〔3〕スイートハプニング | 星流の二番目のたな

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デジモンフロンティアおよびデジモンアドベンチャー02の二次創作(小説)中心に稼働します。たまに検証や物理的な制作もします。
続き物、二次創作の苦手な方はご注意くださいませ。

 ゴーグルの少年が上着のほこりを払った。大輔に向かって笑う。

「ありがとな! おかげで何とか乗り込めたぜ」

「お礼なんていいって。たまたま隣にいただけだし」

 大輔はチビモンを抱えていない方の手で頭をかいた。

 ゴーグルの少年が柵から身を乗り出して、汽車の進む方を見る。

「それにしてもこの汽車、どこに向かってるんだろうな?」

「え? あ、さ、さあ……?」

 大輔はチビモンをちらりと見ながらあいまいに言った。

 デジヴァイスに届いた言葉といいデジモン風の汽車といい、この行く先は一つしかない、ように思える。

 けど、いつものようにパソコンからデジタルゲートを開いたわけでもない。だが、ヒカリが前に「電車に乗ってデジタルワールドから帰ってきた」というような事を話していた気もする。

 大輔はヒカリ達に詳しく話を聞かなかった事を少し後悔した。

 どちらにしろ、目の前にいる少年はデジヴァイスも持っていないらしい。デジタルワールドの事を話して、危険に巻き込みたくはなかった。

 そんな大輔の気持ちにはお構いなく、ゴーグルの少年が客車につながるドアを開けた。

「とにかく! この汽車に他にも誰か乗ってないか調べてみようぜ!」

 そう言って大輔の返事も待たずに進んでいく。

「おい、待てよ!」

 大輔も慌てて後を追う。

「いつもなら切り込み隊長は俺の仕事なんだけどな」

 少年に聞こえないように、チビモンにぼやく。

「……おなかすいた~」

 しかし、チビモンの返事はぐったりと気の抜けるものだった。



 二つ目の客車に入ると、大輔達の他に三人の子どもがいた。

 右側に薄紫を基調にした服でまとめた金髪のセミロングの少女。

 少女の奥には伊織くらいの年の男の子が座っていた。大きな黄色の帽子が陰になって顔は見えない。 

 左側に青いつなぎを着た大柄な少年。板チョコを大きな口を開けてほおばっている。

 チビモンがぴくっと反応した。

「チョ、むぐぐ」

 叫びかけるチビモンの口を、大輔の手が素早く押さえ込む。それでも手の下で「チョーコ! チョコ食いたい!」と騒ぐチビモンを、大輔は小声で叱りつけた。

「もう少し我慢してろって!」

 そんな大輔(達)に首をかしげながら、ゴーグルの少年は他の三人に向き直った。

「お前らもこれで来たのか?」

 少年が携帯を見せると、少女が自分の携帯を見せてきた。チョコの少年はそっぽを向く。帽子の男の子は無反応だった。

「他にこの汽車に乗ったのは?」

 大輔がその少女に聞く。チビモンはその腕の中で一応静かになっている。

 少女は首を横に振った。

「これで全部よ」

「四人か……結構人数多いな」

 大輔がつぶやく。もしデジモンと戦いになったら四人全員をかばうのは大変だな、と思った。

 そのつぶやきに対して、つなぎの少年がため息をついた。

「お前、自分を入れてないだろ。算数大丈夫か?」

「っ! それは今はどうでもいいだろ!」

 ずれているとはいえ痛い所を突かれて、大輔は口をとがらせた。

 そのやりとりに、少女がくすくすと笑った。その笑い方に、大輔はヒカリを連想した。

 少女に思う所があったのは大輔だけではないらしく、つなぎの少年が勢いよく立ち上がった。

「俺、柴山純平っていうんだ。ちなみに6年。君は?」

 視線を向けられた少女が笑顔で答える。

「私は織本泉。5年生よ」

 続いてゴーグルの少年が一歩前に出る。

「俺は神原拓也。5年だ。よろしくな」

 大輔もその後に口を開いた。

「俺も5年で、本宮大輔。で……」

 大輔はうつむいたままの帽子の男の子に視線を向けた。

 視線を感じたのか、男の子が小声で答える。

「氷見友樹、3年生」

 その後は一言もしゃべらない。

 客車の中に微妙な雰囲気が流れた。

「おい、大輔だっけか。責任取れよ」

 純平が大輔をひじでつつく。

「え? 俺!?」

 大輔が目を丸くして自分を指差す。

 純平が当然とばかりに胸を張った。

「お前があいつに話を振るからこんな事になったんだろ。何とかしろよ」

「なんとかったって……」

 助けを求めて拓也と泉に視線を送るが、二人も困った顔をしている。

 大輔は少し考えて、「よし!」と顔を上げた。

「純平、そのチョコ一枚くれ」

 手を伸ばす大輔に、純平はチョコを持った手を高く上げた。

「何でだよ!」

「いいからいいから。こういう時には甘いものが一番なんだって」

 大輔はジャンプしてチョコを奪うと、友樹に近寄った。

 その目の前にしゃがむ。

「ほら、とりあえずこれ食べて元気出せよ」

 チョコを差しだす。

 が、友樹は顔をそむけた。

「乗りたくなかったのに、無理やり乗せられたのに、そんなの食べる気しないよ……」

「無理やり?」

 大輔が聞き返すと、友樹がうなずいた。

「いじめっ子に列車に押し込まれたんだ……」

「そうか……」

 大輔も返事に困ってチョコを引っ込める。

 また流れる沈黙。


 そこでやっと、腕に抱えていたチビモンがむずむずしているのに気づいた。

 しかし時すでに遅し。


「チョコーっ!」

 ぱくっ。

 チビモンが歓声を上げながら大輔のチョコにかぶりついた。

「……あ」

 固まる大輔。

    拓也。

    泉。

    純平。

    友樹。

 全員がチョコをほおばるチビモンに釘づけになっていた。

「うまーい!」
 チビモンが歓声を上げる。
 大輔以外の血の気が引く。

「うわぁーーーー!」

「きゃーーーー!」

「ええーーーー!」

「ぎゃーーーー!」


 四人分の悲鳴が客車に響き渡った。