込まれた。見上げるような姿があらわになる。

「ケルベロモン、ジンロウモード!」
 四足だった姿が、二足の人型に変わっていた。両腕の代わりに、肩のアーマーが変化したらしい重たげな狼の頭。その口の奥に銃口が見える。
「進化、したのか?」

 大輔のつぶやきに、ケルベロモンはぎらついた目を向ける。

「本来の力を発揮できるようになったってのが正解だな。自分の力が使いこなせないなら、使いこなせるデジモンにデータを分けてもらえばいいのさ!」

 その言葉が終わる前に、両腕の銃口が大輔達に向いた。

「危ない!」

 エクスブイモンが大輔に覆いかぶさった直後、濃緑色の炎が背中を焼いた。火力が異常に増している。エクスブイモンは顔をゆがめ、それでも大輔を守り続ける。

 炎がやんだ直後、エクスブイモンの進化が解けた。力尽きたブイモンが、大輔の手の中に落ちてくる。

「ブイモン! くそっ!」

 にらむ大輔を横目に、ケルベロモンは雷のスピリットを手に立ち去ろうとする。大輔は歯を噛みしめてから、ブイモンを床に置き立ち上がった。

「待て! そのまま行かせてたまるか!」

 大輔の叫びに、ケルベロモンが呆れた表情で足を止める。

「お前のパートナーがその状態で、どうやって戦う気だ。そのちっこいこぶしで殴りかかってくる気か?」

 大輔は反射的に自分の手に目を落とした。手の中には握られたままのD-3。大輔には、友樹達のように自分で戦うような力はない。だけど。

 大輔はまっすぐに敵を見すえた。

「俺は、自分が立っているのに、心が折れてないのに敵を見逃すなんてしたくない!」


 その言葉に答えるように、大輔のデジヴァイスが光を放った。ポケットのD-ターミナルからデジメンタルが転送され、デジヴァイスの画面から実体化する。

「友情のデジメンタルが……?」

 ケルベロモンの持つ雷のスピリットからも、同じ光があふれた。ケルベロモンは思わず手を離し、そのまぶしさに後ずさる。

 デジメンタルとスピリットの光が、それぞれ一条の柱になった。二つの光が、床の一点を射る。

 そこに、白い円形の門が生まれた。




「拓也、あれ!」

 純平の指さす向こうに、白い光があふれている。その中心に、青いスピリットが浮かび上がっている。

「スピリットだ!」

 拓也と純平がデジヴァイスを出し、スピリットに向ける。

 スピリットは光を放ちながら二人に近づき――純平のデジヴァイスに吸い込まれた。

 拓也が寂しげな表情をよぎらせる。しかしそれを他人が気づく間もなく、純平のデジヴァイスからの光が、三人を包み込んだ。




◇◆◇◆◇◆




せっかく生き残ったのなら使い倒す! ということでwikimonで思いがけず見つけた(←)ケルベロモンジンロウモードでした。本格戦闘は次回。


あと、以前作ったワールドマップを再調整してUPし直しました。Topページのメッセージボードにリンクを追加しておいたので、よろしければご覧ください。