第104話 俊神との決着! 見えずに見えるもの | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

(1/23メルクリモン死亡シーンを改定しました)



 光のバリアを間に挟んで、俺達は向かい合っている。
 マグナモンも動かないメルクリモンを凝視している。
「貴様、オリンポス十二神族の一柱と見受ける。名を名乗れ」

 マグナモンが声を張っても、メルクリモンは微動だにしない。ただ無言でこっちを見ている。何を考えてるのか全く分からない。

「話すだけ無駄、っていうより会話する気もないみたいだな。相変わらずだ」

 低い声で言ってやりながら、俺はデジヴァイスを取り出す。その横で、友樹がマグナモンのために補足する。

「あれは十二神族の一人メルクリモン。目的のためには仲間も殺すひどいやつだよ。武器は短剣が一本で、一番すごいのは」

「目視しえない速度での移動か」

 マグナモンはもう敵の能力を把握したらしい。さすがだ。

 自分の事を話されても、メルクリモンは動かない。
 バリアに触れればメルクリモンはダメージを受けるだけ。それはさっき証明済みだ。でも俺達も、バリアを解除しないと攻撃できない。となると。
「あいつ、マグナモンがバリアを解除するのを待ってるんだな」
「でも、動かれたら僕達、目じゃ追えないよ。どうするの?」

 俺の言葉に、友樹が心配そうな声を漏らす。問題はそこだ。

 そこでふと、さっきの光景を思い出した。

 メルクリモンが襲ってきた時、マグナモンは何かに耳を澄ましていた。

 いや、耳じゃない。何か耳でも目でもない感覚で、動きを察知していた気がする。

「もしかして、マグナモンはメルクリモンの居場所が分かるんじゃないのか? 目にも耳にも頼らないで」

 俺の勘通り、マグナモンが頷いた。

「ああ。デジモンの電脳核が発する波動が、と言っても人間には理解しがたいか。とにかく、居場所は分かる」

 友樹の表情が明るくなった。

「じゃあ、マグナモン一人でもメルクリモンと互角に戦えるかも!」

「それはダメだ」

 俺はすぐさまさえぎった。

「これは俺達の戦いなんだ。助けてもらうのはアリでも、マグナモンに代わりに戦ってもらうなんてのはナシだろ。たまたまこの世界に落ちてきたデジモンに肩代わりさせるのはずるいって」

 友樹は視線をさまよわせて「え、でもそうしたら……」ってぼそぼそ言ってたけど、はっきり言う前にマグナモンが頷いた。

「分かった。ならば俺も直接手は出さない」

「サンキュ。……けど、アドバイスは頼むぜ」 




「スピリット・エボリューション!」

「アグニモン!」

「ダブルスピリット・エボリューション!」

「フロストモン!」


「行くぞ!」

 マグナモンの掛け声とともに、バリアが消える。

 直後、メルクリモンも消えた。

 いや、消えたんじゃない。高速で移動し始めたんだ。目にも留まらない速度で、今も俺達の近くを駆け回っているはずだ。

 俺達三人はそれぞれ距離を取った。誰かが攻撃された時に巻き添えにならず、かつ攻撃してきたメルクリモンを迎撃できる、そんな距離だ。

 俺は息を整えた。右足に炎を込めて、いつでも撃てるようにためておく。

 目を細めて、辺りの気配に集中する。


「フロストモン!」

 マグナモンの声。

「《サウザンドフィスト》!」

 直後、フロストモンの体がくの字に折れた。

 その正面には絶え間なくこぶしを打ち込むメルクリモン。

「ちっ、《バーニングシュート》!」

 即座に足を振りぬいた。

 が、炎の球が届く前にメルクリモンの姿は消え失せる。

 フロストモンが腹を押さえて膝をついた。

 俺は歯を噛みしめた。次はどこから来るんだ。ダブルスピリットしたフロストモンでもあんな風になる攻撃を、まともに食らう訳にはいかない。攻撃に備え、自然と全身が硬くこわばった。

