今年も星流の拙作をお楽しみいただければ幸いです。
さて、やっぱり予想通り元日になんか間に合わなかったお正月特別編です。
去年よりは真面目な話……かもしれない。
―――
初めまして。僕はユニモンといいます。四足に白い体、目を覆うバイザー、額の角と一対の翼を持つ獣型デジモンです。
これだけでは、だから何だと言われそうですね。僕が何者かちっとも分からないという方も多いと思います。
でも、僕の主が海を束ねる者にしてオリンポスに名を連ねるネプトゥーンモン様だと言えばお分かりになる方も多いでしょう。僕としては虎の威を借る狐ならぬ神の威を借る馬で心苦しいのですが。
でもね、ネプトゥーンモン様も今では威厳が板につくようになりましたが、僕が知り合ったばかりの頃は世話の焼ける方だったんですよ。今日はその頃の話でもしましょうか。
今は荒れ果てた僕達の世界ですが、昔は十闘士のデジタルワールドにも負けないくらい美しい世界だったのです。ネプトゥーンモン様の居城は深海の底にありましたが、無骨な石造りながら、人工太陽で明るく照らされていました。
僕が城にいる時は、大抵外れの
なので、ネプトゥーンモン様がこそこそと入り込んできた時も、僕はちょっと顔を上げてため息をつくだけでした。
「ネプトゥーンモン様、僕の厩は隠れ家じゃないんですよ」
ネプトゥーンモン様は厳重にかんぬきをかけてから、こちらを振り向きます。そして眉を下げて、不機嫌な声を出しました。
「分かっている。だがここ以外に立てこもる場所が思いつかないんだ、仕方ないだろう!」
歴史上二番目の「五度目の進化をした者」または「神の領域に達した者」。
ネプトゥーンモン様は良くも悪くも異名の似合わないヒトでした。だって、普通神様は馬小屋に立てこもったりしません。
確かに厩は敷地の端にあり、見つかりにくい場所でしたが。
立てこもった神様は、戸の隙間から外の様子を伺っています。その尾が落ち着きなく上下しているのを見れば、精神状態は明らかでした。厩に来た時から大体想像はついていましたが。
「マーメイモン様ですね」
ネプトゥーンモン様の尾がぴたりと止まりました。首が小さく縦に動きます。
マーメイモン様というのは、海洋でネプトゥーンモン様に匹敵する権力を持った方でした。ネプトゥーンモン様がシャウジンモンだった頃は、南洋のシャウジンモン、北洋のマーメイモンと呼ばれていたほどです。僕がネプトゥーンモン様の部下になる少し前に、二人は同盟を結んでいました。
……これで両者の関係が安泰であれば、僕も苦労せずに済んだんですが。
いっこうに話し出さないネプトゥーンモン様に、僕は別の質問をしました。
「今度はマーメイモン様に何言ったんですか?」
「物をやっただけだ。気に障る事は言ってない」
隠れてるくせに、自信満々に断言するネプトゥーンモン様。
「分かりました、質問を変えます。マーメイモン様に何をあげたんですか?」
「長い話になる。実は――」
「……zzz」
「寝たふりをするな」
「ばれましたか」
僕は舌を出しました。実際眠かったのですが、ネプトゥーンモン様はしばらく居座るつもりのようです。観念した僕は前足を立てて座りました。
ネプトゥーンモン様も尾を前に出して、板張りの戸を塞ぐように寄りかかりました。二本足のデジモンで言うあぐらです。
「先日ユピテルモンとの
「はい」
「その戦利品の中に装飾の美しい竪琴があった」
「それをマーメイモン様にあげたんですね」
ネプトゥーンモン様が「分かるなら聞くなよ」という顔をしました。でも気を取り直して続けます。
「マーメイモンは歌好きだし美術品には目がない。同盟維持の意志を示すにはいい品だと思って贈ったんだが」
その続きはネプトゥーンモン様からは聞けませんでした。
というのも、厩の戸が激しくノックされたからです。戸にもたれていたネプトゥーンモン様の体が勢いよく跳ね上がりました。
「ネプトゥーンモン様? ネプトゥーンモン様! ここにいらっしゃるのでしょう!? 開けてくださいまし!」
聞き覚えのある、歌うようなソプラノ。
僕はバイザーのライトを閃かせて、同情の眼差しをネプトゥーンモン様に送りました。
「マーメイモン様の声ですね」
僕の静かな言葉に、ネプトゥーンモン様は慌てて口の前に指を立てました。
更には戸を内側から支えて、何が何でも開かないように押さえました。断固として、いないふりをするようです。
