〔2〕デジモン列車 出発 | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

 地下鉄の銀座線渋谷行きに乗り込んだ大輔のD-ターミナルに、4通目のメールが届いた。

 肩のチビモンがそっとのぞきこむ中、大輔は真剣な表情でD-ターミナルを開いた。


 ぎりぎりの所でゆりかもめに駆け込んだ大輔に届いた3通目のメールはこうだった。

『新橋駅で 17:42発の 銀座線 渋谷行きに 乗り換えて下さい』

 新橋での乗り換えには9分あった。早足で移動して、指示された電車に乗り換える。

 メールの主は誰なのか。自分達はどこに誘導されているのか。考えても答えは出そうになかった。


 そこで届いた4通目はこうだった。

『渋谷駅で 18:00発の 地下鉄に 乗り換えて下さい』

「また乗り換えかよ……こづかいもつかなぁ」

 大輔は自分の財布の中身を思い出して、ぼやいた。元々今日は学校に行って帰るだけのつもりだったのだ。お台場から渋谷に行くだけでも金額のほとんどを削られていた。

「だいすけ~、こんどは どんな でんしゃに のるんだ?」

 チビモンが他に聞こえないように小声で聞く。

「え? それは……」

 大輔はメールを見直した。

 そして気づいた。

「このメール、3通目の時と微妙に違うぞ!」

 急いで3通目を開いて確認する。

 思ったとおりだった。3通目は発車時間に加えて路線と方面の細かな指示が出ていた。

 それなのに、今回の4通目は『地下鉄』としか書いていない。何線なのかも、どこ方面なのかも書いていなかった。

「どういう事だ……?」

 大輔の疑問に、チビモンも首をかしげる。

 2人が考えている間にも、電車は渋谷に向かって走り続けていた。


 17時56分。

 大輔達の乗った電車は渋谷駅の地下のホームに滑り込んだ。

「なあ、ここも『ちかてつ』じゃないのか?」

「そうだけど……」

 大輔達の乗ってきたこの電車自体、「渋谷駅の地下鉄」である。

 だが、電光掲示板を見ても18時発の電車はなかった。

 迷っている間に、大輔達は人波に押されて地上の改札へと追いやられていった。


 どうすればいい?


