うつむく俺の手を誰かがつかんだ。
顔を上げると、友樹だった。
「純平さん、謝らないでよ。攻撃をよけられなかった僕のせいでもあるんだし。それより、取られたスピリットを何とかしないと」
苦しそうな表情をしているのに、目はまっすぐに俺を見ている。強い意志を持った目だった。
「友樹……」
嬉しいような悔しいような、それでいてうらやましいような、複雑な感情が駆け巡った。
友樹は本当に成長した。
初めてデジタルワールドに来た時には帰りたいって泣きわめいていた。俺と一緒にパグモンに追い回されていた。
デジタルワールドが全滅する直前、オファニモンの城では「僕達がこのエリアを守らないと」って思い詰めて。俺は得意の手品を見せたりとか自分の思ってる事を話したりとか、自分なりに元気づけたっけ。
どれだけ冒険を重ねても友樹は最年少で俺は最年長だった。
友樹だけじゃない。ずっと俺はみんなの中で一番年上だった。今回の戦いが始まって信也が加わってもそれは変わらなかった。
雷のエリアの状況を見た時もそうだ。
突っ走りそうになる友樹を止めて、説得した。「一番つらい自分が年長者として我慢して、冷静な判断をする」。そうやって完璧なリーダーの職務をこなした気になっていた。そんな自分に満足している俺がどこかにいたんじゃないか?
俺は陰から日向からみんなを助けていくんだって思っていた。もしかしたら「リーダー」っていうのとは違うのかもしれないけど、年長者としてみんなを支える立場はずっと変わらないんだって、思っていた。
でも違った。
俺の知らない間に友樹はたくましくなっていた。
身動きがとれなくなっても、自分のスピリットを奪われても、今やるべき事を考えている。それどころか、俺の事まできづかってくれた。
今、助けられてるのは友樹じゃない。
俺の方だ。
俺は前の冒険が終わった頃と大して変わっていなかった。友樹が成長している間、俺は年長者としての立場にあぐらをかいていただけじゃないか。
だけど今からでも……間に合うよな!
俺は情報を頭で整理しながら立ち上がった。被害状況、現在の戦力、敵の言葉。
頭をフル回転させると、見落としていた現状とこれからの方針が見えてきた。
バックスモンの部下とデジモン達の戦いはまだ続いている。だけど、マメモン達の加勢があったおかげでだいぶ有利に動いている。俺が加勢しなくても、勝つのは時間の問題だ。
俺はバックスモンの逃げた方向に視線を向けた。バックスモンは強いけど、移動は足だ。ブリッツモンの翅なら追いつける。
近くにいたハグルモン2体とマメモンを呼び止める。
「ハグルモン、ここから土のエリアに連絡する方法はないか? デジヴァイスじゃ距離が遠くて通じないんだ。
「それなら電波の増幅装置があります! 小型のもので十分土のエリアまで届きます!」
「よし、それをここまで持ってきてくれ! それから、そっちのハグルモンは友樹をかつげるデジモンを探してきてくれないか? マメモン、そのデジモンが来るまで友樹をガードしといてくれ」
俺の矢継ぎ早の指示に、ハグルモン達はすぐさま飛んでいった。
「純平さんはどうするのですか?」
マメモンが俺を見上げて聞いてくる。
俺はデジヴァイスを見せて、自信たっぷりに見えるように精いっぱい笑ってみせた。
「決まってるだろ。スピリットを取り返しに行くんだ」
「無茶だよ! ケガしてて、しかもヒューマンスピリットしかないのに!」
友樹が大声をあげた。なんとか自分も動こうと上半身に力を入れる。でも、重い黄金になった下半身は1ミリも動かない。
その友樹の前に俺はしゃがみこんだ。
「無茶じゃないさ。今やるべき事を考えたらこうなっただけだ」
「でも、純平さん一人でなんて……」
「友樹には別にやってもらいたい事があるんだ」
友樹の言葉をさえぎって、俺は友樹のデジヴァイスを手に取った。もう片方の手に自分のデジヴァイス。
その二つを操作して、俺のデジヴァイスに入ってたメルキューレモンのスピリットを友樹のデジヴァイスに転送した。