「マーメイモンも怒りますよ! 無理やりにでも開けてしまいますよ!」
直後、ノックの音が低く重い音に変わりました。つまり、実力行使で戸を破り始めました。
必死に戸を押さえるネプトゥーンモン様の顔は青から赤に変わっています。ユピテルモンとの一騎打ちの時より馬力が出てたんじゃないでしょうか。
海洋でもトップの力を持つ二人がぶつかり合い、厩が苦しそうな音を立てます。
決断をしてからは即行でした。
僕は口の中で空気圧を高めます。
「《ホーリーショット》!」
吐き出した気功弾は正確にかんぬきに当たり、留め金から弾き飛ばしました。
もちろん、戸が勢いよく開きます。
ついでに戸にもたれていたネプトゥーンモン様が連続二回転前転しました。
壁に頭をぶつけたネプトゥーンモン様は、恨めしそうに僕を睨みます。
「う、裏切り者……」
僕はそっぽを向いて、来たるべき「嵐」に備え、素早く厩の端に避難しました。
その横を黒い風が吹き抜けます。黄金の
壁に張り付くネプトゥーンモン様と、それを見下ろすマーメイモン様。腕っぷしに似合わぬ可愛い顔の持ち主ですが、今日は眉も口もへの字に曲がっています。
「ひどいですわ、ネプトゥーンモン様! 竪琴なんて……マーメイモンの不器用さをご存知のくせに!」
そう言って突きつけた竪琴は、なるほど、弦が全て切れています。確かに根拠のある噂によれば、マーメイモン様は歌と錨以外は下手くそです。
ネプトゥーンモン様は視線をそらしたまま小声で言い返します。
「弦が切れたくらいで騒ぐことないだろう。張り直して練習すればいい」
「何年かかると思ってるんですか! 満足に弾けるようになるまでに寿命がきてしまいます!」
「そう鍛練しないから不器用なままなんだ。マーメイモン殿の船にも楽器は多くあるのに、あれでは宝の持ち腐れだ。竪琴を贈ったのもマーメイモン殿がもう少しましになるようにだな――」
最後まで言う前に、竪琴がネプトゥーンモン様の顔面にぶち当たりました。
「そんな事言うなら、もう戦には加勢しませんから! ネプトゥーンモン様なんて、ユピテルモンの雷に焼かれてしまえばいいんです!」
マーメイモン様は涙声で言い放って、両手で顔を覆って駆け去ってしまいました。僕が止める暇もありませんでした。
ネプトゥーンモン様の顔面には、竪琴の跡が魚拓のように残りました。呆けた顔と竪琴魚拓の揃ったネプトゥーンモン様の顔は、なかなかの見ものでしたよ。
必死に笑いをこらえる僕に、ネプトゥーンモン様がゆっくり顔を向けました。
「マーメイモン殿は、何が不服だったのだ? 下手ならば訓練すればいい事だろう」
「あなたは贈り物にトレーニング用品をあげたつもりだったんですか……」
僕は盛大なため息をつきました。マーメイモン様が怒るのも当然です。
ネプトゥーンモン様はしばらく考え込んだ後、僕に声をかけました。
「ユニモン、私の代わりにマーメイモン殿の元に行ってとりなしてくれないか?」
「自分で行ってください」
「自分で解決できないから言っている」
「下手なら訓練しろと言ったのは誰ですか」
「…………」
黙り込んだネプトゥーンモン様を放置して、僕は干し草に顔をうずめました。
その後? さあどうでしたっけね。僕が手紙を届けたり何だりしたような気がしますが。何しろ800年くらい昔の話なのでよく覚えてません。
おや、城の中が騒がしくなってきました。僕も最近は暇をしていましたが、そろそろお呼びがかかるのかもしれません。体力を温存するために、しばし休んでおきたいと思います。
それでは、また会う日まで。
☆★☆★☆★
今年は午年ということで、ユニモンを主人公にした話を書いてみました。どっちかっていうとネプトゥーンモンの恥ずかしい過去話ですが(笑)ネプトゥーンモンのモデルであるポセイドン(ネプトゥヌス)は馬の神でもあるらしいんで、今回の話にネプトゥーンモンと馬デジモンを出してみました。
フロ02本編の800年ほど前の話なので、ネプトゥーンモンもけっこう気さくだったりへたれてたりします。もちろん、コラボ中で「プレゼントのセンスがない」と言われた大元はこれです。
今年は時間も(ネタも)ないですし、何よりコラボ優先ですので、正月特別編はこれきりです。
次からは通常運転に戻ります。
……信也の恨みがましい視線なんて感じないんだからっ!(汗)
さて、年末年始に書けなかった感想を書きにいかなくては……忙しいのであと二、三日かかるかもです(汗)
今回登場したデジモン