「見張りに行ってくる」なんて言ったものの、正直見張りに行く気分じゃなかった。でも必要な話だけ聞いた後は、あそこにいる気分にもなれなかった。
とりあえず門を出て、適当な場所で塀に寄りかかる。水晶でできた塀は冷たくて、気分が落ち着いた。
考える前に体が動いちゃうのは俺の悪い癖だけど、さすがに今回はやりすぎだったよな……。一般人を話も聞かずに殴ったんだから。
……いや、あのキラってやつ本当に「一般人」か?
進化して戦える人間だっていうのは、俺達と同じだし全然おかしくはない。
でもデジモンと合体して進化するなんて始めて見たし。
一番とんでもないのは、あいつが素手でヴリトラモンの俺をぶっ飛ばしたって事だよな。
あいつに殴られた所があざになってて、さわったり口を動かしたりすると痛い。ヴリトラモンの装甲はそんなに弱いはずないんだけど。
俺達がデジモン相手に戦えるのはスピリットを使って進化できるからであって、俺達自体が強くなってるわけじゃない。
なのに、進化しないで獣型デジモンにダメージを与えられるって……。
「キラって、強いというか、そもそもあれ人間か?」
「俺自身は普通の人間のつもりだけど?」
本人がいた。
いつの間にかキラが声の聞こえる距離に立っていた。
反射的に背筋が伸びる。
「い、いるなら声かけろよなっ!」
思わず言葉の最後の音が高くなった。
「いや、ずいぶん考え込んでるみたいだったから、邪魔しちゃ悪いかなーって思ってさ」
キラは笑いながら答えた。
俺はふてくされた顔をして黙りこむ。キラが俺の横に来て、俺と同じように塀に寄りかかった。
しばらく二人とも何も言わない時間が過ぎた。
「キラって、前からそんなに強いのか?」
キラの方を見ないまま、聞く。
「そんなにって?」
「スカルサタモンを倒したり、素手でデジモンふっ飛ばしたり」
キラはうーんとつぶやきながら考え込んだ。
「それは、エアとか俺の元いた世界の神? みたいな人からもらった力のおかげだから、別に修行とかしたわけじゃないよ。後は気合の問題?」
気合、ねえ。
俺が首をかしげていると、キラがまた口を開いた。
「俺は信也もこれから伸びてくと思うけどね」
「は?」
何を言われたのか分からず、俺はキラの顔を見た。
キラはいたずらっぽく笑いながら、でも目は真剣に俺を見ていた。
「不意打ちでも究極体――えっと、ロイヤルナイツ並み? の力を持ってるデジモンにダメージを与えられるデジモンは少ないよ。しかもダブルスピリットしてないデジモンが。そういう意味じゃ、信也はスピリットの力を誰より引き出せる力があるのかもしれないな」
なんだか難しい話だけど……ほめられたのか、俺?
とりあえず悪い気はしなかった。
「じゃあ、次にキラと戦ったら俺が勝つかもな」
自分の調子も出てきて、軽口をたたく。
それに答えようとしたキラの表情が、一瞬で強張った。
「信也、伏せろ!」
戦いなれた体が、とっさに地面に伏せる。
頭の上を黄色い光線が過ぎ去る。水晶の塀にひびが入り、俺達の周りに破片が落ちてきた。
「お前らか! 俺達の兄弟を倒したってやつは!」
顔を上げると、悪魔が骨だけになったようなデジモンが一体、俺達を見下ろしていた。
―――
信也を探していた僕は、いつの間にか広い場所に出た。
城の奥、前は三大天使の像があった所に中庭ができていた。神社にでもありそうな巨木が一本、夜空に葉を広げている。葉の間から月明かりが地面にこぼれている。
巨木の周りを歩きながら信也を探したけど、ここにもいないみたいだった。
「探し物?」
その声に振り向くと、トモヒロが歩いてくる所だった。腕にはエンジェを抱いている。
「気にしないで。大した用じゃないし。トモヒロも疲れてるだろうし、休んだら?」
僕が言うと、トモヒロは苦笑いして肩をすくめた。
「僕はキラみたいに戦わないから、そんなに疲れてないよ。エアはもう寝てるし、僕はエンジェが寝るまで散歩してただけ」
エンジェは戦ったりパタモンとはしゃいだりで疲れたのかぐっすり眠っている。その耳には赤・青・緑・黄色の四色の宝石のついた耳飾りがゆれていた。女の子のヘアピンみたいに耳をはさめるような形になっている。
僕の視線に気づいて、トモヒロが耳飾りをつついた。
「これ、パタモンがエンジェにってプレゼントしてくれたんだ。お守りなんだって」
パタモン、いつの間にそんな耳飾りまで持ってたんだろう。城の誰かが作ってくれたのかな? でも「パタモン」用に作られただけあって、エンジェによく似合ってた。
「そういえば、純平と輝一がダブルスピリットできるって聞いたんだけど、友樹はできるの?」
トモヒロに聞かれて、僕は首を横に振った。
「まだだよ。僕はまだ純平さん達みたいにサポートしてくれるスピリットを手に入れてないし。ゆがみの問題が落ち着いたら、ここにあるはずのスピリットを回収しないとな、とは思ってるんだけど」
敵がいつ襲ってくるか分からない状況で、スピリットの隠し場所に行くのは危険だった。敵の目的はスピリットなんだから、場所を教えちゃ意味ないからね。
「氷のダブルスピリットかー」
トモヒロが何か考え込み始めた。何か気になる事言ったかな?
