第116話 さらば十二神族の世界! 新たな出会いの予感 | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
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 ウルカヌスモンの部屋から離れ、階段を駆け下る。人気の少ない通路を選び、迂回を繰り返す。遠くから怒鳴り散らす声が聞こえてくる。どうやらウルカヌスモンの死はそう長く隠しておけるものではなかったらしい。あれだけ派手に戦えば無理のない事ではあったが。

 と、前を行くネプトゥーンモンが速度を緩めた。進む先が不自然に明るいのに気付いて、拓也達も足を止める。
 廊下の先に紅い炎をまとった獅子が立っていた。ひときわ明るいのは頭上に掲げている光球で、それが辺りを昼間のように照らし出している。獅子が口を開いた。

「どこへ行かれるおつもりですか。しかも人間を連れて」
 見かけの割に高い声。しかしそこには疑念と緊張がにじみ出ている。

「なに、散歩だ。人間もずっと閉じ込めていては弱ってしまうのでな」

 ネプトゥーンモンは何気ない風に答えたが、相手の眉尻を上げただけだった。

「見え透いた嘘をつかないでください。ウルカヌスモンが死んだとの知らせが城を駆け巡っています。そのような真似が出来る者は、そこにいる人間くらいしか」

 そこで相手が息を飲む。拓也達にとっても相手にとってもありがたくない結論にたどり着いてしまったようだ。

「まさかネプトゥーンモン、あなたが加担されたのですか」

「そうだ」

 答えは拓也達も度胆を抜かれるほどに早かった。自分の裏切りを、こんなにあっさり認めていいのか。

 相手も呆気に取られて黙ってしまった。その隙にネプトゥーンモンが言いつのる。

「アポロモン、ここは黙って通してくれ。これ以上の犠牲を出す前に、この戦いを止めなければならない」

「『これ以上の犠牲』? 仲間を倒したあなたが何を言うのですか!」

 文字通り火をつけてしまったらしい。アポロモンの光球が炎の勢いを増す。

「十二神族はもう四人しか残っていない! 神である私達が民を導いてやらねばならぬのに、肝心の私達がいがみあっている場合ではないはずです!」

 ネプトゥーンモンが何かつぶやいた。

 しかしその音は、叩きつけるようなアポロモンの言葉とは正反対に小さく、拓也と輝二にすら聞き取れなかった。

 聞き返す間はなかった。論争に気づいたのか、城のデジモン達が駆けてくる音がする。

 ネプトゥーンモンが槍を掲げた。

「議論をしている暇はない。私は二つの世界の為に最善だと思う道を行く。お前があくまでユピテルモンの側につくと言うなら、戦ってでも押し通る!」

 アポロモンは一瞬涙をこらえるような表情を見せたが、すぐに腰を落として身構えた。

「理論を説いても通じないというのなら……仕方がない」

 ネプトゥーンモンが水塊を生み出し、アポロモンの光球が燃え盛る。

 大波と太陽球が激突する。

「《ウェーブオブデプス》!」

「《ソルブラスター》!」

 鮮やかなまでに白い蒸気が吹き上がり、その場の全てを飲み込んだ。



「拓也、輝二、脇の階段を降りていけ」

 自分の手も見えない霧の中で、ネプトゥーンモンのささやきが聞こえた。

「二階層降りて、右に行った突き当りに木造の離れがある。そこにいる者がお前達を十闘士の世界に連れていってくれる」

「ネプトゥーンモン、お前」
 拓也はそこまで言って、言葉に詰まった。この霧が晴れればアポロモンと城のデジモン達を相手にしなければならない。そんな場所に、彼は一人で残ろうとしている。

 本人からの答えは、至って静やかだった。

「裏切り者とそしられても、民を見捨てるわけにはいかない。私はこの世界にいてユピテルモンの真意を問いただす」

「分かった。輝二、行こう」

 手探りで伸ばした手が輝二の裾をつかむ。

「ああ。……ネプトゥーンモン、ありがとう」

 輝二が告げた感謝の言葉を最後に、二人はその場を去った。





 二階層降りる頃には、深い霧も晴れていた。右の廊下の先には、木造の橋と小屋。住まいと言うより馬屋や牛小屋といった呼び名の方が似合いそうな、こじんまりとしたものだ。

 拓也が戸をノックしたが、返事はない。試しに押してみると、木戸は抵抗もなく開いた。

 中は外見の印象通り馬屋だった。家具も仕切りもない部屋に干し草が敷き詰められ、その中央で白い一角獣が眠っていた。角だけでなく赤いバイザーと黒い羽を持ったデジモンだ。

