目を開けると、そこにリリモンの寝顔があった。
そう、目の前に。
「…………!」
俺は声にならない絶叫を上げる。
断言してもいい! 今の俺の顔は完熟トマトに負けないくらい真っ赤に違いない!
落ち着け、俺。
Q.名前は? A.神原信也。
Q.年齢は? A.11歳。
Q.何がどうしてこんな状況になってる? ……よし、思い出してみよう。
昨日俺達は食料と布団にする落ち葉を集めて岩かげに戻ってきた。
そして夕飯。敵に見つかるかもしれないからたき火はつけなかった。
で、明日に備えて全員早めに寝た。
リリモンとはそこそこ間を開けて寝たつもりだったんだけど……どうやら寝相の悪さで移動してきてしまったらしい。
なるほど。理由は分かった。
でも今の状況を解決するのに何の役にも立たないぞ!?
紳士的な行動をとるのなら、今すぐ起きてこの場を離れるべきだ。
でもこの状況はあまりにもおいしすぎる。こんな状況は二度とないだろうからもうちょっと見ていたい気も――。
そこまで考えた所で、リリモンがうっすらと目を開けた。
俺と目が合う。
えっと、こういうの何ていうんだっけか。確か国語の授業でやったような。
そう、万事休す。
完全に凍りついている俺の前で、リリモンは笑顔をみせた。
「おはよう、信也くん」
俺は反射的に飛び起きた。リリモンのいる方から必死で目をそらしながら答える。
「お、おお、お、おはよう! い、いい天気だな!」
……外は灰色の曇り空だった。
心の中で涙目になっている俺に、後ろから声が届いた。
「ふふ。いい天気ね」
本当に、リリモンは、できた女の子だ!
みんなで朝ごはんを済ませた所で、俺達は出発した。
目的地は結界の場所を知ってるっていうハニービーモン達の所。リリモンが先に立って案内してくれる。
湖を横に、シラカバの林を歩いていく少女。その後ろ姿を見ているだけで、俺達を待ちうけてる戦いなんて忘れそうになる。
「――也! 信也ってば!」
肩をゆすられて、やっと呼ばれている事に気付いた。
「もう、なにぼけっとしてるのよ」
泉が腰に手を当てて、唇をとがらせる。
「べ、別にぼけっとなんかしてねえよ!」
俺はポケットに手を入れてそっぽを向く。
でも泉の追及は終わらない。
「してるわよ。これが敵の来てる時だったら、進化する前に襲われてるわ」
「言われなくたって、それくらい分かってるよ。それより、何か話したい事でもあるのか?」
わざと話題をそらす。
でも図星だったみたいで、泉は少し考え込んだ。
「……昨日、リリモンが襲われた時の事を考えてみたんだけど。やっぱり変よ。オリンポス十二神族の手下のわりに、シェルモン達は弱すぎた」
「俺達が強かったからじゃないのか?」
俺の疑問に、泉は首を横に振る。
「前に戦ったナイトチェスモンは、同じようにスピリットを奪うのが目的だったけど、シェルモンよりずっと強かったわ。それに」
泉は言葉を一度切って、前を歩いてるリリモンを見る。
「昨日の晩、みんなが寝た後にリリモンのデータをデジヴァイスで調べたの」
「リリモンや俺達に隠れてか!?」
俺が顔をしかめると、泉も不機嫌そうな顔になった。
「最後まで聞いてよ。リリモンはああ見えて、ちゃんと戦うための技を持ってるわ。その気になれば、シェルモンくらい一人でなんとかなったかも」
なんだよ、それ。
「別にデジモンだからって、みんながみんな戦えるわけじゃないだろ。俺は、戦う力があるのと実際に戦いを選ぶのとは違うと思うな。戦うのが嫌いなデジモンがいてもおかしくない」
「でも……」
「泉は俺よりデジモンの事詳しいのかもしれないけどさ。俺は、リリモンの優しさを信じてるからな」
まだ不満そうな泉にそれだけ言って、俺はさっさと前に進んだ。
友樹や純平と話していたリリモンが、俺の方を振り向く。首をかしげた。
「どうかしたの?」
「いや、なんでもない」
俺は自然と笑顔になりながら答えた。
「このあたりの、はずなんだけど……」
リリモンが立ち止まったのは、小さな湖のほとりだった。俺達も辺りを見回すけど、デジモンは見当たらない。
「敵が来るのを警戒して、隠れてるんじゃないのか?」
純平が意見を言う。
「考えられるな。やつらがスピリットを探しているのは有名な話だし」
輝一もうなずく。
「案外、近くで見張ってたりするんじゃないかな?」
ちゃっかりリリモンの隣に並びながら、友樹が林の中に目をこらした。
「私、周りの様子を見てこようか?」
泉がデジヴァイスを取り出した。
その時、草むらから3つの影が飛び出した。
それはまっすぐに俺達の方に向かってくる。
一瞬身構えたけど、泉の明るい声が聞こえた。
「あなたたち、もしかして!」
「やっぱり泉さんだ!」
「ほら、だから言っただろ。外見はちょっと変わってても、絶対泉さんだって!」
「おれ、デジヴァイスを見るまで信じられなかったよ!」
そんな事を口々に言いながら飛んでくるのは、黄色いハチみたいなデジモンだった。
泉とデジモン達はお互いに駆け寄って、嬉しそうに会話している。
「……なあ、あいつらがハニービーモンでいいんだよな? 知り合い?」
俺は残っていた男子に話をふる。
純平が明るい顔で答える。
「そうさ。泉ちゃんファンクラブの二号と三号と四号なんだ! ちなみに俺が一号な」
後半はスルー。っていうか、説明になってないんだけど。
「昔の冒険で会ったデジモン達だよ。まさか結界を守ってたのがあの三体だなんて思わなかった」
友樹が付け足してくれた。
「泉さんのファンクラブ、今でも続けてるんですよ!」
「デジタルワールドを取り戻してくれたあなたに覚えててもらえて光栄です!」
「今でもあの時のサイン、大事に取ってあるんですよ!」
ハニービーモン達に囲まれてマシンガントークをされている泉。……モテモテだな。
「あの……結界の事を聞かないと」
リリモンが遠慮がちに口を出した。
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と、いうわけでフロンティア本編に出てきたハニービーモンズを出してみました。セフィロトモン内の戦闘で出てきた元・ラーナモンファンクラブ、現・泉ちゃんファンクラブのメンバーですね。
彼らがなぜ水のエリアにいて、結界を守っているのか。それは次回語ってくれるはずです!
オリンポス十二神族も黙って見ているわけがないし……一体どうなる!?
(と、次回予告のようなものをしてみる)
◇今回初登場のデジモン