第126話 仕掛けられた刺客! 閉鎖空間のデスマッチ | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

 中を警戒しながら、順にドアをくぐる。

 内部も外と同じように簡素だった。鉄板打ちっぱなしの壁に走る電流。天井も同様に火花が散っている。床だけは白いタイルが敷かれていて、電気は通っていないようだ。

 家具も仕切りもない部屋の中央に、台座だけがあった。透明で、内部の配線や基盤がよく見える。平時にはここにスピリットが安置されていたのだろう。

 しかし、今は真っ二つに、乱暴に破壊されていた。千切れ、焼け焦げた配線が、虚しく火花を飛ばしている。

 拓也は思わず顔をしかめた。

「十二神族のやつら、俺達が守ったものを、容赦なく破壊しやがって。あ……ごめん」

 言ってから気づいて、ユニモンに謝る。ユニモンは、首を軽く右に振った。

「僕の世界のデジモンがやったのは事実ですし。僕らにも、止められなかった責任はあります」

 輝二が足を踏み出した。

「とにかく、台座を調べてみよう。直す手がかりがあるかもしれない」 
 拓也、ユニモンが後に続く。


 その背後で、鉄扉がきしんだ。振り向けば、誰も触れていないのに扉が閉まりだしている。

「何で勝手に」

 拓也の言葉が途中で切れた。鉄扉の内側にデジモンが一体くくりつけられていた。銀色のサイボーグ型デジモンだ。手足の長い人型で、右足や左腕の一部は配線がむき出しになっている。手足と首に鎖がかけられ、鎖の端は鉄扉に埋め込まれている。

『アンドロモン。意志や感情は持っておらず、プログラムされた行動に忠実である。必殺技はアーム部分から発射されるエネルギー状の刃物《スパイラルソード》と胸部から放つ《ガトリングミサイル》』

 輝二がデジヴァイスで情報を読み取る。その音声が終わると同時に、扉が音を立てて閉じた。

 直後、アンドロモンの目が赤い光を放ち、顎が上がる。その目が拓也達を捉えた。

「扉ノ開放ト施錠ヲ確認。室内ニ3体ノ侵入者ヲ感知。排除機能、作動」

 機械的な音声で述べた後、体に力を込める。アンドロモンを拘束していた鎖が千切れ飛ぶ。

 拓也は、反射的にデジヴァイスを手に取った。

「十二神族が仕掛けたトラップか!」

「ああ。結界の修復も阻止するつもりらしい」

 輝二も敵を見据え、左手にデジコードを浮かべた。

「あ、じゃあ、あとお願いします」

 ユニモンは敵に背を向け、足早に台座の裏に隠れた。


 拓也は一瞬納得しかけたが、勢いよく振り返った。

「お前は戦わないのか!?」

 ユニモンは膨れ面を台座の向こうからのぞかせる。

「言っときますけど、『戦わない』んじゃなくて、『戦えない』んです。僕は環境適応力が高い代わりに、戦闘力は子どもレベルですから。うん、ここ800年、訓練サボってたせいかもしれませんけど。とにかくまあそういう事なので、僕は当てにしないでください」

 調子よく言ってユニモンは引っ込んだ。直後に、アンドロモンが首の鎖を引きちぎる音。

 拓也は、視線をアンドロモンに戻した。

「……あれだな、役割分担、ってやつだ。ここまで連れてきてもらったのは事実だし」

 そう言いつつ、頬は若干引きつっている。輝二は何も言わず、軽く肩をすくめた。

 アンドロモンが最後の鎖を外し、重い音を立てて床に降り立った。

 二人は素早く、それぞれのデジコードにスキャナを滑らせた。


「セミスピリット・エボリューション!」

「フレイモン!」

「ストラビモン!」


「《ベビーサラマンダー》!」

 フレイモンが全身から炎のオーラを飛ばし、先手を取る。アンドロモンは電気をまとったこぶしを振り下ろし、オーラを消し飛ばした。思ったより反応が早いな。フレイモンは舌打ちした。

 ストラビモンが床を蹴って飛び、アンドロモンの頭上で爪を振り上げる。アンドロモンの胸部の装甲が開き、内部の発射口がストラビモンに向く。

「《アルティメットサンダー》」

 二発の雷弾がらせんを描きながらストラビモンを捉えた。防御姿勢をとったがこらえきれず、ストラビモンは壁に叩き付けられる。壁に走る電流が更にストラビモンを襲う。

「ぐああっ! ……くっ」

 それでも床に落ちる寸前に受け身を取り、一回転して敵から離れる。

「ストラビモン!」

「大丈夫だ。それより、こいつ妙だぞ!」

 敵に視線を向けたまま、ストラビモンが声をあげる。フレイモンも同じ事に気づいて、アンドロモンを怪訝けげんそうに見た。

「こいつ、デジヴァイスの情報と技が違う。いや、というよりこの技って」

「ああ。雷の闘士の技そのものだ」

 胸部から放たれたのは、ミサイルではなく、ボルグモンの必殺技。先程フレイモンの攻撃を打ち消した動きも、思い返せばブリッツモンの《ミョルニルサンダー》に似ている。

 二人の脳裏によぎった推測は、ぞっとしないどころか吐き気のするものだった。

 それを否定できるわずかな可能性を求めて、フレイモンが言葉を投げる。

「ユニモン! お前の世界のアンドロモンは雷の闘士そっくりの技を使ったり、しないよな」

「申し訳ありませんが、使ったりしません」

 返ってきたユニモンの声は、フレイモン達と同じく嫌悪感がにじんでいた。

 とすれば、結論は一つ。

「雷の闘士を倒した後、そのデータを取り込んだのか」

 フレイモン達もスキャンはするが、それを断りもなしに自分の力にすることはない。彼らの行うスキャンは浄化であり、自分を強化する手段ではないからだ。

 雷の闘士の眠る結界を破壊された上、その力を吸収された。人間の感覚でとらえるなら、それは友人の墓を掘り返され、遺体を踏みにじられるようなものだった。

 吐き気がすると同時に、怒りが込み上げてきた。メルキューレモンにセラフィモンのデータを利用された時。あの時も似た感覚を覚えた。

 だが二年前、最後まで戦いを共にした仲間となれば、その気持ちは何倍にも膨れ上がる。

「お前だけは、絶対倒す」

 無表情な敵の目をにらみ、フレイモンは歯の隙間から声を絞り出した。




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今までの更新停滞から打って変わっての速筆ですが。書く時間ないなりに、プロットは脳内で考えていたのです、はい。


さて、今回の敵キャラ。よっぽど「ミョルニルサンダー」つながりでパロットモンにしたろかと思ったんですが。

さすがにぱろっともんさんの手前パロットモンに悪行をさせるのは気が引けたので、慎んでボツにいたしましたっ。



今回初登場のデジモン

アンドロモン