第90話 地に降りた島の恵み 随一の果実! | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

 進んでも進んでも、生ゴミの袋の中みたいな景色と臭い。それにさっきからきつい坂道。
「どごまでごんななのー?」
 葉月がハンカチで口を覆いながらげんなりしている。私もため息を飲み込む。こんな事なら代わりに純平に頼めばよかった。


 沈んだ空気を破ったのは巧だった。急に進む先を指さして声を上げた。
「あそこ、何か光ってるぞ!」
 私も目をこらすと、木々の向こうにスポットライトのような光が見えた。
「行ってみよう!」
 巧に続いてみんなが走り出す。


 そして予想通り、腐ったリンゴを踏んだ巧は派手に転んだ。更に、顔が腐りかけメロンにめり込む。
 ……巧にかまっている場合でもないので、放置して横を通過する。

 光の元は丘の頂上。
 死にかけた森の中で、一本だけみずみずしい実をつけた木があった。
 金色のリンゴに似た実が、朝日を受けて輝いている。
 香りも強い。周りのひどい臭いを打ち消して、下に立つ私達にまで甘酸っぱさを振りまいている。
「ここが力の源。一番強く大地の力が働く場所」
 ドライアモンの言う事にも納得できる。私は周りと黄金の実を見比べた。
「他の果物が全て腐っていたのも、この果物にエネルギーを集めるためね」
「だが、それに何の意味があるんだ?」
 ライヒモンが実を見上げる目は厳しい。
 葉月も顔をしかめて考え込む。
「まさか敵地にまできて果物栽培だけ、なーんてわけないもんねー」
 全員が見上げたまま、沈黙が流れる。
「そんなに気になるなら、この実を持って帰って調べてみればいいじゃねえか」
 しびれをきらして、リントヴルムモンが足音を 立てて木に迫った。
 確かに一時的に木々を黙らせている今、あまり時間を無駄にはできないけど。下手に手を出すわけにも……。
 と、迷っている間にもリントヴルムモンが腕のブレードを振り上げた。

「《フルーツフレシェット》」
 森から降り注いだ弾丸がそれを遮った。巨体が簡単に吹き飛ばされる。
「妙な技を使ってくれたね」
 森の中からケレスモンが現れた。仮面の向こうから燃えるような視線が突き刺さってくる。
 6人がケレスモンに向かって身構えた。
「その実にだけは触れさせるわけにいかないんだ」
 相変わらず気だるそうな話し方。でも黄金の実に対しては疲れも混じっているみたいだった。
「あの黄金の実は何なの?」
 ダメ元で聞いてみる。
 もちろん教えてくれるはずはなく、ケレスモンが両手を振り上げた。
「《フルーツフレシェット》!」
 四方八方から弾丸が飛んできた。正体は高速で飛ぶ果物の種だ。
「バーニングブレイド」
「ハニーズアイブレイク」
 リントヴルムモンは焼けつく刃で、ドライアモンは大量のハチで迎撃する。
 巧達二人もパートナーに守られながら、反撃する隙を伺っている。
 私とライヒモンもそれぞれ旋風と槍の柄で弾く。
 問題は相手に弾切れの気配がないってこと。
 どれだけ弾いても広い森の奥から種は尽きることなく飛んでくる。このままではこっちが消耗していくだけだ。
「ねえ、この攻撃の指揮者ってどう考えてもケレスモンよねー?」
 葉月が技の音に負けないよう大声で言った。
「そうか、何とかケレスモンに攻撃できれば」
「この弾丸もやむってわけだな!」
 ライヒモンの言葉を巧が引き受けた。
「みんな、私に考えがあるの。手伝ってもらえる?」
 ドライアモンの言葉に私達は頷いた。
 私とライヒモンが彼女の両隣に並び、技を全力で放った。
「《ウィンドオブペイン》!」
「《ロートクロイツ》!」
 辺りの弾丸が一瞬だけ吹き飛んだ。
 その隙に葉月とドライアモンが動く。
「技能弾、メタリフェクワガーモン」
「ホーミングレーザー」
 ドライアモンの指先から5本のレーザーが放たれる。
「《飢餓》……!?」
 木の根で防ごうとしたケレスモンがたじろいだ。根の間を蛇のようにすり抜けて、5つの弾はケレスモンに直撃した。
「くっ……でもあんた達の技くらいで倒れる私じゃ」
 ケレスモンの言葉は途中で途切れた。
「クリムゾンメテオ」
 リントヴルムモンの炎が包み込んだからだ。
 ただし、ケレスモンではなく黄金の実の樹木を。幹が黒く焦げ、実を赤い舌がなめる。
 ケレスモンがチェーンソーのような悲鳴を上げた。
 すぐにその姿は揺らいで砕け散った。
 安心する間もなく地面が揺れ、デジコードに変わり始める。
「逃げるわよ!」
 巧達はパートナーに抱えられて、私達も飛び上がって島を離れた。
 私達の見下ろす中、島がデジコードになって消えていく。上空から見ると、島は巨大な鳥そのものだった。
「やっぱり、ケレスモンの正体はあの島自体だったのね」
 私のつぶやきにドライアモンが頷く。
「あの人型に違和感を持ったのもそのせいね。あれは本体じゃなかった」
「力の中心はあの丘の木だったってことねー」
 葉月も納得する。
「とにかく! これで怪しい果物も消えたし、時空の歪みにも行けるようになるし、一段落だな!」
 巧がリントヴルムモンの肩で伸びをした。

「……そう言えば巧、いつから合流してたんだ?」
 ライヒモンが何気なく聞く。
「ケレスモンが出てきた辺りから……」
 巧のいじける気配。
 この扱いも含めて「不幸」なんだろうか、と一瞬考えてしまった。




―――




「何で俺は留守番なんだよ」
 俺は見張りの上でふてくされていた。島の探検くらい、小5の俺にだってできたっての。
 そうやっている間に、島がデジコードに変化を始めた。巧達、上手くやったみたいだ。

 直後、島の中央部で何か光った。
 だらけた姿勢からすぐさま身を乗り出す。今一瞬、森から金色の光が飛び出していったような――。
 どれだけ目をこらしても、もうその光は見えなかった。



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コラボ編は会話に重点置いてる分戦闘が短くなります……じっくり戦闘やってたら話が進まなくなるし。難しい所ですね(汗)
ケレスモンの本体はwikimon情報によると女性の方(メディウムというらしい)なんですが。

島本体だと思って伏線張った後だったよ! 追加設定このタイミングで出されるとか!
……はい、今回の話ではその辺の公式設定をスルーすることにしました。
あと、「メディウムは信頼した人にしか姿を見せない」という追加設定も……敵に姿見せた後で知りましたが、何か。

さて、最後におもいっきり伏線張りましたが、これは話数的にはそれほど経たずに回収する予定です。大まかには。←