「友樹はデジモン達に協力してもらって、今からメルキューレモンに会いに行ってくれ。もしかしたら、友樹の体を元に戻す方法を知ってるかもしれない。それからもう一つ」
友樹のデジヴァイスを本人に返す。
「ダブルスピリットのプログラムを完成させて俺に届けてくれ。ビーストスピリットの力だけじゃバックスモンには勝てないからな」
あいつに対抗するにはダブルスピリットしかない。
でも、プログラムが完成するまでバックスモンがこの世界に留まっている保証はない。あいつらの世界に戻られたら、スピリットを取り返す事は出来なくなる。
「プログラムが届くまで、俺がバックスモンを足止めする。いっそ、スピリットを一つくらいは取り返すつもりでやってみるよ」
友樹はまだ不安そうな顔をしていた。でも、はっきりとうなずいた。
そこに馬力のあるガードロモン達が到着した。こいつらなら友樹を運んで塔の上まで行ける。
続いて電波増幅装置も届けられた。それを見た友樹が表情を明るくする。
「そうだ! 輝一さんに連絡して助けに来てもらえば」
「ああ、それはムリ」
さっそく装置をいじりながら俺は答えた。
バックスモンは俺と友樹が鋼のエリアに来る事を知っていた。本人がそう言ってたし、タイミングよく襲って来たんだから間違いない。その事はトゥルイエモンの城にいたデジモンとトレイルモンくらいしか知らないはずなのに。
だとすると――。
電波増幅装置のコードをデジヴァイスに差した。すぐに泉ちゃんにつなぐ。
「泉ちゃん、聞こえる? 気をつけて! 城の中にスパイがいるはずなんだ!」
―――
俺達がデジヴァイスをかざすと、グロットモンを囲んでいたバリアが消えうせた。
「このスピリットの回収は楽勝だったな!」
背伸びをしながらスピリットに近づく。
「信也、伏せろ!」
「《真空カマイタチ》!」
急に押し倒された。
直後に頭の上を鋭い風が吹き抜ける。
警戒しながら顔を上げると、隣で輝一も体を起こす所だった。
グロットモンの方を見ると、台座が大きくえぐれていた。切れ味ばつぐんの刀で切られたような傷跡だ。……輝一がかばってくれなかったら、今頃俺は真っ二つだったな。
でも、誰が攻撃を?
考えるまでもなく、答えは分かりきっていた。
入口をふさぐ位置に、案内役のレッパモンが立ちはだかっていた。
☆★☆★☆★
所用につき、明日から木曜日あたりまでネットに(ほとんど)顔を出せません。
そのためコメント返信等が通常より遅くなりますがご了承ください。
それから、輝一の絵が出来たので投下します!
(かっこよさが私の画力のせいで減ってないか非常に不安です……)←
【名前】
木村輝一
【年齢】
13歳、中1
【詳細】
前回の冒険でデジタルワールドを救った伝説の十闘士の一人。源輝二の双子の兄。両親は幼い頃に離婚しており、現在は母親と二人で暮らしている。不自由なく暮らす輝二への妬みにつけ込まれ、一時は輝二達の敵に回る。しかし輝二と正面から向き合った事でその感情を克服し、真の闇の力を手に入れる。デジタルワールドに行く直前に事故に遭い生死をさまよったが、デジヴァイスの力で生還した。
冒険後は輝二と毎日のように連絡を取り合っている。
【進化先】
レーベモン(闇の闘士)
技:《エーヴィッヒ・シュラーフ》、《エントリヒ・メテオール》
カイザーレオモン(闇の闘士)
技:《シュヴァルツ・ドンナー》、《シュヴァルツ・ケーニッヒ》
ライヒモン(闇の闘士)
技:《シュバルツ・レールザッツ》、《ロート・クロイツ》
以下、作者の小話。
輝一はいつ見てもかっこいい!
ごほん、失礼いたしました。
友樹、泉、純平はOPの絵を下地にしていたので、今回は下地にする画を探すのに一番苦労しました。
・OPと同じくらいのサイズで描かれている
・上半身が描かれている
・正面向き
この条件を満たす画は案外少ないのです……。
下地なしで、自分で一から書ければこんな苦労はないのですが、私の画力では無理です(苦笑)