「《エクスレイザー》!」
エクスブイモンの胸の模様からエネルギー波が飛ぶ。廊下に居並ぶハグルモン達が、勢いよく将棋倒しにされた。
「よし! これでこの辺のハグルモンは全部止まったな」
近くのハグルモンを慎重に足でつついて、大輔はようやく息を吐いた。
それにしても、と二人で辺りを見回す。戦っている間に工場の奥まで入り込んでしまったようだ。
元の場所に戻ろうにも、蛍光灯に照らされた廊下に標識は見当たらない。右から来たような気もするし、左から走ってきた気もする。
大輔は数秒考えた後、右を指さした。
「……こっちだな!」
「大輔、素直に迷ったって認めたらどうだ?」
「ぐっ」
エクスブイモンの遠慮がちの言葉に、大輔は首をすくめた。おとなしく指をひっこめる。
これでD-3を持ってる仲間がいれば、D-3の反応を探せばいいのだが。拓也達のデジヴァイスは、D-3には反応してくれない。
適当でも、歩き回って出口を探すしかないか。気を取り直し、そう言おうとした時。
大輔ははっと顔色を変えた。
「エクスブイモン、今の聞こえたか!?」
「ああ。拓也達の声だ!」
パートナーも大輔の言葉に頷く。微かだが、悲鳴のような声が聞こえた。
エクスブイモンは大輔を片手に抱え、声のした方へ駆け出した。
階段を一度に飛び降りる。群がってきたハグルモンを脚力で文字通り一蹴する。
その突き当たりに、全開になった扉が一つ。エクスブイモンは迷いなくそこに走り込んだ。
濃赤色の何もない空間だけが広がる場所。
「純平、そっちはどうだ?」
歩いて戻ってきた拓也に、純平は首を横に振った。
「ダメだ。出口どころかネズミの穴だって見つからないよ」
「はわわ。きっとここはダークエリアなんだミノ! 地獄に来ちゃったミノ!」
拓也の肩で、ミノモンが頭を抱えて震えている。純平の肩が跳ねた。
「ミノモン、変なこと言うなよなっ!」
「変じゃないミノ! きっと僕達死んじゃったんだミノ!」
そのままさめざめと泣きだしてしまった。拓也がため息をつく。
「何かやりようもあるんだろうけどな、スピリットさえあれば……」
騒がしい足音に、ケルベロモンが素早く振り返った。赤く熱された電池の壁が、ひび割れるような高い音を立てている。
「こんなところに潜んでいたのか!」
エクスブイモンが大輔を降ろし、身構える。大輔は広い室内を見回した。
「拓也達がいない。ケルベロモン、ここに俺の仲間がいたはずだ。どこにやったんだ!」
「人間なら、俺の技で閉じ込めたぜ。脱出はあいつらには無理だろうよ」
ケルベロモンが牙を見せて笑う。大輔達が驚きに一瞬固まる。
静寂を破ったのは、壁のこすれるような音だった。敵も味方も、視線が電池の壁に集まる。最後の一枚がゆっくりとはがれ、下に落ちていく。電池の内部があらわになった。
意外にも内部はほぼ空洞だった。ただ、中空で浮いている物体がある。六角形の台座に据えられた青いシルエット。
「スピリットか!」
「ああ。雷のな」
大輔の声に、ケルベロモンが弾んだ声で付け足した。エクスブイモンが止める間もなく跳び、スピリットをくわえ、壁を蹴って再び床に着地する。
スピリットからかすかに火花が散った。ケルベロモンはやけどでもしかかったように、慌ててスピリットを床に落とした。
「っと。まだ余分なエネルギーが残ってたか。ハグルモンをこれだけ動かしても使い切れないとは、さすが伝説の道具だけあるぜ」
そこまで聞けば、大輔にも察しがついた。
「ハグルモンを動かしたのは、工場を襲うためじゃなかったのか!?」
「雷のスピリットは蓄電装置として働いてたからな。ちょっと消費してやらないと触れることもできなかった。ハグルモンが暴れてくれて時間稼ぎもできるから、一石二鳥の作戦って訳だ」
ケルベロモンが自慢げに口走る。なるほど、ケルベロモンが考えたにしてはよくできた企みである。
改めて、ケルベロモンが右前脚でスピリットをつかんだ。
