一方の拓也達も、突然の揺れに襲われていた。
ミノモンが激しく揺られて、振り子のように振り回されている。
「緊急事態! 緊急事態! 見学者のみなさんは、係員の誘導に従って避難するミノ!」
揺れが小さくなった所で、ミノモンに続いて早足。緑色の光が照らす避難口から外へ。
土煙が盛大に上がる中、コクワモンやゴブリモン達が必死に戦っている。相手は大量の、ハグルモン。
拓也がミノモンの頭をひっつかんだ。
「おい! お前ハグルモンなんて知らないって言ったじゃないかっ!」
「ホ、ホントに知らなかったミノ! むかーし、この工場ができた頃にハグルモンを使ってたとは聞いてたけど、最近はコクワモンが来たから、いらなくなったって聞いてたミノ!」
ミノモンが小さい手を振ってじたばたする。
「おい、あの倉庫から出てきてるぜ!」
純平が指さした先は敷地の端。古ぼけたプレハブ倉庫の入り口が全開になっていて、そこからハグルモンが続々と現れる。泉が納得したように、あごに指を当てる。
「捨てないでしまいこんでいたのね」
「だからそう言ってるミノ!」
「言ってねえよ!」
すかさず拓也のツッコミが入った。
「とにかく、みんなを助けないと!」
友樹がデジヴァイスを取り出す。泉もそれに続く。
「俺と純平は、原因を調べてみる! ここは頼むぞ!」
拓也の言葉に頷いて、二人がデジコードを読み込む。
「スピリット・エボリューション!」
「チャックモン!」
「フェアリモン!」
戦いの場を二人に任せ、拓也達は倉庫へと走った。
「ひゃあああぁ~」
頭をひっつかまれたままのミノモンを道連れに。
がれきや建物の陰に身を隠しながら、近づく。通気用に開いた窓から中に潜り込んだ。すぐに手近な木箱の裏に身を隠す。
二十畳ほどある倉庫の中には、ハグルモンが平たく積み上げられていた。中央の床に穴が開けられている。そこから大量の配線が、生き物のように伸びていた。それがハグルモンの背中に接続され、光りだす。数秒もしないうちにハグルモンは目を覚まし、動き出していた。
様子を観察し、純平が解決法を探る。
「あの線がハグルモンに充電してるんだな。コードを切っても、あんなに次々出てくるんじゃなあ。電源を見つけるしかないな」
拓也が後を引き取り、片手でミノモンを吊り上げる。
「おい、あのエネルギー源に心当たりは?」
「えーとえーと……こ、工場の地下に自家発電装置があるミノ。多分そこからコードが伸びてるミノ~!」
ミノモンは半分泣きそうになりながら答えた。
「よし、そこまで案内してもらうぜ!」
「は、はい~!」
純平の遠慮ない言葉に、いよいよ目が潤みだすミノモンであった。
工場内もハグルモンと戦うデジモン達であふれていた。ミノモンの指示で通路と階段を使い、戦いを回避する。
ミノモンは観念したのか、自分で拓也の肩につかまっている。(拓也につかまれたまま走られ、散々振り回されるよりましである)
その状態のまま、ミノモンが小首を傾げる。
「でも、なんで今になってハグルモンが?」
「きっと、発電装置の設定を、いじったやつが、いるんだ」
若干息をあげながら、純平が答える。拓也が「やつ」に思い当たり、顔をしかめた。
「ケルベロモン!」
「かもな。行ってみれば分か」
「発電室が見えたミノ!」
純平の言葉を遮り、ミノモンが声をあげた。廊下の突き当たりに鉄製の両開きの扉が構えていた。
そのまま飛び込もうとする拓也の腕を、純平が慌ててつかむ。
「いきなり突っ込んでどうするんだよ! 本当にケルベロモンがいたら俺達じゃ戦えないぜ」
考えがそこまで至っていなかったらしく、拓也が一瞬言葉に詰まる。
「ぐっ……でも、泉も友樹も外での戦いで精一杯だぜ。俺達が解決しないと」
「だったら大輔を探してこようぜ。建物のどこかにいるはずだ」
純平は当然のように大輔の名前を出した。
