キャンドモン達の村を出発してから三日。
荒れ地の真ん中で、大輔は焚火に枝をくべていた。見渡してもあるのはまばらな木立と草。あとは今までたどってきて、これからも続いているレール。
危険はなさそうだが、一応順番で見張りをする事になった。女の子の泉と年下の友樹、そして頼りにならなそうなネーモンを除いた五人で。今は大輔とブイモンが起きている時間だった。
友樹に目をやると、スピリットの入ったデジヴァイスを大事に握って、幸せそうに眠っている。
これでスピリットを手に入れた子どもは二人目だ。きっと拓也、泉、純平もスピリットを手に入れる。そして、この世界を混乱させているというケルビモンを倒しに行く。
大体はそんな所だ。けど。
「このまま線路伝いでいいのかなぁ」
つい口に出た思いに、ブイモンが反応した。
「なんだよ大輔、いきなり」
大輔はうなりながら体を後ろに曲げる。焚火に照らされたレールが天井を這っている。
その姿勢のまま声を絞り出す。
「拓也達にはスピリットを探すって目的が、俺達には金色ペンダントの中身を探すって目的が、一応あるだろ」
「ああ」
「でもスピリットって、俺達のデジメンタルみたいに、デジヴァイスに反応があるわけじゃないみたいだし」
「確かに輝二とかいうやつの時も、友樹の時も突然だったよな」
ブイモンがたき火に適当な枝を放り込む。小さく火花が散った。
大輔も背伸びした姿勢が辛くなってきて、焚火の方に頭を戻した。
「俺達なんか、探してるのが何かもいまだに分かんないし」
「光子郎や京がいれば何か調べてくれたかもしれないけど」
ブイモンの言葉に大輔は顔をしかめた。目の前に敵やら倒すべきものやらがあって、それに突き進む。それが大輔やブイモンの好きなやり方だった。調べたり、考えたりするのは大輔達の柄ではない。
だが現状として、(曲がりなりにも)デジモンに詳しいのは大輔とブイモンだけ。ボコモンの情報は不明確な部分が多いし、他の子ども達はデジタルワールド初心者だ。必然的に、考えをまとめる役が大輔に回ってきてしまう。大輔としてはそれだけで頭を抱えたくなる事態だった。
「結局どこに行けばいいのか、何をすればいいのかよく分かんねえんだよな。なんかせめて、どこそこへ行けって看板とかないか?」
適当な事を言って辺りを見回してみる。
もちろんそんなご都合主義なものはない。
ブイモンが大きなあくびをした。
「大輔、そろそろ交代の時間じゃないか? 俺もう眠い……」
大輔もD-ターミナルの時計を見る。深夜過ぎを示した時計を見ると、途端に眠くなってきた。
二人は純平を起こして、そそくさと思考を放棄することにした。普段やらないことなど、やっても疲れるだけなのだ。
誰かに呼ばれている気がした。
遠くから聞こえるようにも、すぐ横から聞こえるようにも感じた。
その声は何かを求めている。大輔に、みんなに、何かをしてほしいと願っている。
声の主に手を伸ばそうとして、大輔は目を覚ました。
「夢、か?」
つぶやいた大輔の手は、枕元に置いたD-3を握っていた。
まだ夜の明けきらない薄暗い中で、画面が光を放っている。
雑音に混じって、微かな声が聞こえる。
『――森の――ミナルへ』
大輔に聞き取れたのはそれだけだった。声は途絶え、D-3は元のように沈黙した。
D-3を引き寄せながら、大輔は体を起こす。
「森の、何だって?」
「ターミナル。俺にはそう聞こえた」
見ると、拓也がたき火のそばに座っていた。その手には赤いデジヴァイス。
ブイモンや他の仲間達が眠っている中、見張りだった拓也だけがメッセージを聞いていたらしい。
大輔は立ち上がり、拓也に歩み寄る。
「さっきの声、俺達をこの世界に呼んだ声だよな」
大輔の言葉に拓也も頷く。その表情は心なしか弾んでいる。
「俺達に『未来を決めるゲームがスタートした』って言った声だ」
「って事は、その森のターミナルって所に行けば具体的に俺達がどうしたらいいのか分かるって事じゃないか?」
「やっぱりそうだよな!?」
焚火に照らされた二人の顔は紅潮している。目標さえ決まれば、それに向かって突っ走る。そのやり方は二人の性格にピッタリだった。
「よーし、なら森のターミナルに行くしかないぜ!」
大輔がこぶしを握って声をあげた。
そうと決まったら次にやる事はただ一つ。
ぐっすり眠っていた仲間達は、興奮した大輔と拓也に叩き起こされた。
日も出ない時から起こされて全員が不機嫌だったのは、言うまでもない。
◇◆◇◆◇◆
今回は3.5話相当と言いますか、事情整理兼情報出しの話でした。本来のタイミングで森のターミナルの話を入れ忘れてたなんてそんな事は……あります(泣)
次回からアニメでいう4話相当の話です。毎イベントを逐一消化しているから仕方ないのかもしれませんが、進行が超ゆっくりですね(苦笑)