「これが、ネプトゥーンモンの言っていたデジモンか?」
 拓也が言いながら、部屋に足を踏み入れる。物音に気付いたのか、バイザーに赤い光が点滅し、デジモンが体を起こした。

 まず輝二が話しかける。

「ネプトゥーンモンに言われて来た。お前が十闘士の世界に連れていってくれるというデジモンか?」

「ええ。そういう事もできます」

 デジモンは身軽な動作で立ち上がり、答えた。改めて拓也達に顔を向ける。

「初めまして。僕はネプトゥーンモン様の部下でユニモンといいます。お二方の事は既にネプトゥーンモン様から聞いています」

「そうか、なら話は早い。俺達を十闘士の世界に連れていってほしいんだ」

 拓也が安堵の息を吐きながら頼む。ユニモンは頷きかけて、何かに気づいたように止まった。

「……ネプトゥーンモン様は来られないんですね」

 それは質問にも確認にも聞こえたが、拓也達は首を縦に振った。

 ユニモンはしばし黙り込んだ後、多分大丈夫でしょうと、顔を上げた。

「あの人は命を捨てる事だけはしないと誓っていますから。あの誓いを破るくらいなら死んだ方がまし、って何か矛盾してますけど。とにかく心配いりません。僕達は早くこの世界から離れましょう」


 ユニモンは前足で器用に木戸を開けて、拓也達を外に連れ出した。隣に並んでみるとユニモンの体格が良く分かった。背は拓也達より30センチは高く、中学生二人が乗っても負担にはなりそうにない。

 近くにあった木箱を踏み台に、ユニモンの背によじ登る。輝二が拓也の背につかまり、拓也がユニモンの首を抱きかかえた。

「しっかりつかまっていてくださいね」

 ユニモンが黒い羽を精一杯広げた。それを一度大きく振って、虚空に舞い上がる。

 頭部の角が白い光を放った。光はユニモンの飛ぶ先へ伸び、眩しい渦を作り出す。

 飛び込もうとする三人を、衝撃波が襲った。ユニモンの姿勢が大きく傾く。

 否、それは衝撃波ではなく稲妻だった。拓也達に向かって金色の稲妻が幾筋も降ってくるのだ。

「これでは……ゆがみが安定しない!」

 ユニモンは軌道を変え、稲妻から逃れようと複雑に飛ぶ。橋の下をくぐり、塔をかすめる。が、稲妻は障害を破壊しながら追いすがってくる。次第に追い詰められていく。

「こうなれば、強引に次元を超えます!」

 ユニモンが再び光の渦を作り出した。それはしくも異世界の四人が飛び込んだ渦のあった場所。

 一閃の稲妻が塔を捉えた。拓也達の頭上にウルカヌスモンの遺物がなだれ落ちる。

「うわあああああ!」

 誰のものかも分からない悲鳴が響く中、三人は光の渦に飛び込んだ。



 多々ある世界の狭間。

 無理な体勢で飛び込んだため、三人は激しい回転に巻き込まれていた。

「絶対離さないでください! ここではぐれたら、どんな世界に飛ばされるか!」

 ユニモンが必死に背中の乗客に呼びかける。

 翼を広げ、足で四方八方を蹴り、ようやく姿勢を安定させる。

 そこで気づいた。

「お二人は!?」

 慌てて振り向くと、人間二人が黒い渦に吸い込まれるところだった。あの渦は強引に次元を超えた影響か、はたまた異次元世界から何か力が働いたのか。確実に言えるのは、あの二人がどこか分からない世界に落ちてしまったという事だった。

 懸命に翼を動かしてみるが、次元移動の流れに乗ってしまったユニモンの体は謎の渦から離れていくばかり。途中の行先変更はできない。

 主から任された客人と、ものの数分ではぐれてしまった。

「……マジっすか」

 ユニモンが妙な言葉を吐いたのも、無理からぬ事であった。


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第二部の始まりは拓也サイドでした。といっても前半はネプトゥーンモン大活躍でしたけど。大活躍と書いて死亡フラグと読む←

ユニモンはもちろんお正月のユニモンです。登場して早々にはぐれちゃいました(笑)


今回はぱろっともんさんのコラボへのつなぎの話でもあります。信也は今あんな状態だし、atonementとはコラボで絡みがあるし、ということで拓也と輝二が向かいます。ぱろっともんさん、うちの二名をよろしくお願いします。


今回初登場のデジモン

アポロモン