「いや、でもあいつは!」
思わず口走ってから、拓也は口をつぐんだ。純平が不思議そうな顔をする。
「大輔は、何だよ?」
言えるわけがなかった。大輔が拓也の進化を妨害したかもしれない、なんて。拓也でさえまだ半信半疑なのだ。
それに、その疑惑を話せば、情報の出所まで突かれるのは目に見えていた。会った事は秘密にしておくと約束した。神原拓也は、約束を簡単に破れる少年ではなかった。
「……ほら、毎回大輔を頼るのも悪いだろ。ちょっと中見るだけなら、な?」
「まあ、確かにな」
拓也の言葉に、純平は渋々拓也の腕を離した。大輔に頼りきりになりたくないのは、純平も同じだった。
拓也が鉄扉に近づき、静かにドアノブを回す。肩を当て体重をかけると、扉は音もなく開いた。20センチ程の隙間を作り、そこから注意深く頭を押し込む。
内部はコンサートホールほどの大きさで、円柱形の吹き抜け空間になっていた。中心に穴が開いていて、地下から天井まで金属の柱が突き抜けている。柱というよりあれは。
「電池?」
「そうミノ。発生させた電気をあそこにためてあるミノ」
小声の拓也に、同じく小声でミノモンが答える。いつの間にか拓也の頭に乗っかっている。拓也が上目づかいに頭上のミノモンを見た。
「発生させたって、どこから?」
「それは僕にも分からないミノ」
「……まあ、今は関係ないか」
突っ込みたいのを我慢して、拓也は巨大電池に視線を戻す。
電池の元にデジモンが立っていた。黒い四足はケルベロモンに間違いない。
純平が拓也の背中を小突いてくる。今大事なところだってのに。拓也は純平の手を振り払った。
ケルベロモンの目の前だけ、電池の壁が赤く焼けている。ケルベロモンが口を開き、緑の炎を吐いた。
「《ヘルファイアー》!」
熱された壁から湯気が吹き上がる。鼻をつく臭いが拓也達の場所までただよってくる。熱された壁が一枚はがれ落ちた。
「あいつ、一体何やってるんだ?」
つぶやく拓也の肩を、また純平が叩く。拓也は顔をしかめて、後ろも見ずに振り払う。
「よし……もう少し!」
ケルベロモンの独り言が聞こえた。そこで拓也にも察しがついた。あいつ、外で乱闘を起こしている間に、電池を壊そうとしているのか?
純平が拓也に体当たりしてきた。拓也の口からぐえ、と声が漏れる。
「お前、なにす」
振り返る前に、純平に押されて部屋に転がり込んだ。打った肩を押さえて顔を上げると、廊下にはハグルモンの群れ。視界を埋め尽くさんばかりである。
「おい純平! なんでこんなに集まってくる前に言わなかったんだよ!」
「だから、さっきから知らせようとしてただろ!」
拓也が叫べば純平も負けじと叫ぶ。
「お前ら! のぞいてやがったな!」
ケルベロモンが振り向いて、拓也達をにらむ。拓也は顔を引き締めて立ち上がった。
「ケルベロモン! ここで何をやってるんだ!」
正直な問いに、ケルベロモンは鼻で笑った。
「へっ、ペラペラとしゃべると思ったか? 《インフェルノゲート》!」
突如、拓也達の足元に穴が開いた。墨を広げたような暗い穴だ。反応する間もなく、拓也達は重力に引かれて落ちる。
「うわあああ!」
「そこで永遠に大人しくしてな!」
ケルベロモンの言葉を最後に、頭上の穴は閉じた。
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お待たせいたしましたー。半月ぶりの更新はユナイトでございました。アニメのようにコクワモンと手を組むタイミングがなかったので、ミノモン出ずっぱりです。
今回大輔を出せませんでしたが……じ、次回はばっちり活躍しますのでっ!(汗)
15thの「くせ者」のHPはようやく半減しましたね。このペースだと来月頭にはまたデジタマにたどり着けると思いますが……今度こそ割れますよね、公式様!