「スピリットは手に入った。もうここに用はない」
「そっちになくてもこっちには用があるんだよ! 拓也達の居場所を言え!」
エクスブイモンが跳び上がり、ケルベロモンに殴りかかる。
ケルベロモンはその姿を見上げたまま、避けようとしない。それを見て、大輔は何故か嫌な予感がした。
「待て! エクスブイモン!」
「え?」
エクスブイモンが戸惑い、空中で振り返る。
ケルベロモンが雄たけびを上げる。全身から緑の炎が吹き出し、エクスブイモンを弾き飛ばした。エクスブイモンはバランスを崩し、背中から床に叩きつけられた。
「しっかりしろ!」
大輔が急いで駆け寄る。エクスブイモンは顔をしかめながら体を起こした。
「大丈夫だ。でも、あれは」
見れば、ケルベロモンの発する炎は勢いを増している。黒い体を燃やし尽くすように覆い、その背の三倍近くまで立ち上る。それが次第に形をとり、三つの口内に吸い込まれた。見上げるような姿があらわになる。
「ケルベロモン、ジンロウモード!」
四足だった姿が、二足の人型に変わっていた。両腕の代わりに、肩のアーマーが変化したらしい重たげな狼の頭。その口の奥に銃口が見える。
「進化、したのか?」
大輔のつぶやきに、ケルベロモンはぎらついた目を向ける。
「本来の力を発揮できるようになったってのが正解だな。自分の力が使いこなせないなら、使いこなせるデジモンにデータを分けてもらえばいいのさ!」
その言葉が終わる前に、両腕の銃口が大輔達に向いた。
「危ない!」
エクスブイモンが大輔に覆いかぶさった直後、濃緑色の炎が背中を焼いた。火力が異常に増している。エクスブイモンは顔をゆがめ、それでも大輔を守り続ける。
炎がやんだ直後、エクスブイモンの進化が解けた。力尽きたブイモンが、大輔の手の中に落ちてくる。
「ブイモン! くそっ!」
にらむ大輔を横目に、ケルベロモンは雷のスピリットを手に立ち去ろうとする。大輔は歯を噛みしめてから、ブイモンを床に置き立ち上がった。
「待て! そのまま行かせてたまるか!」
大輔の叫びに、ケルベロモンが呆れた表情で足を止める。
「お前のパートナーがその状態で、どうやって戦う気だ。そのちっこいこぶしで殴りかかってくる気か?」
大輔は反射的に自分の手に目を落とした。手の中には握られたままのD-3。大輔には、友樹達のように自分で戦うような力はない。だけど。
大輔はまっすぐに敵を見すえた。
「俺は、自分が立っているのに、心が折れてないのに敵を見逃すなんてしたくない!」
その言葉に答えるように、大輔のデジヴァイスが光を放った。ポケットのD-ターミナルからデジメンタルが転送され、デジヴァイスの画面から実体化する。
「友情のデジメンタルが……?」
ケルベロモンの持つ雷のスピリットからも、同じ光があふれた。ケルベロモンは思わず手を離し、そのまぶしさに後ずさる。
デジメンタルとスピリットの光が、それぞれ一条の柱になった。二つの光が、床の一点を射る。
そこに、白い円形の門が生まれた。
「拓也、あれ!」
純平の指さす向こうに、白い光があふれている。その中心に、青いスピリットが浮かび上がっている。
「スピリットだ!」
拓也と純平がデジヴァイスを出し、スピリットに向ける。
スピリットは光を放ちながら二人に近づき――純平のデジヴァイスに吸い込まれた。
拓也が寂しげな表情をよぎらせる。しかしそれを他人が気づく間もなく、純平のデジヴァイスからの光が、三人を包み込んだ。
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せっかく生き残ったのなら使い倒す! ということでwikimonで思いがけず見つけた(←)ケルベロモンジンロウモードでした。本格戦闘は次回。
あと、以前作ったワールドマップを再調整してUPし直しました。Topページのメッセージボードにリンクを追加しておいたので、よろしければご覧ください。