〔13〕 チャックモンの戦 | 星流の二番目のたな

星流の二番目のたな

デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

 友樹が進化した。
 その姿を見たボコモンの手に、一瞬で古い本が現れた。
 どこにしまってたんだ、と聞く間もない。新たなデジモンと本を見比べ、猛然とページをめくる。
 手が止まり、ボコモンが叫んだ。
「これじゃ! 氷の闘士チャックモンじゃ!」
「じゃあ、友樹が十闘士の二人目か!」
 大輔も衝撃より嬉しさがまさって、こぶしを握りしめた。

 氷なら火のデジモン相手にうってつけだ。

 それを察したのか、岸辺にいたキャンドモン達が、一歩、二歩と後ずさる。

 開いた距離をチャックモンが、一歩、二歩と詰める。


 張りつめた沈黙。

 先に耐えられなくなったのはキャンドモンの方だった。

「《ボンファイア》!」

 一体のキャンドモンがチャックモンめがけて火を吐いた。

 チャックモンの手が素早く背中に伸び、ランチャーをつかむ。

「《スノーボンバー》!」

 四つの銃口から放たれた雪玉が、火の玉を捉え、蒸気に変える。

 一体の果敢さに勢いを得て、他のキャンドモンも次々にチャックモンを狙う。

「《ボンファイア》!」

「《ボンファイア》!」

「《ボンファイア》!」

「危ない!」

 大輔が声を上げる。

 が、当のチャックモンは眉ひとつ動かさなかった。

 自分に迫る火の玉に次々とランチャーを向け、連射する。

 弾は正確に火を消し去っていった。慣れた射撃訓練でもするかのように、チャックモンはランチャーを操った。
 技が通じないことに気づいたキャンドモン達が、おののき動きを止めた。

 チャックモンは手を止めなかった。

 ランチャーを背中に戻し、足を踏みしめる。ブーツの中からスキー板が一組飛び出した。

 凍りついた川を、板に乗って疾走する。

「《カチコチコッチン》!」

 岸辺のキャンドモン達が次々と氷漬けになっていく。


「大輔、今のうちに!」

 ライドラモンに言われて、大輔もやるべきことを思い出した。崖に拓也が残されたままだ。
 大輔はライドラモンの背に飛び乗った。

 キャンドモン達はチャックモンの相手で精一杯だ。その隙に岩に跳び乗り、拓也の場所まで駆け上がる。

 拓也は腕や足を押さえて、その場にうずくまっていた。

「大丈夫か」

 大輔が手を伸ばすが、拓也はその手を取らない。その視線は谷の方をさまよっている。

「俺より……友樹は?」

 大輔はにやりと笑ってチャックモンを指さした。それを見た拓也は痛みも忘れて声を上げた。

「進化したのか、あいつ」

「きっと拓也のおかげだよ」

 大輔の言葉に、拓也は不思議そうな顔をした。大輔に視線を向ける。

「拓也は自分がおとりになってでも、嘘をついてでも友樹を助けようとした。その気持ちが友樹のスピリットを目覚めさせたんだ」

 ライドラモンに説明されても、本人はピンとこないようで首をかしげていた。

「俺、そんな立派な事しようとしてやったわけじゃ……」


 谷底では氷漬けになったキャンドモン達にデジコードが浮かび上がっていた。

 チャックモンがデジヴァイスを手にする。

「いじめ、いじわる許さない! このデジヴァイスが氷のように勇気を固めて浄化する! デジコード・スキャン!」

 デジコードがデジヴァイスに吸い込まれ、後には呆けた表情のキャンドモン達が座り込んでいた。

 自分達が何をしていたのか分かっていない様子で、戸惑って辺りを見回している。

 大輔達が拓也を連れて降りると、真っ先に進化を解いた友樹が駆け寄ってきた。

「拓也お兄ちゃん! 生きてるよね!?」

 拓也は火傷の残る手で友樹を小突いた。友樹の手前、強がって笑っている。

「当たり前だろ。俺があれくらいの火でやられるか」

 拓也の軽口に、友樹もようやく安心した笑顔を見せた。

 泉や純平達もその場に集まった。

「これからどうするのー?」

 ネーモンの質問に、純平が指を一本立てた。

「決まってるだろ。まずは拓也の手当てをしないとな。キャンドモン達に責任取ってもらって、しっかり世話してもらおうぜ」

「そうだな。最初からここに泊まるつもりだったんだし」

 大輔も拓也を支えながら賛成する。拓也はまだ自分の足に体重をかけられない。

 進化を解いたブイモンが腕を組んだ。

「それじゃ、俺達が気絶させた長老をたたき起こさないとだな!」

 全員から笑い声が起きた。




「せっかくデジメンタルを奪うチャンスだったというのに、キャンドモンのやつらしくじりやがって!」

 戦いの様子を、谷の上から見ている者がいた。

 夜が形を取ったような黒い犬。きちんと種族名を挙げるならば、ケルベロモンである。

 炎の町でフレイドラモンに吹っ飛ばされた、あのケルベロモンである。

「しかもスピリットまで手に入れるとは。これはもっと作戦を練らないといけないな」

 独り言をつぶやいていたケルベロモンは、背後から明かりが近づいているのに気付かなかった。

「ん!?」

 振り向いた時には、トレイルモンの巨大な顔が目の前に。

 よける暇もなかった。



 客車に乗って浅い眠りについていた輝二は、微かな揺れに目を覚ました。

 窓の外に目をやると、ちょうど谷を越えようとする辺り。

 トレイルモンの前方から地平線の彼方へ、何かが飛んでいくのが見えた。気のせいか、風を切るような甲高い音も聞こえる。悲鳴に聞こえなくもない。

「……線路の石でも飛ばしたのかな」

 飛んでいった何かが見えなくなると、輝二は興味を失い、まぶたを閉じた。



◇◆◇◆◇◆




年末ぎりぎりで戦闘終了。

今年の更新はこれで最後です。感想書きには出没するかもしれません。

あー、お正月特別編まだ書いてないやー。書かなきゃ。


とにもかくにも、皆様良いお年を。