お正月特別編その2です。
その1ほどではないですがギャグです。
―――
次の目的地に向け、移動中の俺達。
突然、俺達の乗っていたトレイルモンが急ブレーキをかけた。
「何だよいきなり!」
叫びながら窓から身を乗り出す。
トレイルモンは俺達そっちのけで、嬉しそうな声を出す。
「この屋台は、まさかー!」
屋台?
線路の先の方を見ると、目の前に大量の屋台が並んでいる。ざっと……50はあるんじゃないか。
「お祭りか何か?」
友樹も俺の横から顔を出す。
「これは新春恒例の美食祭りの会場だぞ!」
トレイルモンの解説によると。
デジタルワールドでは毎年新年に料理自慢が集まり、屋台を立てる。
そして審査員や見学者が自慢の料理を食べ合って一番の料理人を決めるんだってさ。
「何だか面白そうだな」
輝一が顔を輝かせながら言う。俺もうなずく。
「でも、私達が前に旅をした時にはそんなお祭りなかったわよ?」
泉が首をかしげる。
「そりゃそうさ。10年前の今頃は、ちょうどお前達がケルビモンやロイヤルナイツ達と戦ってた時だったからな」
「その頃じゃしょうがないな。とてもみんなで集まって料理対決なんてやってる場合じゃないもんな」
純平が腕を組んで納得した。
「おお、おいしそうな匂いだー!」
俺達が止める間もなく、トレイルモンが客車を切り離した。
そしてそのまままっすぐ会場へ。
「……どうするの?」
友樹の言葉に、全員が顔を見合わせる。
そりゃあ……決まってるだろ。
「トレイルモンがいなきゃ移動できない。それに、ほら」
俺は線路の先を指差す。線路の上にまで屋台が立てられていて、トレイルモンが戻ってきても進めそうにない。
「と、いうことで!」
「と、いうことで?」
泉が聞き返す。
俺はにっと笑って宣言した。
「せっかくだから俺達も参加しようぜ! 飛び入りで屋台立ててさ!」
友樹、泉、純平の顔が凍りついた。
「もしかして信也……お前が料理する気なのか?」
純平が恐る恐る聞いてくる。
「俺が料理しちゃ悪いのかよ」
俺は口をとがらせる。
泉が言いにくそうに口をはさむ。
「悪いとは言わないけど……だってほら、信也って『あの拓也』の弟でしょ?」
「ちょっと待て。まさか俺が兄貴みたいな料理音痴だと思ってるのか!?」
三人がそろってうなずく。
俺は両手を腰に当てて言い返した。
「俺は、みそ汁にキムチを放り込む兄貴とは全っ然違う!」
今度は三人の顔が引きつる。
「拓也お兄ちゃん、そんなものも作ってたの……?」
「……うん」
その時の事を思い出して、俺は視線をそらす。
「4年生の時なんだけどさ、母さんが留守の時、兄貴が夕飯を作ってやるって言いだしたんだ。で、待ってた俺の前に出てきたのが……」
強引に飲まされたその味まで思い出して、俺はそれ以上続けられなくなった。
「とにかく! こうなったら、俺があいつよりずっと料理が上手いって事見せてやる!」
あいつと一緒にされてたまるか!
俺は返事も聞かずに会場に向かって歩き出した。
「信也、待てって!」
俺の腕を誰かがつかんで止めた。
振り返ると、輝一だった。
「輝一も俺に料理するなって言いたいのかよ」
輝一は首を横に振る。
「違うよ。俺の弟も料理音痴だけど、俺自身はそんな事ないし」
「輝二もなのか?」
輝一が苦笑しながらうなずく。
「せっかく戦いの合間だし、たまにはお祭りに参加してみるのもいいんじゃないかな」
おっ、分かってるじゃん。
「じゃあ、輝一も出るか? 料理対決」
輝一が笑った。
「いいけど……そうしたら俺が勝つよ?」
「へへっ、言ってくれるじゃん」
笑い合う俺達を、友樹達3人は真っ青な顔で見ていた。
―――
放送日を調べてみると、実際年末最後がケルビモンとの最終決戦で、年始最初がロイヤルナイツ初登場回となっています。新年を祝う暇もない。