「じゃあ、あなた達が10年前にデジタルワールドを救った人間の子どもたちなのね?」
俺と友樹に挟まれて歩きながら、リリモンは嬉しそうにほほえんだ。さっき追いかけられてたせいで疲れてるけど、俺達と一緒にいるおかげか安心しているように見える。
「そういえば、リリモンはなんで追われてたの?」
友樹がリリモンにたずねる。
リリモンは顔を暗くして、目を伏せた。
「花を摘んでいたら、急に森の奥からあのシェルモン達が現れたの。それで『水のエリアの結界はどこだ。話さないとただじゃおかないぞ』って言われて……結界の場所なんて知らないって言ったんだけど、信じてもらえなくて……」
そう言って立ち止まり肩を震わせる。
リリモンはさっき必死に逃げてきたばかりなのに、友樹はデリカシーなさすぎだっての。俺は友樹に厳しい視線を送った。
俺と目が合った友樹は、あわててリリモンに両手を合わせた。
「ごめん! 変な事聞いちゃって……」
「ううん。いいの」
リリモンは顔を上げて、涙をふいて笑った。
「こうして友樹くんや信也くん達に助けてもらったから、もう安心だもの。私こそ泣いてしまってごめんなさい」
む。俺の名前が出たのはいいけど、友樹が先だと? リリモンを背中にかばったのは……俺なのに。
「い、いや、リリモンが謝る事ないって!」
友樹が顔を赤くして両手を顔の前で振る。ああもう、俺の頬が熱くなるのは分かるけど、なんでお前まで顔が赤くなってるんだよっ!
「みんなー!」
声がして顔を上げると、湖の向こうからフェアリモンが飛んでくるのが見えた。
俺達のそばに着地して、進化を解く。
「あっちに隠れるのによさそうな岩かげがあったわ。そこで休みましょう」
「さすが泉ちゃん! 頼りになるなぁ」
純平のいつも通りのデレを、泉がいつも通りスルー。このパターンも見慣れてきたな。
まあ、一生懸命アタックする気持ちも、分からなくはない、けど。
隣を歩いているリリモンをちらりと見る。
「? どうかしたの?」
リリモンが俺を見て首をかしげる。
「い、いや、なんでもない!」
俺は前を向いて早足になった。
泉が見つけてくれた岩かげで、俺達は一旦休憩にした。ここなら水辺のわりに乾いてるし、奥に行けば簡単に見つかる心配もない。
全員、適当な岩に座る。
「疲れてる所悪いけど、いいかな」
輝一の声に、リリモンはこくんとうなずいた。
「俺達は今、結界――十闘士のスピリットを探しているんだ。うわさのオリンポス十二神族に取られる前に、見つけ出したい」
「誰か、スピリットの場所を知ってるデジモンはいないの?」
泉が続ける。
リリモンは両手を胸の前で重ねて考え込む。……いちいち動作がかわいいって思うのは俺だけか?
「そうだ。湖のそばに住むハニービーモン達がスピリットの事に詳しいと聞いた事があるわ」
「本当か!?」
俺は身を乗り出した。
リリモンはそこで困った顔になる。
「ただ、最近スピリットが狙われているせいで、ハニービーモン達も警戒しているの。だから、行っても教えてくれるかどうか……」
「心ぱ「そこは心配する事ないよ! 俺達人間が行けば、すぐに味方だって分かってもらえるって」
「純平、今のは俺のセリフだぞ!」
俺がつっかかると、純平は両手を岩について胸をそらした。
「いいじゃん。減るもんでもないし」
減る! 俺のかっこよさが減る! ……さすがにこれを言うのは恥ずかしいんでやめよう。
「それじゃあ、さっそく出発する?」
泉が立ち上がろうとする。
「リリモン、いけそうか?」
俺が聞くと、リリモンはうなずいてから立ちあがろうとして――ふらついた。
「あっ!」
俺が手を出すより先に、横にいた輝一がリリモンを支えた。
「大丈夫? 無理しない方がいいよ」
「でも、早くスピリットを見つけないと……」
輝一の心配に、リリモンが不安そうで弱った声を出す。
そんなリリモンを、友樹が岩に座らせた。
「でも、そのためにリリモンが無茶することないよ。僕達がスピリットを探してるのは、この世界に住むデジモン達を守るためだもん」
俺も負けないように口をはさむ。
「そうだよ。さっきの話じゃ、ハニービーモン達も敵に狙われてるかもしれないだろ? 万が一俺達が襲われて、リリモンにもしもの事があったら大変だ」
「じゃあ、今日の所はここで野宿にしようぜ」
純平がそう言って立ちあがった。
「僕、食べ物探してくるよ」
「俺も行く」
友樹と輝一が外に出ていく。
「なら俺は寝るのに落ち葉でも探してくるよ。信也はどうする?」
「することもないし、一緒に行くかな」
純平の言葉に、俺も立ちあがった。
「気をつけてね」
リリモンの言葉に、背筋が伸びる。
「心配ないって! すぐに戻るから休んでてくれよ」
俺はそう言って笑った。
ふと見ると、泉だけが地面に目を落として動かない。
「泉ちゃん? もしかして具合悪いのか!?」
純平がすかさず駆け寄る。
泉は急に顔を上げて、笑顔になった。
「ううん。ちょっとぼうっとしてただけ。私も食べ物探しにいこうかな」
そう言って、泉は立ちあがって出ていった。
―――
しばらく歩いた所で、私は湖のそばに腰を下ろした。夕日に光る波を見ながら、小さく息をつく。
信也も友樹も純平も輝一も……あのリリモンって子を甘やかしすぎなんじゃないかしら。
信也はリリモンに話しかけるたびに顔を赤くしてる。友樹もちらちらと目線を送ってるのがバレバレ。純平が女の子に弱いって事は昔から知ってる。輝一は、もしかしたら持ち前の優しさが出てるだけなのかもしれないけど。
それにしても、みんなリリモン、リリモンって。私だけ置いてけぼりにされてるみたいな気分。
それとも……私なんかよりリリモンの方がかわいいからちやほやしてるの?
それとも、私が一人だけ女の子だから、みんなと考え方が違うの?
『じゃあ、私とあんたのどっちがかわいくてどっちが強いか、決着をつけてやるわ』
急に3年前の事を思い出した。巨大なセフィロトモンの中で、彼女と最後の決着をつけた時の事。
彼女とは会うたびに戦っていた。お互いに女の子の相手はお互いしかいなくて、だから自然とライバルみたいになっていった。女の子としての意地を、お互いにぶつけあっていた。
今になって考えてみると、私と彼女はまともにじっくり話した事なんてなかった。もちろん、敵同士だったんだから当たり前なんだけど。
それに彼女はわがままだしいつも自分の事ばかり考えてたし、少し話す事はあっても、すれちがって、すぐに戦いに発展してしまった。
このエリアに来るのも、正直気が進まなかった。ここに来たら、彼女と会わなきゃならないのは間違いなかったから。
でも今は。
あの日と同じような湖を見ながら、私はつぶやいた。
「女の子として、ゆっくり話をしたいかな」
なんて。
顔を上げると、もう夕日が沈みかけていた。そろそろ戻らないと。
私は湖のほとりを歩いて、みんなの所に戻ることにした。
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信也の心情を書くのに、いちいち甘くて甘くて私が辛い……。こんな文章レベルですがね。でも書いててちょっと楽しいからよし。(?)
恋愛感情を普通に書けるようになりたいです。