「どうしたの?」
「んー、友樹は自分がダブルスピリットしたらどんな感じのデジモンになると思う?」
今度は僕が考え込む。
「分からないけど……僕はみんなを助けられるデジモンになれたらそれでいいと思うよ」
「助けられる?」
僕は頷いた。
「僕、前の冒険の時はまだ3年生で、拓也お兄ちゃん達に助けられてばかりだったから。でも今は昔の拓也お兄ちゃん達と同じ5年生になって、信也っていう同い年の仲間も出来た。だから、もっとずっと頼れる僕になりたいんだ」
そう言って空を見上げると、巨木の葉が一枚風に乗って落ちてきた。ジャンプして両手でつかまえる。
着地すると、トモヒロが笑って僕を見ていた。
「友樹なら強くてかっこいいデジモンになれるよ。僕はそんな気がする」
ありがとう。
その言葉は、壁の崩れる音と恐竜の雄叫びにかき消された。
「ふえ!? 何!?」
エンジェが大きな音に飛び起きる。
「あっちの方だよ!」
トモヒロが近くの森を指差す。門とは逆の方向、僕達がいる中庭の近くだ。
僕達は全速力でそっちに向かって走り出した。
―――
「こいつがスカルサタモンか!」
俺はデジヴァイスを手に身構える。
「こっちにもいるぜ!」
俺の後ろにもう一体スカルサタモンが現れる。そっちにはキラが向かい合う。
ちょうど俺とキラが背中合わせに立つ形になった。
って、エアがいないこの状況で、キラのやつ大丈夫なのか? 俺達でいう「スピリットのない」状態じゃないか。
心配して口を開こうとすると、先にキラの声が聞こえた。
「さっきの話の続きだけどさ。俺と信也とどっちが先にスカルサタモンを倒せるか競争しないか?」
戦う手段がない割にのん気な声だ。
「競争すんのはいいけどさ。そっちは実質キラとエアの二人分だろ。フェアじゃないぜ」
俺は敵から目を離さないまま答えた。
キラの笑う気配がした。
「心配するなって。俺も信也と同じ土俵で勝負するからさ」
そう言って取り出した機械を俺に見せてきた。
見た事のない機械だった。縦長で色はオレンジ色。画面が一つと細長いボタンが三つついている。大きさは俺のデジヴァイスと同じくらい。キラの世界のデジヴァイス、なのか?
「あ、こっちの方が分かりやすかったかな」
キラがデジヴァイスを持った手を引っ込めて、反対の手を俺の横に出した。
その手に浮かび上がる一輪のデジコード。
「……面白いじゃんか」
俺はにやりと笑いながら、同じように左手にデジコードを呼び出した。
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色々張らなきゃならない伏線とか回収しなきゃいけない話とか書いていたらやけに長くなりました。
友樹の発言はキャラソンを参考にしてみました。そのうちカラオケでフロのキャラソン全部歌ってみたいなと思っていたり。ジョイの最新版ならキャラソン結構揃ってるようなのですよ。
ただ、なぜか泉と輝一のキャラソンだけ入ってなくて代わりにダスクモンのキャラソンが入っているという謎チョイス(笑)どうしてそうなった。
ダスクモンのキャラソンも大好きなんでいいんですけどね。あえて輝一の方じゃなくて闇堕ちしてる時の方を入れるんだー、と思っただけで。
今回初登場のデジモン