第117話 吹き荒れる心の中で 信也、一人きりの放浪! | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

今回の話は携帯よりもパソコン、3DS等で見る事をおすすめします。

13段落目から時間軸が移動するまで、文字数に気を使って書いてみたので。




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 草に勢いよく頬を叩かれて、我に返った。

 気づけば辺りに高くそびえる森はなく、ぽつぽつと枝の落ちた木があるだけ。後は俺の身長か胸までの茶色の草が茂っている。そしてその全てが強い風でしなっていた。空も重苦しい曇り空で、立っているだけで気が滅入ってきそうな場所だった。いつの間にか、ずいぶん遠くまで歩いてきたらしい。

 甲高い口笛のような音を立てて、暴風が吹きつける。足を前に出してもほとんど進めないどころか、吹き飛ばされそうになる。どこか風をよけられる場所を探さないと。

 近くの木の根元にうろがあるのを見つけ、駆け込んだ。ちょうど俺とバッグが収まるスペースはあった。外にある草もいい風よけになってくれそうだ。俺は座り込んで息を吐いた。

 体を落ち着けると、急に腹が鳴った。考えてみれば、もう何時間も食べた記憶がない。

 ……いやそれどころじゃない。城での立ち聞きからついさっきまで、自分が何をしてたのかほとんど覚えてない。

 ただ「俺はここにいちゃいけない」っていう思いだけが頭の中にのしかかっていた。


 無意識の内に、スピリットの力を最大限引き出して戦っている。

 進化もできないほどに傷つけてしまったスピリット。

 戦い続ければ、スピリットを完全に壊してしまう。


「くっ」

 二人の会話が、盗み見た光景がフラッシュバックしてくる。震える両腕をきつくつかんで、無理やりに止める。

 だって、俺に何ができたって言うんだよ。

 ただ、みんなと一緒に戦いたかった。

 デジタルワールドを守りたかった。

 兄貴より強くなりたかった。

 ただ、それだけなのに。


 何が特別な力だ。


 全部自己満足だった。

 スピリットを砕ける寸前にした。

 炎のエリアから結界を奪いかけた。

 やってた事は十二神族と同じじゃないか。

 守るために戦って、守るべきものを壊していた。

 それに気づいて、やり直したいのに、もう進化できない。

 スピリットのない俺は、ただの人間の、小学5年の子供でしかない。

 今の俺がデジタルワールドや兄貴達のためにできる事はたかが知れている。

 分かってる、本当はみんなに説明して「俺は元の世界に帰ってるよ」と言うべきだ。

 十二神族が俺の特性に目をつけてるなら、なおさらデジタルワールドにいちゃいけない。

 でも現実を認められなくて、帰るのが嫌で、一人で逃げ出してこの世界にしがみついている。

 まだ俺も戦える、世界を守る力になれる! バカみたいだと分かってるけど、そう思っていたいんだ!




 色々考えてるうちに眠ってしまったらしい。起きると外は月明かりに照らされていた。

 かついできたバッグがやけに重い。開けてみると、肉リンゴやパン、水筒等が着替えと一緒に押し込まれてる。台所からこっそりもらってきた、んだっけか。よく考えるとそんな事した覚えがある。

「俺なりにしばらく帰らないつもりで準備したんだな。……って、それじゃ家出と一緒じゃん!」

 自分に自分で突っ込んで、少しむなしくなった。黙ってパンにかぶりつく。

 一人で過ごすのっていつぶりだろう。学校にいれば友達がいて、サッカーチームではチームメイトがいて、家に帰ればうるさい兄貴がいた。

 一人で過ごす夜がこんなに静かなんだって、知らなかった。

 でも、俺はもう友樹達の所には帰れない。

 手紙も残してこなかった。今頃、心配して探してくれてるだろう。

 「スピリットが使えなくても、信也は仲間だよ」友樹達なら、きっとそう言ってくれる。戦えない俺を精一杯守ってくれる。

 だけど、そうなるのが嫌なんだ。守られるだけの自分でいたくない。渋谷駅の地下で、俺は思い知った。だからこの世界に来たんだ。強くなれるように。守られるだけじゃなくて、誰かを守れるようになりたかったから。

 今の俺じゃ、仲間と一緒にいる事はできても仲間を守る事はできない。だから帰れない。


 一方で、これから行くあてや目的がないのも事実だった。

 スピリットを持っていない時点で、あまり動き回るのは危ない。(既に動き回ってるんだけど、それはもう仕方ない)

 とりあえずデジモンのいそうな町や村でも探して、話してみるか。自分の現在地もよく分かってないし。……ただし、友樹達と鉢合わせだけはしたくない。

 風の泣く音を聞きながら、夕飯を済ませた。手持ちの荷物を全部出して確認して、またエナメルバッグに戻す。

 出発は朝になってからだな。風も明日にはやんでるといいけど。

 そんな事を考えながら、他にやる事もなく。俺は木のうろにもたれて目を閉じた。