拓也達はデジヴァイスを片手に村を駆け回った。しかし、手がかりはあいまいに光るデジヴァイスの画面だけ。近くにある事は分かっても、具体的にどこにあるのかが分からない。
しびれを切らした純平が大声を張り上げる。
「おーい、スピリットー! 隠れてないで出てこーい!」
「それで出てきたら苦労しないって」
「そりゃそうだけどさ……」
拓也の呆れたツッコミに、純平は肩を落とした。ちょうどよく村の中心に大木がある。その影で足を止めた。
そこに泉が駆け寄ってきた。
「二人とも、休んでる場合じゃないわよ。大輔達やチャックモンが足止めしてくれてる間に、何とかスピリットを見つけないと」
「チャックモンはともかく、大輔やブイモンはどうだろうな」
純平が不意に真剣な顔になる。それを見て拓也が片眉を上げた。
「おい純平、何が言いたいんだよ?」
「大輔が本当に信用できるか分からないって事だよ。大輔が持ってるデジヴァイスは俺達のと違うし、あいつはパートナーデジモンを連れてる」
「そんな事? 別に同じじゃなくたって、仲間は仲間でしょ」
泉が顔をしかめた。しかし純平の表情も晴れない。
「そういうんじゃない理由もある。俺達がデジヴァイスを手に入れる前から、大輔はブイモンと一緒にいた。この旅の前からデジモンを知ってた。でもどうしてブイモンと会ったのかとか、どうやってデジヴァイスを手に入れたのかとか、肝心の話になるとごまかしてばかりだ」
「それは……そうだけど」
拓也は反論できずに頬を掻いた。信用できるできないは別にしても、大輔が何か隠しているのは間違いない。もちろん会ってまだ数日だし、秘密の一つ二つ持っていて悪いわけではないが。だが、デジモンやデジヴァイスなんて肝心な事をどうして。
「二人とも! いい加減にしなさい!」
思考は泉の一喝で吹き飛んだ。
「違うとか秘密とか、それが何よ。大輔達は今、村を守るために戦ってくれている。それで十分じゃない。私達も考え事なんかしてる場合じゃないはずよ!」
「でも、泉ちゃん」
「『でも』も『だって』も後で聞くわ。今は無駄口叩かないでスピリットを見つけるの! 分かった!?」
「……はい」
拓也と純平は大人しく答えた。
と、三人のデジヴァイスが強い光を放った。
同時に、大木のうろから同じ光がほとばしる。
輝きながら現れたのは、四枚の透明な翅をもつスピリット。
「俺のか!」
「いや俺のだろ!」
叫びデジヴァイスを向ける二人の間を、スピリットが颯爽と行き過ぎる。
「スピリット……!」
つぶやきに応えて、泉のデジヴァイスの中へ。
画面に映る「風」を意味する文字。それを見つめ、泉は力強く頷いた。
「スピリット・エボリューション!」
「フェアリモン!」
蝶の翅を持ち、ラベンダー色の髪と防具をまとう闘士が生まれた。
「すごい、こんなかわいい闘士もいるんだ」
「拓也のスピリットじゃなくて良かったな。お前がフェアリモンになったら悲惨だったぜ」
「確かに……って、そこは純平も同じだろ!」
拓也が突っ込んでいる間に、フェアリモンが空に舞い上がる。
「全く。二人とも、置いてくわよ」
羽ばたき戦場に向かうフェアリモンを、拓也達は慌てて追いかけた。
一方の大輔は、戦況を厳しい顔で見守っていた。背中には友樹をかばっている。フローラモン達は建物に背中をぴたりとつけて震えている。ボコモンとネーモンも紛れ込んでいるようだ。
「ご、ごめん。僕が、ま、まひしちゃったせいで」
「心配するな。拓也達が、絶っ対にスピリットを見つけてきてくれる!」
まだ思うように動けない友樹を、大輔は懸命に励ます。ライドラモンもマッシュモン達に押されっぱなしだが、それでも進化を維持して戦ってくれている。もう少しだけ、頑張ってくれ。
「《トルナード・ガンバ》!」
紫の風が敵に躍りかかった。逆立ちから繰り出される旋風脚が、マッシュモンを吹き飛ばす。
「おお、あれはまさしく風の闘士フェアリモンじゃ!」
「へー」
ボコモンが感激の声をあげ、ネーモンが適当な声をあげる。
闘士という事は、やはり誰かがスピリットを見つけて進化したのだ。大輔は笑顔でフェアリモンを見上げた。
「助かったぜ、フェアリモン! 純平が進化したようには見えないし、拓也ってのもなさそうだし。って事は泉だな!」
「見た目ですぐ分かるでしょう、そこは……。まあいいわ。後は任せて」
フェアリモンはマッシュモン達に向き直った。緊張が解けたのか、ブイモンも進化が解けその場にへたり込む。大輔は走ってパートナーを抱きかかえ、安全な場所まで駆け戻った。
「よくやったな、ブイモン!」
「えへへ……」
ブイモンは疲れ果てながらも、嬉しそうに顔をほころばせた。
一方のマッシュモン達。新たな乱入者を見て、三男の声が裏返る。
「アニキッ! また強そうなやつが出てきたぜ!」
「慌てるな! フェアリモンだろうとフェラーリモンだろうと、俺達のキノコ爆弾はよけきれない!」
「いくぞ、弟達!」
長兄の掛け声で、三人が一斉に腕を振り上げた。
「《ポイズン・ス・マッシュ》!」
赤黄のキノコがフェアリモンへ飛ぶ。
フェアリモンは細く息を吸い、両手を肩の横で広げた。その手の中で、繊細に織られた風が渦を巻く。
「《ブレッザ・ペタロ》!」
春色の竜巻が爆弾を宙にとどめ、押し返す。
そして、全ての爆弾が持ち主に返った。
綺麗に打ち上がるマッシュモン達を見て、大輔は密かに決意を固めた。今度パソコン部のみんなで花火大会をやろうと。
地面にのびる三兄弟。その体にデジコードが浮かんだ。フェアリモンがデジヴァイスを向ける。
「爽やかな風に乗せ、このデジヴァイスが美しくピュアな心に浄化する! デジコード・スキャン!」
デジコードが吸い取られ、後には呆けた顔のマッシュモン達が残る。その瞳に先程までの悪意はない。フローラモン達が歓声を上げてマッシュモン達に駆け寄っていった。
フェアリモンも地面に降り立つ。その姿がデジコードに包まれて、泉の姿に戻った。一歩踏み出そうとして、膝から崩れ落ちた。
「泉!」
「泉ちゃん!」
抱き止めたのは拓也だった。一歩遅れた純平は、「拓也! お前いい所を!」と背後で叫んでいる。
拓也が泉の肩をつかむ。
「おい、しっかりしろ泉!」
「ごめん、ちょっと張り切りすぎ……た……」
顔を上げた所で泉は気づく。すぐ目の前に拓也の顔がある事に。
「きゃああああ!」
切れの良いビンタの音が響いた。思わず顔をしかめ、肩をすくめる大輔であった。
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書いてて気づいたんですけど、02のデジメンタル探しとフロのスピリット探しではデジヴァイスの性能が桁違いですよね。
02ではGPSのように自分の位置とデジメンタルのありかを明示してくれるのに、フロでは近くだと画面が光るだけで、具体的にどことは示してくれませんでした。しかも02では埋まってても反応がある(誠実のデジメンタルの時)のに、フロはすぐそばにあっても反応がなかったりする(光のスピリットの時)という。スピリットはそう簡単に見つからないように封印でもされてるのかしら。
何にしろ、フロのみんなって苦労してますね。