「《サラマンダーブレイク》!」
アグニモンの回し蹴りが黒いワーガルルモンに直撃する。
吹き飛んだワーガルルモンの体は、デジコードが浮かび上がることもなく暗闇の中に消えた。
真っ暗な空間の中で、アグニモンのいる場所だけが白く浮かび上がっている。まるで彼にだけスポットライトが当てられているかのようだ。
「くっ、はあ……」
アグニモンが息を切らしながらその場にひざをついた。
その姿がデジコードに包まれ、人間の子どもに変わる。
「全く、次から次へと。どれだけ出てくるんだよ……」
つぶやく間にも、背後から近づく影。
振り向いた時には、カラテンモンの剣が振りあげられていた。
「《リヒト・ズィーガー》!」
そこに割り込んできた光の刃がカラテンモンを切り裂く。
振り向いたヴォルフモンは、進化を解きながら手を差し出した。
「大丈夫か、拓也」
ひざをついていた拓也が、輝二の手につかまって立ちあがる。
「大丈夫、とも言ってられないんだけどな」
そう答えながら相手を見ると、輝二の方も息を弾ませている。
「ひょっとして……輝二もか?」
「ああ」
輝二が不機嫌そうに返事をする。
「ウルカヌスモンに捕まった後、気づいたらここにいた。その後は襲ってくる敵と戦い続けている」
「しかも体が昔に戻ってるしさ」
今の拓也と輝二は中学1年ではなく、小学5年の時の体格と服装に戻っていた。
つまりは、前回の冒険の時の姿に。
「デジヴァイスがあって進化できるのはいいけど……ここはどこなんだ?」
「夢の中、なのかもしれないな」
輝二の考えに、拓也も頷く。
「だよな。分かんないのは、なんで小5の時に戻されて、延々戦わされてるかなんだ」
拓也が腕を組んで、輝二があごに手を当てて考えこむ。
「そういや、輝二は今までにどんなデジモンに襲われたんだ?」
拓也の質問に、輝二が指を折って数え上げる。
「さっきのカラテンモンに、ダスクモン、ベルグモン、ウッドモン。これで全部だ」
「俺はワーガルルモン、ケルベロモン、ウィザーモン、ゴーレモン」
拓也も戦ったデジモンを思い出す。
そして、二人は顔を見合わせた。
「これって――」
「《ネイルボーン》!」
拓也が続きを言う前に、黄色の光線が飛んできた。
転がりながら避ける二人。
光線の飛んできた方を見ると、新たな敵の姿が浮かび上がっていた。
「ゆっくり考えるひまもないって事か!」
輝二が舌打ちする。
二人はデジヴァイスを構えて、再び戦闘になだれこんだ。
―――
到着したケルビモンの城は、お盆に乗ったきのこの塔みたいな形をしていた。その上には赤いバラの形をした雲がかかっている。
青空の下だからあまり気にならないけど、もしバックに雷とか黒雲とかあったらラスボスのすみかって感じだな。
友樹にそう言ったら、呆れた目で見られた。
「信也、それ冗談にならないからやめてくれない?」
「……ごめん」
俺は大人しく謝った。
城に向かって橋が伸びていて、歩いていけるようになっている。
進んでいくと、広い場所に着いた。何もなくて、中心に巨大な石でできた門だけが立っている。
「ここが、城の入口か?」
俺がみんなに聞くと、みんなは頷きながらも困った顔をしている。
純平が扉に近づく。
「この門が開けば、城の中に入れるんだけど」
そう言いながら門を二回叩く。
音を立てて、あっさり門が開いた。
拍子抜けする俺達の前で、門が全開になる。その向こうに、さっきまではいなかった四足のデジモンが立っていた。キツネのお面のような顔をしている。
「十闘士のみなさん、テイルモン様からお話は聞いています。私はレッパモン。みなさんをトゥルイエモン様の所までご案内します」
そう言って俺達に背を向けて歩き出す。
後を追って門に入ると、一瞬で周りの景色が変わった。
石でできた廊下が続いている。
レッパモンについて進んでいくと、これまた巨大な扉の前に着いた。今度はさっきの門と違って、普通の扉みたいだ。
レッパモンがその前で止まり、振り向く。
「この先がトゥルイエモン様の書斎です」
そして扉の低い所にあるくぼみに前足で触れる。
くぼみがかすかに光って、扉が音もなく内側に開いた。
『書斎』って話だったけど、本も机もない部屋だ。広い空間に、10本の柱が丸く並んでいるだけ。さっきの入り口といいこの書斎といい、トゥルイエモンの趣味ってさっぱりしてるのな。
10本の柱の中心で、胴着を来たウサギのデジモン――トゥルイエモンが武道の型を練習していた。
トゥルイエモンが俺達に気づいてその手を止める。首元のスカーフで汗を拭いて、笑いかけてきた。
「待っていたよ。テイルモンの話では、私に調べてほしいデータがあるそうだな」「ああ。早速だけど頼むよ」
俺は頷いてデジヴァイスを出した。
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新年の本編第一回から拓也輝二サイドが入りました。狙って入れたわけではないのですけどね。