 大輔は焦って辺りを見回した。




 ゴーグルをつけた少年が視界を横切ったのはその時だった。

「太一さん!?」

 思わず先輩の名前を呼びながら、その姿を目で追う。

 しかしそれは大輔の先輩ではなかった。大輔と同じ年頃だ。後ろ向きに被った帽子の上に、四角いゴーグルをつけている。

 少年は携帯を握りしめて、どこかへと一心不乱に走っていた。

「まさか、あいつもメールを?」

 証拠はなかった。ただ、自分が大事な先輩にもらったものと似たものをつけていただけ。

 なのに、必死にどこかへ行こうとしている姿を見て、「自分と同じだ」と確信したのだ。

「チビモン、しっかりつかまってろよ!」

 肩の相棒に声をかけて、大輔は人ごみを抜け出し、少年を追って走る。

 少年の走る先には、ドアの閉まりかけたエレベーター。

 少年は一足先に、エレベーターに向かって跳んだ。

「負けるかっ!」

 大輔も続いてエレベーターに跳んだ。しかし、大輔が通れる隙間はもうない。

「まかせて!」

 チビモンが大輔の肩を踏み台に跳んだ。

「《ホップアタック》!」

 その勢いで、閉まりかけたドアに斜めに体当たりする。

 ドアが押されて、人ひとり通れる活路が開いた。

 そこに大輔が転がり込む。

「ふう~。助かったぜ、チ……」

 言いかけて、慌ててチビモンをつかんで背中に隠した。

 エレベーターに乗っていた他の二人が大輔達をじっと見ていた。

 片方はさっきのゴーグルの少年。もう一人は青いバンダナの、同い年ぐらいの少年だった。

「あ、あはは。ドアが閉まりそうでついぬいぐるみ投げちゃったよ~。は、はは……」

 大輔は適当に言い訳しながら引きつった笑い声を出す。

 それを聞いて、バンダナの少年は興味を失ったように視線を外した。





―――




「ん?」

 渋谷駅を歩いていた少年が、ふと立ち止まって辺りを見回した。

「どうしたの、お兄ちゃん?」

 横にいた少女も足を止める。

 少年は青いヘアバンドをつけていて、現在中学2年生。名前を八神太一という。

 少女は太一の妹で小学5年生のヒカリ。桃色のノースリーブとセットのアームカバーをしている。

 太一はヒカリに顔を向けた。

「いや、今大輔に名前を呼ばれた気がして」

「今日は大輔くん達はデジタルワールドに行ってるはずよ」

 ヒカリの言葉に、太一も考え込みながらうなずく。

「だよなあ。俺の気のせいかな」

 そう言ってまた歩き出そうとする。

 そこに走ってきた少年がぶつかった。

「っ! 危ないな」

 太一が文句を言う。

 少年は帽子の下から一瞬太一を見たが、謝りもせずにまた駆けだしていった。

「何なんだよあいつ。ヒカリは怪我ないか?」

 太一が顔をしかめて、妹の方を見る。

「ヒカリ? おい、大丈夫か!?」

 ヒカリは青白い顔をして、震えながら太一の背後を見つめていた。

「あの子、怖い……」

 絞り出すような声でつぶやく。

「あの子って……」

 太一は自分の背後を振り返る。

 自分にぶつかってきた少年は、もう人ごみに隠れて見えなくなっていた。





―――





 ゴーグルの少年が座り込んだまま、自分の携帯を大輔に見せた。

「お前もメールもらったのか?」

「ああ、まあな」

 大輔も自分のD-ターミナルを見せた。

 しかしゴーグルの少年はきょとんとした表情でD-ターミナルを見ている。

「何それ、ゲーム機?」

 今度は大輔がきょとんとする番だった。

「何って、D-ターミナルに決まってるだろ。お台場の子どもならみんな持ってるぜ。持ってなくても、名前くらいは聞いた事あるだろ?」

 そう言うが、少年は首を横に振る。D-ターミナルの名前くらいは常識のはずなのだが。


 話しこんでいた2人は、エレベーターがとうに「B1」を過ぎている事に気づかなかった。


 衝撃と共に、エレベーターが止まった。大輔がよろめく。

 話を中断して外を見ると、開いたドアの向こうに巨大なターミナルが広がっていた。

 放射状に広がった線路。それぞれのホームに列車が止まっている。そこで何人もの子ども達が列車に乗り込んだり、乗るのをためらったりしていた。

 だが、大輔が目を留めたのは列車の先頭だった。それぞれ独特なデザインの汽車が並んでいる。目があり、口のような部分があり、まるで……デジモンのようだった。

「チビモン、あの列車みたいなの見たことあるか?」

「ううん、はじめてみた」

 一応聞いてみるが、チビモンも知らないらしい。大輔はデジモン?のデータを見ようとデジヴァイスに手を伸ばした。


 しかし、そこで時計が6時ちょうどを差した。

 列車のドアが次々と閉まり、発車しようとする。気づけば、バンダナの少年もいなくなっていた。

「だーっ! 列車の正体は後だ、行くぞ!」

 大輔は横にいたゴーグルの少年の肩を叩いて、走り出した。なぜ彼に構ったのかは分からないが、さっき感じた親近感がそうさせたのかもしれなかった。

 大輔の声にはっとしたように、少年も後を追ってきた。

 大輔が先に列車の最後尾に飛び乗る。

「つかまれ!」

 差しだした手を少年がつかんだ。

 大輔と少年が床に足をつけた所で、列車はトンネルの中に入っていった。




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リアルの方が一区切りついたせいか、執筆スピードが我ながらおかしい(苦笑)

これかくためだけに時刻表を調べた私を誰か褒めて←