友樹が進化した。
その姿を見たボコモンの手に、一瞬で古い本が現れた。
どこにしまってたんだ、と聞く間もない。新たなデジモンと本を見比べ、猛然とページをめくる。
手が止まり、ボコモンが叫んだ。
「これじゃ! 氷の闘士チャックモンじゃ!」
「じゃあ、友樹が十闘士の二人目か!」
大輔も衝撃より嬉しさがまさって、こぶしを握りしめた。
氷なら火のデジモン相手にうってつけだ。
それを察したのか、岸辺にいたキャンドモン達が、一歩、二歩と後ずさる。
開いた距離をチャックモンが、一歩、二歩と詰める。
張りつめた沈黙。
先に耐えられなくなったのはキャンドモンの方だった。
「《ボンファイア》!」
一体のキャンドモンがチャックモンめがけて火を吐いた。
チャックモンの手が素早く背中に伸び、ランチャーをつかむ。
「《スノーボンバー》!」
四つの銃口から放たれた雪玉が、火の玉を捉え、蒸気に変える。
一体の果敢さに勢いを得て、他のキャンドモンも次々にチャックモンを狙う。
「《ボンファイア》!」
「《ボンファイア》!」
「《ボンファイア》!」
「危ない!」
大輔が声を上げる。
が、当のチャックモンは眉ひとつ動かさなかった。
自分に迫る火の玉に次々とランチャーを向け、連射する。
弾は正確に火を消し去っていった。慣れた射撃訓練でもするかのように、チャックモンはランチャーを操った。
技が通じないことに気づいたキャンドモン達が、おののき動きを止めた。
チャックモンは手を止めなかった。
ランチャーを背中に戻し、足を踏みしめる。ブーツの中からスキー板が一組飛び出した。
凍りついた川を、板に乗って疾走する。
「《カチコチコッチン》!」
岸辺のキャンドモン達が次々と氷漬けになっていく。
「大輔、今のうちに!」
ライドラモンに言われて、大輔もやるべきことを思い出した。崖に拓也が残されたままだ。
大輔はライドラモンの背に飛び乗った。
キャンドモン達はチャックモンの相手で精一杯だ。その隙に岩に跳び乗り、拓也の場所まで駆け上がる。
拓也は腕や足を押さえて、その場にうずくまっていた。
「大丈夫か」
大輔が手を伸ばすが、拓也はその手を取らない。その視線は谷の方をさまよっている。
「俺より……友樹は?」
大輔はにやりと笑ってチャックモンを指さした。それを見た拓也は痛みも忘れて声を上げた。
「進化したのか、あいつ」
「きっと拓也のおかげだよ」
大輔の言葉に、拓也は不思議そうな顔をした。大輔に視線を向ける。
「拓也は自分がおとりになってでも、嘘をついてでも友樹を助けようとした。その気持ちが友樹のスピリットを目覚めさせたんだ」
ライドラモンに説明されても、本人はピンとこないようで首をかしげていた。
「俺、そんな立派な事しようとしてやったわけじゃ……」
谷底では氷漬けになったキャンドモン達にデジコードが浮かび上がっていた。
チャックモンがデジヴァイスを手にする。
「いじめ、いじわる許さない! このデジヴァイスが氷のように勇気を固めて浄化する! デジコード・スキャン!」
デジコードがデジヴァイスに吸い込まれ、後には呆けた表情のキャンドモン達が座り込んでいた。
自分達が何をしていたのか分かっていない様子で、戸惑って辺りを見回している。
大輔達が拓也を連れて降りると、真っ先に進化を解いた友樹が駆け寄ってきた。
「拓也お兄ちゃん! 生きてるよね!?」
拓也は火傷の残る手で友樹を小突いた。友樹の手前、強がって笑っている。
「当たり前だろ。俺があれくらいの火でやられるか」
拓也の軽口に、友樹もようやく安心した笑顔を見せた。
泉や純平達もその場に集まった。
「これからどうするのー?」
ネーモンの質問に、純平が指を一本立てた。
「決まってるだろ。まずは拓也の手当てをしないとな。キャンドモン達に責任取ってもらって、しっかり世話してもらおうぜ」
「そうだな。最初からここに泊まるつもりだったんだし」
大輔も拓也を支えながら賛成する。拓也はまだ自分の足に体重をかけられない。
進化を解いたブイモンが腕を組んだ。
「それじゃ、俺達が気絶させた長老をたたき起こさないとだな!」
全員から笑い声が起きた。
「せっかくデジメンタルを奪うチャンスだったというのに、キャンドモンのやつらしくじりやがって!」
戦いの様子を、谷の上から見ている者がいた。
夜が形を取ったような黒い犬。きちんと種族名を挙げるならば、ケルベロモンである。
炎の町でフレイドラモンに吹っ飛ばされた、あのケルベロモンである。
「しかもスピリットまで手に入れるとは。これはもっと作戦を練らないといけないな」
独り言をつぶやいていたケルベロモンは、背後から明かりが近づいているのに気付かなかった。
「ん!?」
振り向いた時には、トレイルモンの巨大な顔が目の前に。
よける暇もなかった。
客車に乗って浅い眠りについていた輝二は、微かな揺れに目を覚ました。
窓の外に目をやると、ちょうど谷を越えようとする辺り。
トレイルモンの前方から地平線の彼方へ、何かが飛んでいくのが見えた。気のせいか、風を切るような甲高い音も聞こえる。悲鳴に聞こえなくもない。
「……線路の石でも飛ばしたのかな」
飛んでいった何かが見えなくなると、輝二は興味を失い、まぶたを閉じた。
◇◆◇◆◇◆
年末ぎりぎりで戦闘終了。
今年の更新はこれで最後です。感想書きには出没するかもしれません。
あー、お正月特別編まだ書いてないやー。書かなきゃ。
とにもかくにも、皆様良いお年を。