「後ろだ!」

 振り向きながら足を踏ん張った。両腕を体の前に掲げる。

 腕全体に痛みが走った。弾幕のようなこぶしの向こうに、無表情のメルクリモンが見える。

 負けてたまるか。

 俺は弾き飛ばされないよう、足に力を込めた。


りきむな!」


 突然の言葉に、思わず力が抜けた。

 こぶしの勢いに押され、体が吹き飛ぶ。柔らかい地面を乱暴に転がった。

 顔を上げると、もうメルクリモンはいなかった。その代わり、俺を見つめるマグナモンと目が合った。

 マグナモンは俺を正視したままもう一度言う。

「力むな。攻撃を全て受け止めようとするな」

 どういう意味だ。

 それを聞く前に、「右だ!」と叫ばれた。入りそうになった力を、俺はあえて抜いた。

 右肩に一撃。

 だが、それだけだった。十二神族の力に押されて、軽い体は地面に転がった。二撃目からも三撃目からも逃れて。痛みもほとんど感じない。

 そういえば、最初に不意打ちされた時も。「信也」としての俺はずっと軽い。しかも攻撃されるなんて思ってもいなかったからリラックスしていた。

 だから人間のままで攻撃をくらったのに、大したダメージにならなかったんだ。

 《サウザンドフィスト》は一発の重みよりスピードを重視し、より多くのこぶしを打ち込む事でダメージを生み出す。

 逆に言えば、一発の強さは大した事ないんだ。

 マグナモンが言ってくれた通り、力まずにいれば。
 勝てる。


「正面!」

 飛んできたこぶしが腹部を捉える。その勢いで、俺はバク宙した。空中で、両足が炎に燃え上がる。

 着地と同時に踏み切り、こぶしの嵐へ旋風脚を叩き込む。

「《サラマンダーブレイク》!」

 指を、手首を、前腕を押しのけて、敵の脇腹に俺の右足がめり込む。

 よろめくメルクリモン。俺は間髪入れず、両腕に力を込めた。それも全力を。

「《バーニングサラマンダー》!」

 胸部に二発。

 黄金色の炎がメルクリモンの全身から立ちのぼった。メルクリモンが咆哮を上げる。

 そして、地面へ音を立てて倒れた。動かなくなった。


 俺がデジヴァイスを手に歩み寄ると、メルクリモンの体にはデジコードが浮かび上がった。長くは持たないのは目に見えている。しかし、自分の存在がもうすぐ消えるというのに、メルクリモンは表情一つ変えない。

 俺はメルクリモンの横に立った。

「最後に一つ聞いておきたい事がある。あの時、不意打ちしてウェヌスモンを殺したのはなぜだ」

 メルクリモンは空に目を向けたまま、淡々と答える。

「言ったはずだ。我々の目的に添わぬ者は、仲間であろうと粛清すると」

「仲間を殺してでも果たさなきゃならない目的なんてあるのかよ! そんな手段であんたらの世界を救って、何になるんだよ!」

 のどをからしそうな俺の叫び。メルクリモンは億劫おっくうそうに息をついた。

「我は昔も今もユピテルモンの伝令。そのめいを伝え、実行するのみ。最期の時まで」

 最後の言葉の意味に気付いた時には、もう遅かった。

 メルクリモンの口元が動いたかと思うと、そこから全身が黒ずんでいった。突然の事で唖然とする俺達の前で、黒くなった体が土くれのように崩れていく。

 デジコードも変色し、ノイズになって消えた。もうスキャンして浄化することもできない。

「そんな……自分で、自分を」

 マグナモンに支えられた友樹が、ようやく声を絞り出す。多分、自分を破壊するプログラムを仕込んでたんだろう。やがて全身がデータのくずになって消えた。

 一度もデジモンらしい感情を見せる事のないまま、メルクリモンは息絶えた。

 結局、メルクリモンの考えを理解する事はできなかった。


 俺は進化を解いて、マグナモンの方を向いた。今の気分を拭い去って、笑顔を作って駆け寄る。

 マグナモンも友樹を支えながら、満足そうに頷いてくれた。

「見事だ。わずかな助言を即座にものにしたな。ロイヤルナイツに喧嘩を売るだけの事はあるかもしれぬ」

「えっ、と、そこはもう突っ込まないでくれよ!」

 焦る俺に、マグナモンが目を細めた。微笑んだらしかった。

 俺はズボンで手を拭ってから、改めてマグナモンを見る。

「ありがとな。敵の居場所とか、あのアドバイスとか。マグナモンがいなかったら勝てなかった」

「礼には及ばん」

 マグナモンも冷静に答えてくれた。



「それにしても、アグニモンだけで十二神族を追い詰めるなんて」

 友樹が俺を見ながら、ぽつりとつぶやいた。俺はにっと笑って胸を張る。
「そりゃ、俺が強いからだろ」

「少し褒めすぎたようだな」

 マグナモンの視線が冷える。慌てて胸を張るのをやめる俺。


「強いっていうのは間違ってないけど……でも……」

 友樹は相変わらずの浮かない表情で、さっきの戦いについて何か考えているみたいだった。



 

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前回の最後で「視点があちこちいく」という事を書きましたが、戦闘中に視点変更があると戦闘のスピード感を殺しかねないな、と思ったので一視点ずつ一気に行くことにしました。言ってることがコロコロ変わって申し訳ないです。

マグナモン&信也&友樹組は、後はエンディングのみといったところです。多分。


マグナモンが正直ほとんど戦ってないですが……彼はこの後壮絶な戦いが待ち構えているので、あまり消耗させない方がいいだろうか、と思ってこうなりました。間違ってもボコボコになんてできなかった(汗)